「また崩れた」
クールダウンスペースを作った。感情カードを用意した。崩れた後に一緒に振り返る時間も設けた。それでも毎週同じように崩れる。
このような経験をお持ちではないでしょうか。
支援がうまくいかないとき、多くの場合、問題は「手立て」ではありません。問題は「なぜ崩れるのか」を探らずに対応していることにあります。
この記事では、特別支援学級担任として18年間関わってきた経験をもとに、癇癪・パニックの背景を探る視点と、個別の指導計画への落とし込み方を解説します。
癇癪とパニックは別物——対応を間違えると悪化する
まず最初に確認したい重要な点があります。現場で「癇癪」と「パニック」は混同されがちですが、この2つは性質が異なり、対応の方向が逆になることがあります。
対応を間違えると、状態をさらに悪化させてしまいます。
癇癪の特徴と起きやすい場面
癇癪は、要求が通らない・思い通りにならないときに起きる、感情の激しい表出です。ある程度「目的」がある場合があります。
- 「やってほしいことをやってもらえない」「ゲームを終わりにしたくない」など要求が通らないとき
- 勝負に負けた、順番が来なかったなど「思い通りにならない」場面
- 注目を集めたい、要求を通したいという「目的」が背景にあることがある
癇癪のとき、「なぜそうなったか」を落ち着いた後に振り返ることが有効な場合があります。

パニックの特徴と起きやすい場面
パニックは、感情・行動の制御が崩壊した状態です。「目的」よりも「状態の崩壊」に近く、本人も止めたくても止められない状態になっています。
- 予定が急に変更された・知らされなかった
- 感覚的な刺激(音・光・混雑)が過負荷になった
- 強い不安・恐怖が引き金になった
- ストレスが積み重なって限界を超えた
パニック中に「なぜそういうことをするの?」と問いかけることは、状態をさらに悪化させます。まず安全を確保し、刺激を減らして待つことが最優先です。
見分け方のポイント
両者の区別が難しいときは、次の点を確認します。
- 「特定の場面・条件で繰り返し起きるか」——毎回同じ状況なら背景要因を探る手がかりになる
- 「要求が通ると収まるか」——収まる場合は癇癪的要素が強い
- 「本人が止めようとしているが止められないか」——止められない状態はパニックに近い
- 「崩れた後、本人がどんな様子か」——強い羞恥心・疲弊があればパニックに近い
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この記事では癇癪・パニックの背景を探る視点を紹介します。9つの視点で体系的に整理したフレームワーク・記入式ループシート・個別の指導計画記入例10パターンはnoteの実践パックで提供しています。
「また崩れた」——私が間違えていた仮説
Bくんのことを話したいと思います。
毎週水曜日に崩れる子がいました。大声で泣き叫び、床に倒れ込む。10〜15分続きます。

私は最初こう考えました。「感情のコントロールが難しい子だ。」
クールダウンスペースを設け、感情カードを使いました。崩れた後に振り返りもしました。
変わりませんでした。毎週水曜日に、同じように崩れました。
そこで記録を見直したとき、あることに気づきました。
水曜日だけに起きていました。そして水曜日は「体育の後に予定変更の告知が入ることがある日」でした。告知が入った日だけ、Bくんは崩れていました。
これは「癇癪」ではなかったのです。「見通しが崩れたことによるパニック」でした。
私が「感情コントロールの問題」と解釈した瞬間、「なぜ水曜日だけなのか」を探る目が閉じていました。
仮説を「見通しのなさへのパニック」に変えて、変更がある日は必ずBくんに直接・事前に伝えるようにしました。次の水曜日、変更があっても崩れませんでした。Bくんは「わかった。でも図工が楽しみだったのに」と言葉で伝えてくれました。
言葉が出た。行動でしか表せなかったことが、言葉になりました。
この間違いは誰にでも起きます。「また崩れた子」という見方が固まると、「なぜ崩れるのか」を探る目が閉じてしまうからです。
癇癪・パニックの背景を探る視点
「また崩れた」という教師の困り感から始まっても、最終的には「この子は今、何に困っているのか」にたどり着くことが支援の出発点です。次の3つの視点で整理します。
①場面を具体化する問い
まず「いつ・どんな場面で・何がきっかけで起きているか」を記録します。
- どの時間帯・曜日・場面に多いか
- 前兆はあるか(声が大きくなる・落ち着きがなくなるなど)
- 何がきっかけになったか(言葉・出来事・感覚刺激)
- どのくらいの時間続くか
Bくんのケースのように、「水曜日だけ」というパターンが見えたとき、背景への仮説が立てやすくなります。
②本人は何に困っているか——5つの背景要因
教師は「授業が止まる」「他の子に影響が出る」と困っています。しかし本人は何に困っているのでしょうか。主な背景要因は5つです。
感情調整要因
気持ちを言葉にする前に行動が出てしまう。「悲しい」「怖い」「イライラする」を言語化できず、崩れることでしか表現できない状態。
感覚要因
特定の音・光・感触が過負荷になりパニックが起きる。「こわかった」「なんか嫌だった」という言葉で表現されることがある。聴覚過敏・視覚過敏が背景にある場合。
認知要因(見通しのなさ)
次に何が起きるかわからない・予定が変わるという状況でパニックになる。「世界が崩れた」感覚になることがある。Bくんのケースはこれ。
情緒・対人要因
否定された・拒絶されたと感じた。特定の人・場面への強い反応。過去の傷つき体験が背景にある場合もある。
環境要因
刺激量が多すぎる・安心できる場所がない・事前予告なしの変更が積み重なっている。
③環境要因を先に疑う
癇癪・パニックが多い子ほど「この子の特性の問題」として見られがちです。しかし実際には、事前予告の徹底・スケジュールの視覚化・クールダウンスペースの確保・刺激量の管理だけで、頻度が大きく変わるケースは少なくありません。

「またこの子が崩れた」と思う前に、「今日の環境・場面はどうだったか」を先に問います。
癇癪・パニック対応の3段階
段階① パニック・癇癪が起きているとき(その場の対応)
- 指示・説得・叱責をしない(状態が悪化する)
- まず安全を確保する
- 刺激を減らす(静かな場所へ・人を遠ざける)
- 言葉がけは最小限に(声のトーンを落として短く)
- 「待つ」ことが支援である
特にパニック中は「なぜそういうことをするの?」という問いかけは逆効果です。状態が落ち着いてから振り返ります。
段階② 予防的環境調整(起きにくくする工夫)
- 予定変更の事前予告を徹底する(全体への告知だけでなく本人への直接告知)
- スケジュールを視覚化して朝に一緒に確認する
- 刺激量が増える場面(体育後・行事前後)の把握と事前準備
- クールダウンできる逃げ場(場所・許可のある行動)を確保する
段階③ スキル支援(落ち着いているときに行う)
- 感情の言語化練習(気持ちのバロメーター・感情カード)
- 「限界のとき」を伝えるサインをつくる(カード・ジェスチャー)
- クールダウン方法を本人と一緒に見つけ、練習する
支援の目的は「癇癪をなくすこと」ではありません。本人が自分の状態に気づき、崩れる前に誰かに伝えられるようになることです。
📙 癇癪・パニック 支援実践パック|困り感分析から個別の指導計画まで
この記事で紹介した「背景の見立て」を、現場で実践するための実践ツール一式です。
18年の現場経験をもとに、困り感分析から個別の指導計画記入例まで一本の線でつながっています。
【パック内容・4点】
| 内容 | 説明と魅力 |
| ①困り感分析 フレームワーク | 癇癪とパニックの区別・9つの視点で背景を体系的に整理・自立活動との接続・支援者自身への問い。「見立て」の思考の型を完全収録。 |
| ②ループシート 記入例 | Bくんの「毎週水曜日に崩れる」ケース。「感情コントロールの問題」という最初の仮説が外れ、「見通しのなさへのパニック」に気づくまでの全記録。失敗→修正の流れが見える。 |
| ③ループシート 書き込み式 | 実際の子どもに使える記入式シート。STEP1〜5のループを1枚で回せる。ブラウザでデジタル入力も、印刷して手書きも対応。 |
| ④個別の指導計画 記入例10パターン | 感情調整・感覚・認知・情緒・環境の5要因別に2パターンずつ。目標・手立て・評価のフルセット。「なぜこの目標か」の背景分析から書いてあるため、次の子に自分で応用できる。 |
【実践前と実践後】
| 実践前 | → | 実践後 |
| 「また崩れた」と感じるたびに同じ対応を繰り返す | → | 崩れのパターンを記録・分析して仮説を立てられる |
| 癇癪とパニックの区別ができていない | → | 区別して適切な対応を選べるようになる |
| 個別の指導計画に何を書けばいいかわからない | → | 10パターンから背景に合ったものを選んで書ける |
| ケース会議で「どうしましょう」しか言えない | → | 「見通しのなさへのパニックのため、この目標でこう支援しています」と説明できる |
個別の指導計画への落とし込み方
背景要因が見えたとき、それを個別の指導計画にどう書くかで多くの先生が止まります。
例えば「見通しのなさへのパニック」という見立てが立ったとき、記入例(パターン5)はこのように書きます。
【現在の学習状況と課題】
予定変更への抵抗が強く、急な変更でパニックが起きることがある。スケジュールの視覚化と事前予告が有効と考えられる。
【目標(自立活動)】
予定変更があったとき、カードや言葉で「どうなるか」を確認することができる。
【手立て】
・スケジュールの視覚化と朝の確認習慣
・変更の事前直接告知の徹底
・確認カードの活用
【評価】
変更時の確認行動の回数を記録し、月1回振り返る。
このように「背景要因→自立活動の区分→目標→手立て→評価」が一本の線でつながることが、実践パックのすべての記入例に共通しています。
単なる文例集との違いは、「なぜこの目標になるか」という背景分析から書いてあることです。そのため、次の子どもに自分で応用できます。

支援がうまくいかなかったときの問い直し方
支援を試みてもうまくいかないことは「失敗」ではありません。仮説を更新するサインです。
次の順番で問い直します。
①仮説は正しかったか
崩れのパターン(曜日・場面・前後の出来事)が変化したか確認します。「感情コントロールの問題」だと思っていたが「実は感覚要因だった」というように、最初の仮説が外れることがあります。外れた仮説は情報です。「これではない」という確認ができた、と考えます。
②手立ては本人に合っていたか
クールダウンスペースを設けたが本人が使わない、感情カードを嫌がる——手立ての「方向性」は正しくても「方法」が合っていない場合があります。本人が受け入れられる形に変えます。
③本人の状況は変化していないか
先月はうまくいっていたが今月は崩れる——家庭環境・体調・季節・人間関係の変化が影響していることがあります。今の情報で仮説を更新します。
同じ支援を2週間以上続けて変化がない場合は、仮説を疑うタイミングです。
そして最後に、自分自身への問いを忘れないようにします。
- 私はパニック中に「落ち着かせよう」とするあまり、さらに刺激を与えていなかったか
- 私は「また崩れた」という目で見ることで、崩れる前の前兆を見落としていなかったか
- 本人の羞恥心・自己嫌悪に、十分に目を向けていたか
✅ 「書けない」を「書ける」に変える実践パック
この記事で紹介した「背景の見立て」は、観察と仮説のための入り口です。
「どの背景要因に対してどう目標を書くか」「ケース会議でどう説明するか」——その変換が、noteの実践パックに入っています。
癇癪・パニックだけでなく、5テーマまとめたセット版もあります。
立ち歩き/切り替えが苦手/友達とのトラブル/指示が通りにくい
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