授業中に立ち歩く子どもへの対応に、こんな経験はありませんか。
「席に戻りなさい」と声をかける。一度は戻る。しばらくするとまた立ち歩く。このくり返しが続いている。視覚支援を試した。座っていられたら褒めた。でも根本的には変わらない。
もし「手立てをいくら変えても変わらない」と感じているなら、問題は手立ての種類ではないかもしれません。問題は、「なぜ立ち歩くのか」を探らずに対応していることにある可能性があります。
この記事では、特別支援学級担任として長年関わってきた経験をもとに、立ち歩きの背景を探る6つの問いを紹介します。この問いが、支援の方向を変えます。
授業中に立ち歩く子への「よくある誤解」
「やる気がない」「わがまま」は解釈である
立ち歩きという行動を見たとき、多くの場合こう解釈されます。
- やる気がない
- わがままだ
- しつけができていない
- 注意すれば直る
これらはすべて、行動の「表面」を見た解釈です。
「授業中に席を離れて歩いた」は事実です。しかし「やる気がないから歩いた」は解釈です。この二つを混同した瞬間、行動の奥を見ようとする目が閉じてしまいます。
解釈が固まると、観察が止まります。「やる気がない子だ」と決めつけた後は、「なぜ立ち歩くのか」を探ろうとしなくなります。そしていくら手立てを変えても、同じことが繰り返されます。
立ち歩きには必ず「機能」がある
立ち歩きという行動には、必ず理由があります。行動分析の視点では、これを「行動の機能」と呼びます。
大きく分けると、行動には「何かを避けている」か「何かを得ている」機能があります。
- 難しすぎる課題を避けている
- 騒音・光などの感覚的な刺激から逃れようとしている
- 動くこと自体の感覚を得ようとしている(前庭覚・固有覚の充足)
- 教師や友達の注目を得ようとしている
どの機能かによって、支援の方向は全く変わります。「視覚支援を使いましょう」「褒めましょう」という一般的な対応が効かない場合、その子の立ち歩きの機能に合っていない可能性があります。
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この記事では6つの問いをご紹介します。9つの視点で体系的に整理したフレームワーク完全版と、実際の子どもに使える記入式ループシートはnoteで提供しています。
立ち歩きの背景を探る「6つの問い」
立ち歩きという行動を見たとき、すぐに対応を考える前に、次の6つの問いを立ててみてください。
この問いを通じて「教師の困り感(授業にならない)」から「本人の困り感(何に苦しんでいるか)」に視点を移すことができます。
問い① いつ・どんな場面で起きるか
まず「いつ・どの教科・どんな活動のときに立ち歩くか」を記録します。
- 算数のときだけ起きるか、どの授業でも起きるか
- 書く活動のときに多いか、聞く活動のときに多いか
- 午前中に多いか、午後に多いか
「どの場面で起きるか」のパターンが見えると、背景の仮説が立てやすくなります。
問い② 何分後に起き始めるか
授業が始まってから何分後に立ち歩くかを確認します。
「毎回、開始から10分後に起き始める」なら、注意の持続時間の問題が背景にある可能性があります。「指示を出した直後に起きる」なら、指示の理解に問題がある可能性があります。時間のパターンは、重要な情報です。
問い③ どこへ向かうか
立ち歩いた後、その子はどこへ向かうかを確認します。
- 窓際へ向かう → 外を見たい・刺激から離れたい
- 特定の友達のそばへ → 関係性・注目の問題
- 教室の外へ → 場の刺激量が多すぎる可能性
- どこへとなく歩く → 感覚刺激(動くこと自体)を求めている可能性
向かう場所が、「何を得ようとしているか」を示す手がかりになります。
問い④ 直前に何が起きていたか
立ち歩く直前に何があったかを確認します。
「課題を渡された直後」「長い説明の後」「友達とやりとりがあった後」——直前の出来事が、行動のきっかけになっている場合が多くあります。
特に「課題を渡した直後に立ち歩く」場合は、課題の難易度・量が合っていない可能性を先に確認します。
問い⑤ 何を避けている・何を得ているか
行動の機能を整理します。
避けているもの(逃避・回避)
- 難しすぎる課題・活動
- 特定の感覚刺激(騒音・光・においなど)
- 失敗・注目されること
得ようとしているもの(獲得)
- 動くこと自体の感覚(前庭覚・固有覚の充足)
- 教師・友達からの注目・反応
- 特定の場所・人への接近
「避けている」と「得ている」は同時に成立することもあります。たとえば「課題を避けながら、同時に動く感覚を得ている」ケースです。
問い⑥ 本人は何に困っているか(最重要)
ここが、支援の方向を決める最も大切な問いです。
教師は「授業にならない」と困っています。では立ち歩いている本人は、何に困っているのでしょうか。
- 椅子に座り続けることが、体につらいのかもしれない
- 課題が難しすぎて、「わからない」まま座っていられないのかもしれない
- 周囲の音や光が多すぎて、その場にいることが苦しいのかもしれない
- 何をすればよいかわからず、手持ち無沙汰になっているのかもしれない
- 不安や緊張が高まって、動くことでしか落ち着けない状態かもしれない
この問いに本気で向き合ったとき、「やる気がない」とは全く異なる景色が見えてきます。本人の困り感が見えたとき、支援の方向は自然と変わっていきます。
授業中の立ち歩きの主な背景要因
6つの問いから浮かび上がった仮説を、背景要因のカテゴリーで整理します。
感覚・身体の問題
- 前庭覚・固有覚の調整困難:じっとしていること自体が体につらい状態。動くことで感覚を調整しようとしている。
- 聴覚過敏・視覚過敏:教室の騒音や光の刺激が多すぎて、その場にいることが苦しい。
- 触覚過敏:椅子の感触や衣類の刺激が不快で、じっとしていられない。
認知・注意の問題
- 課題の難易度が高すぎる:「わからない」「できない」状態から逃げるために離席する。
- 見通しのなさ:何分やればよいか、次は何かがわからず、不安から動いてしまう。
- 注意の持続困難:一定時間以上の注意持続が難しく、衝動的に動いてしまう(ADHD的特性)。
環境の問題(まず環境を疑う)
立ち歩きが多い子ほど「この子の特性の問題」として見られがちですが、まず環境要因を確認することが大切です。
- 座席の位置(出入り口の近く・特定の子の隣など)
- 教室の刺激量(騒音・視覚的な情報の多さ)
- 課題量・難易度の設定
- 見通しの提示(タイムタイマー・スケジュール)の有無
座席を変えた、課題量を減らした、タイムタイマーで見通しを提示した——それだけで立ち歩きが大きく改善するケースは少なくありません。本人を変えようとする前に、まず環境を変えてみることが最初の一手です。
「課題を簡単にしたのに、変わらなかった」
2年生のAくんの話です。算数の授業中に立ち歩くことが週3〜4回見られました。
私は最初こう考えました。
「算数が難しすぎて、課題から逃げているんだろう。」
課題を半分にして、難易度も下げました。2週間観察しました。
変わりませんでした。
そこで改めて記録を見直したとき、あることに気づきました。
体育の後と、雨の日に、必ず立ち歩いていました。晴れた静かな日は比較的座っていた。課題の難易度には関係がなかった。
Aくんが「なんか気になっちゃう」と言っていた言葉が、突然意味を持ち始めました。感覚過敏がある子は、自分のつらさを「うるさい」と言えないことがあります。「なんか気になる」という言葉で表現することがある。
教室が騒がしくなる日にだけ立ち歩いていた。原因は課題の難易度ではなく、聴覚的な刺激だったのです。
仮説を修正して、座席を壁際に変えた。翌週、Aくんは体育後の授業で座っていました。
私は2週間、誤った仮説で支援していました。6つの問いのうち「どんな日に起きるか」「本人はどう言っているか」に早く目を向けていれば、もっと早く気づけたはずです。
この間違いは、誰にでも起きます。現場は忙しく、じっくり観察する時間はない。だからこそ、「何を観察すべきか」の型を最初から持っておくことが必要です。
Aくんのケースで実際に書いたループシートの記録と、「聴覚過敏」という見立てから個別の指導計画に落とし込むまでの全プロセスは、noteの実践パックで公開しています。
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| 購入前 | → | 購入後 |
| 「また立ち歩いている」としか見えない | → | 「いつ・どこへ・何分後」の観察ポイントが明確になる |
| 個別の指導計画に何を書けばいいかわからない | → | 背景要因別10パターンの記入例から選んで書ける |
| 対応が毎回バラバラになる | → | 仮説を立てて試して修正するループが回せるようになる |
| ケース会議で「どうしましょう」しか言えない | → | 「感覚要因の可能性があり、この目標でこう支援しています」と説明できる |
【パック内容】
- 困り感分析フレームワーク完全版(9つの視点・自立活動との接続)
- 記入式ループシート白紙版(印刷対応・デジタル入力対応)
- ループシート記入例:Aくんのケース(課題要因→聴覚過敏への仮説修正の全記録)
- 個別の指導計画記入例 10パターン(感覚・課題・注意・不安・対人の5要因別)
本人の困り感から考える、支援の3つの方向性
背景要因の仮説が立ったら、支援の方向性を3つの層で考えます。
①環境調整(今日から試せること)
まず試すべきは環境の変化です。本人にスキルを教える前に、環境を整えることで解決できる場合が多くあります。
- 座席位置の見直し(刺激の少ない場所・立ちやすい壁際への変更)
- スタンディングデスクや姿勢調整クッションの導入
- 課題量・難易度の調整
- タイムタイマーや視覚的スケジュールによる見通しの提示
- パーテーションや耳栓などによる感覚刺激の軽減
②スキル支援(中期的な目標)
本人が「動きたいとき」を自分で申告できるようになることを目指します。
- 「動いていいカード」を使った自己申告の仕組みづくり
- 「席を離れたいとき」を言葉・カード・サインで伝える練習
- 自分の感覚・感情に気づく力を育てる活動(自立活動)
③関係・理解(すべての土台)
支援を機能させるための土台として、関係性をつくることが最も重要です。
- 立ち歩きを叱るのではなく「なぜ動いたか」を一緒に振り返る
- 本人が「わからない」「つらい」を安心して言える関係性をつくる
- 本人の「困り感」を一緒に言葉にしていく機会を設ける
支援の目的は「座らせること」ではなく、「本人が学びやすい状態をつくること」です。この視点の転換が、支援の質を変えます。
支援がうまくいかなかったときの問い直し方
支援を試みてもうまくいかないことは、「失敗」ではありません。仮説を更新するためのサインです。
次の3点を順番に確認します。
① 仮説は正しかったか
「感覚の問題だと思っていたが、実は課題の難易度だったかもしれない」——仮説が違えば、手立てを変えるのではなく仮説を変えます。
② 手立ては本人に合っていたか
環境調整の内容が、その子の状態に合っていたかを確認します。「クッションを試したが本人が嫌がった」「タイムタイマーが逆に気になってしまった」などのケースは、方法を変えます。
③ 今の状況は変化していないか
家庭環境や体調、季節の変化などで、子どもの状態は変わります。先月うまくいっていた支援が今月は効かない場合、本人の状況が変わっているサインかもしれません。
同じ支援を2週間以上続けて変化がない場合は、仮説を疑うタイミングです。「この支援はなぜうまくいかないのか」を考えることが、次の仮説への入り口になります。
立ち歩きの支援で、最後に問うべきこと
支援がうまくいかないとき、すべての原因を子どもの側だけに探していないか——この問いを持つことが、支援の質を一段上げます。
- 私は本人の困り感より、自分の困り感(授業にならない)を優先していなかったか
- 私は「できるはず」「座れるはず」という前提で見ていなかったか
- 私の関わり方(声かけ・席の位置・課題の量)が、立ち歩きに影響していないか
これらは自分を責めるための問いではありません。支援の照準を正しい場所に当てるための問いです。
立ち歩きをなくすことが目標ではありません。立ち歩きの奥にある本人の困り感を見つけ、その困り感が軽くなることで、立ち歩きは自然に変化していきます。
✅ 「書けない」を「書ける」に変える実践パック
この記事で紹介した6つの問いは、観察と仮説のための入り口です。
「どの背景要因に対してどう目標を書くか」「ケース会議でどう説明するか」——その変換が、noteの実践パックに入っています。
立ち歩きだけでなく、5テーマまとめたセット版もあります。
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