「SSTのプリントを用意したけれど、鉛筆が動かない」「質問しても『わからない』で終わる」「説明を重ねるほど、取り組みにくそうになる」――そんなとき、どう進めればよいか迷うことはありませんか。
プリントに取り組みにくい背景には、読む・書くことの負担、場面や質問の分かりにくさ、疲れ、今は取り組みたくない気持ちなど、さまざまな可能性があります。「書かない=考えていない」「答えない=やる気がない」と決めつけず、教材や参加方法を見直すことから始めましょう。
この記事では、放課後等デイサービスや特別支援学級で使える、書かずに選ぶ・置く・伝える方法を紹介します。プリントを完成させることだけでなく、本人が考えや希望を表し、その表現に大人が応じる経験を大切にします。
- 取り組みにくさを確かめる視点
- 手元のプリントでも試せる、書かない参加方法
- 架空の調整例3つと職員の応答
- 活動中のやり取りを日常につなげる方法
無料で使えるプリント自体を探している方は、学校生活を題材にしたSSTワークシート4枚の紹介記事も参考にしてください。今回は、用意した教材の使い方を調整することに焦点を当てます。
※この記事には、筆者が制作した有料教材の紹介を含みます。本文中の使用例は、調整の考え方を示すための架空の例であり、実際の成果や効果を保証するものではありません。
SSTのプリントに取り組みにくいとき、まず確かめたいこと
すぐに別の教材を用意する前に、「どの部分が負担になっていそうか」を確かめます。同じように手が止まっていても、文字を書くことが難しい場合と、質問の意味が分からない場合では、必要な調整が異なります。
本人に尋ねられる場合は、短い言葉や本人が使いやすい方法で確かめましょう。答えが得られなくても原因を一つに決めず、調整を一つ試し、その後の様子を見ます。
| 見られる様子・確かめたいこと | 試せる調整 |
|---|---|
| 口頭では伝えられるが、記入欄で手が止まる。書く量や動作が負担になっていないか。 | 指さしや口頭で答えられるようにする。必要なら、本人に確認して職員が代筆する。 |
| 文章を何度も読み直している。言葉や文の長さが分かりにくくないか。 | 一文ずつ読む。短い言葉に言い換える。本人の希望を確かめて読み上げる。 |
| 絵を見ても場面がつかめない様子がある。誰が何をしている絵なのか伝わっているか。 | 登場人物や物を一つずつ確認する。本人に身近な実物や短い実演に置き換える。 |
| 「どう思う?」「なぜ?」で答えが止まる。自由に説明する負担が大きくないか。 | 質問を具体的にする。必要に応じて少数の選択肢を示し、「どれでもない」「わからない」も受け止める。 |
| 紙から顔をそむける、席を離れる、疲れた様子がある。休息や中断が必要ではないか。 | 質問を重ねず、休憩や終了を提案する。時間・場所・課題量も見直す。 |
読む・書くことと、考えを表すことを分ける
「困ったときにどうしたいか」を考える活動でも、文章を読み、考えを整理し、文字にするという複数の作業が含まれています。書くところで負担が大きいなら、回答方法を変える余地があります。
例えば、「手伝ってほしいことを書こう」を「手伝ってほしいところを教えて」に変え、プリントの該当箇所を指してもらう方法です。活動の目的が援助を求めることなら、文章を書くことを援助の条件にしません。
場面や質問の意味が伝わっているか確かめる
大人には分かりやすい絵でも、子どもが同じように捉えているとは限りません。「この子はどんな気持ち?」と尋ねる前に、「ここには何がある?」「この人は何をしているところかな」と、見えている内容を確かめます。
ただし、確認の質問を次々に重ねると、それ自体が負担になることもあります。分かりにくそうなら、大人が短く説明したり、別の場面に変えたりして構いません。
疲れや「今はやりたくない」も受け止める
学校から来所した直後など、活動より先に休息が必要な場合もあります。教材を簡単にすれば必ず取り組める、と考える必要はありません。
「少し休む?」「今日はここで終わりにする?」と確かめ、休むことや中断することも選べるようにします。再開するかどうかは、時間がたったときの本人の様子や意思を改めて確かめます。
SSTのプリントに、書かずに取り組む5つの方法
新しい教材を一から作らなくても、質問の出し方や回答方法を変えられる場合があります。次の方法から、本人に合いそうなものを一つ選んで試してください。

1.絵や選択肢を指さす
記入する代わりに、プリントの絵や選択肢を指して伝える方法です。情報が多い場合は、使う部分だけを見せるなど、見やすさも調整します。
指した後は、「こちらを選んだんだね」「手伝ってほしい、で合っている?」と短く確かめます。毎回言葉で言い直させたり、選んだ理由を必ず説明させたりする必要はありません。
大人が用意した選択肢に本人の希望がないこともあります。選ばない、別のものを示す、首を振るといった反応も受け止めましょう。
2.カードを選んで置く
選んだカードを机や台紙に置く方法です。置く場所や枚数は複雑にしすぎず、「今の希望を一つ置く」など、何をする活動なのかを短く伝えます。
カードを置いた後で変えても構いません。「やっぱりこちらなんだね」と受け止め、最初の選択を固定しないようにします。
カードをつまむ、持ち上げる、貼るといった動作自体が負担になる場合は、指さしや本人の合図に合わせて職員が動かす方法に変えます。操作型なら誰にでも合う、というわけではありません。
3.言葉や身ぶりで伝え、必要なら職員が代筆する
本人が話した内容を、職員が記入する方法もあります。「今の言葉を書いておいてもいい?」と確認し、できるだけ本人の表現を残します。
身ぶりから受け取った内容は、大人の解釈が含まれます。「こういうことかな」と確かめ、分からない部分をもっともらしい文章で埋めないことが大切です。
活動記録では、「本人が言ったこと・したこと」と「職員が考えたこと」を分けて残します。
4.実物や短い実演で確かめる
絵の場面がつかみにくいときは、身近な物を使って示す方法があります。例えば、道具を借りる場面なら実際の鉛筆を使い、職員が短いやり取りの見本を示します。
本人が見てみたいか確かめ、演じることを求めず、見るだけの参加も用意します。練習のために必要な物を隠したり、援助をわざと遅らせたりして困らせる必要はありません。
5.一問に絞る・見るだけにする・休む
一枚すべてに取り組む必要があるか、活動の目的に戻って考えます。今の本人に関係する一問だけを使う、職員の見本だけを見る、その日は休むという調整もできます。
「一問できたから、もう一問」と予定を増やすより、始める前に示した終わりを守ることを大切にします。途中で負担が大きくなった場合は、予定より早く終えて構いません。
見本:活動中の希望を伝える意思表示カード

カードは、出せたことを評価して終わるものではありません。「てつだって」なら援助を相談する、「やすみたい」なら休み方を確かめるなど、表された意思に大人が応じるところまでが一続きの支援です。
カードが出なかった場合も、必要な援助を控えません。本人の様子や普段の合図を手がかりに、大人から支援を提案します。
手元のプリントを使った、架空の調整例3つ
ここからは、教材の使い方を変える例を紹介します。いずれも架空の場面です。同じ方法で同じ反応が得られるとは限らないため、本人の意思や反応に合わせて調整します。
例1:「困ったときどうする?」に文章で答えにくい
場面:「宿題で分からないところがあったらどうしますか」という設問の前で、鉛筆が止まっています。職員が「書いてみよう」と促しても、記入は進みません。
調整:文章を書くことはいったん外し、本人が使いやすい知らせ方を確かめます。職員が「分からないところを見せてもいいよ」と伝え、本人が指した箇所を一緒に見ます。
本人が練習してみたい場合は、「プリントを見せる」「手伝ってと伝える」「カードを使う」などから使いやすい方法を探します。すべてを覚える必要はありません。
職員の応答:「ここが分かりにくいんだね。一緒に最初のところを見ようか」と、実際の手助けにつなげます。声の大きさや言い方を整えてから助ける、という順番にはしません。
反応がない場合:知らせ方を選ばせ続けず、「ここを一緒に見てもいい?」と大人から提案します。援助が必要な場面では、合図の練習より先に支援を届けます。
例2:友達との場面を見ても「わからない」と答える
場面:二人の子が同じ玩具を使いたがっている絵を見て、「この子はどんな気持ち?」と尋ねると、「わからない」と答えます。
調整:相手の気持ちを当てる質問を続ける前に、「二人ともこの玩具を使いたい場面なんだね」と状況を短く確認します。そのうえで、「自分ならどうしたい?」と本人の希望に焦点を移します。
必要なら、「順番を相談する」「別の遊びをしながら待つ」「職員に相談する」などの方法を絵や実物で示します。ただし、大人が並べた選択肢以外の希望や、「まだ決めていない」も受け止めます。
職員の応答:「今すぐ使いたいんだね。今使っている人の希望も聞いて、どうするか一緒に考えよう」と、双方の意思を確かめます。一人に譲ることや我慢することだけを求めません。
反応がない場合:絵の場面が本人に身近でない可能性も考えます。別の題材に変える、その日は終えるなど、設問への回答にこだわらず進め方を見直します。
例3:来所後、疲れていてプリントを始められない
場面:来所後にSSTの時間を予定していましたが、本人は机に伏せ、プリントから顔をそむけています。
調整:活動を始めることより先に、今の過ごし方を相談します。「少し休む?」と短く伝え、本人に合えば「やすみたい」「まだきめていない」などのカードも使います。
職員の応答:休みたい意思が確認できたら、休める場所や過ごし方を一緒に確かめます。「一問答えたら休める」という条件はつけません。
反応がない場合:カードを見せ続けず、静かに過ごせる環境を整えます。体調や安全面も確認し、必要な対応を優先します。再開するときも、本人の意思を改めて確かめます。

プリントの答えを、日常のやり取りにつなげる
活動で選べた方法が、そのまま日常でも使えるとは限りません。場所や相手、疲れ具合が変わると、必要な支援も変わります。
例えば、活動中に「てつだって」のカードを使ったなら、宿題の時間にも手の届く場所に置きます。別の職員が担当するときは、どのような表現があったか、どう応じたかを共有します。
職員間では「合図」と「応答」を一緒に共有する
- 本人は、言葉・指さし・身ぶりなど、どのように表したか。
- 職員は何を確認し、どのような援助や環境調整を行ったか。
- その後、本人にどのような様子が見られたか。
- 次の場面では、何を用意し、何を確かめるか。
記録するのは、完成した枚数や正答数だけではありません。本人の表現と、大人の対応を残すことで、次に試す支援を具体的に考えられます。
記録例:事実と職員の考えを分ける
【架空の記録例】
事実:記入を求めたときは鉛筆を置いていた。職員が「困っているところを教えて」と伝えると、二問目を指した。「ここを一緒に読む?」と尋ねるとうなずいたため、一文ずつ確認した。
職員の考え:文章で説明する方法は負担が大きかった可能性がある。理由はまだ確認できていない。
次回:書く以外の回答方法も最初に示し、本人が選べるようにする。
活動パックの日常への接続ガイドは、来所直後の過ごし方、工作や宿題、遊びの終わりなど、生活場面で本人の意思や大人の応答を考えるための資料です。活動中の練習と、生活場面で必要な支援を行き来する際に使います。
教材を毎回作り直す負担を減らしたいとき
一人の子に、一つの場面で試すなら、手元のプリントや簡単な手作りカードから始められます。最初から多くの教材をそろえる必要はありません。
無料教材を使いたい場合は、SST絵カード「あいさつ」と指導資料の紹介記事も参考になります。教材ごとの利用条件を確認し、本人に合う使い方を考えてください。
一方で、複数の子どもや場面に合わせて教材を探し、設問を作り、職員同士で進め方を共有することに負担を感じる場合は、教材とガイドをまとめて準備する方法もあります。
児童用教材に加えて、職員の応答を確認できるガイド
筆者が制作した「放課後等デイサービス向け|SST・コミュニケーション活動パック」では、子どもが使う教材と、職員が進め方を確認する資料を組み合わせています。

例えば、援助を求める活動では、「どんな教材を使うか」だけでなく、「本人が言葉で答えないときはどうするか」「知らせてくれたら職員はどう応じるか」も考える必要があります。ガイドは、その準備や職員間の共有の手がかりになります。
教材がそろっていても、本人に合うものを選び、量や環境を調整することは必要です。この活動パックも、個別の実態把握や支援の検討を代わりに行うものではありません。
本人に合う教材と、職員の関わり方を一緒に準備したい方へ
放課後等デイサービス向け|SST・コミュニケーション活動パック
12活動を軸に、ワーク・絵カード・場面プリント・操作型教材・職員用ガイドなどを収録した、163PDF・488ページの教材パックです。
- 困っている場面や使う目的から、教材を探したい。
- 指さしやカードなど、発話以外の参加方法も用意したい。
- 本人の意思を受け止める応答を、職員間で共有したい。
- 活動と、宿題・自由遊びなどの日常場面をつなげたい。
販売ページに教材見本と収録内容を掲載しています。必要な教材やガイドが含まれているか、価格・利用条件と合わせて確認してください。
※163PDFはファイル本数です。163種類の活動や163枚のカードという意味ではありません。教材の使用による特定の成果を保証するものではありません。
SSTのプリントに取り組みにくいときの、よくある質問
プリントは最後まで完成させた方がよいですか?
目的と本人の状態に合わせて考えます。援助の求め方を一つ確かめられた、休みたい意思を伝えられたなど、記入欄が埋まらなくても大切なやり取りが生まれる場合があります。
書くこと自体を扱う活動なら、その目的を分けて計画します。SSTの時間に、文章の量や文字の整い方まで一度に求めすぎないようにしましょう。
選択肢を見せると、答えを誘導してしまいませんか?
大人が用意した選択肢には、どうしても大人の考えが含まれます。そのため、「この中になければ別の方法でもいい」「まだ決めなくてもいい」と伝え、選び直しも受け止めます。
大人が望むものを選ぶまで質問を繰り返すことは避けます。本人が選んだ内容を確認し、実際にどう対応できるかを一緒に考えます。
指さしやカード選びもしない場合はどうしますか?
その方法が分かりにくい、動作が難しい、選択肢に希望がない、今は答えたくないなど、複数の可能性があります。反応がないことを同意と捉えず、質問や提示を減らして様子を確かめます。
普段の伝え方を知る職員とも共有し、本人が使い慣れた方法を探します。必要な援助や安全の確保は、合図が出るまで待つ条件にはしません。
書かない活動では、何を記録すればよいですか?
何を提示したか、本人がどう表したか、職員がどう応じたか、その後の様子を記録します。「理解できた」「やる気がなかった」とまとめる前に、実際に見聞きしたことを残します。
例えば、「二つの選択肢から休憩の絵を指した。職員が休める場所を示すと、自分で移動した」のように記録すると、次の支援を考える手がかりになります。
まとめ|本人が表せる方法と、大人の応答をセットで考える
SSTのプリントに取り組みにくいときは、まず、読む・書く負担、場面や質問の分かりやすさ、疲れや本人の意思を確かめます。
- 書くことが負担なら、指さし・カード・代筆などに変える。
- 質問が難しければ、場面を具体的にし、一つずつ確かめる。
- 選ばない、決め直す、休むという意思も受け止める。
- 本人の表現に職員が応じ、必要な援助につなげる。
- 日常でも使える方法を考え、職員間で応答を共有する。
次の活動では、負担になっていそうな部分を一つ変えてみてください。例えば、「文章で答える」を「指して知らせる」に変えるところから始められます。
本人がどのように表したかだけでなく、それを受けて大人がどう応じたかまで振り返る。その積み重ねを、本人に合う教材と関わり方を探す手がかりにしていきましょう。


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