「自立活動」と聞くと、机に向かって取り組む個別課題やスキルトレーニングをイメージしませんか?もちろんそれも大切ですが、子どもたちの「できた!」という喜びや、仲間と分かち合う楽しさこそが、自立への大きな一歩になることがあります。
今回の授業参観では「楽しく体を動かそう」をテーマに、体育館での運動活動を通して、子どもたちの成長を見ていただきました。一見すると体育の授業のように見えるかもしれませんが、そこには「心と体の自己理解」や「他者とのかかわり方」「成功体験の積み重ね」といった、重要なねらいが込められています。
この運動あそびの時間は、単発で終わるものではありません。私たちは月に1〜2回、定期的にこの活動を行っています。継続して取り組むことで、子どもたちは活動の見通しを持ち、安心して参加できるようになり、その中で自信を深めていきます。
本記事では、実際に授業で行った活動や、その背景にある教師の「支援の視点」、そして保護者の方にこそ見ていただきたい「目当て」と「振り返り」の意味についてご紹介します。この記事を読んで、明日からの自立活動のヒントを見つけていただけたら嬉しいです。
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活動内容 みんなで楽しむ運動メニューと時間配分
授業では、子どもたちの集中力や活動の習熟度に合わせて、以下のような活動を組み合わせて行っています。各活動は10~15分程度を目安に、子どもの様子に合わせて調整することが大切です。
- 体育館を2周ウォーミングアップ(約5分)
- 体をほぐし、活動への意識を高めます。
- みんなでラジオ体操 or オリジナル体操(約5分)
- 全身運動で体を温め、リズム感を養います。
- 今日の「目当て」の確認(約3分)
- 視覚支援も活用しながら、今日の活動で意識してほしいことを共有します。
- リレー
- ボール遊び
- ドッチビー(フリスビーのような柔らかい円盤を使った遊び)
- 大縄跳び
- ボッチャ or ドッジボール
- 振り返り(約7分)
- 今日の活動で「できたこと」や「気づいたこと」を共有します。
上記のうち、④~⑦の活動からその日の子どもたちの様子に応じて2つ程度を選んで実施しています。
それぞれの活動が育てる“ちから”と“支援の視点”
運動あそびは、単に体を動かすだけではありません。それぞれの活動に、子どもたちの成長を促す大切な要素が詰まっています。そして、その力を最大限に引き出すのが、私たち教師の「支援の工夫」です。
① リレー
走る順番を守る、次の人にバトンを渡す。一人ひとりの役割がつながるリレーには、見通し・注意の持続・チーム意識など、様々な力が育ちます。
【教師の支援ポイント】
ルールの明確化
絵カードやジェスチャーを使い、バトンを渡す場所や走るコースを明確に示します。「バトンをもらったら、次の人に渡すまでが自分の番だよ」といった具体的な声かけで、見通しを持つことを促します。繰り返し行うことで、子どもたちはルールを覚え、安心して活動に参加できるようになります。
個別対応
個々の特性に合わせて、「ゆっくり歩くリレー」「ペアで一緒に走るリレー」「おたまリレー」など、多様な方法を用意します。「参加できた!」という成功体験を積み重ねられるよう、難易度を調整することが重要です。運動が苦手な子には、バトンを持つ係や応援係としてチームの一員になってもらうことも、大切な参加の形です。
ポジティブな声かけ
「〇〇さん、上手にバトンを渡せたね!」「みんなで力を合わせてゴールできたね!」など、結果だけでなく過程や努力を具体的に褒めることで、自己肯定感を育みます。
② ボール遊び
ただ投げるだけでなく、「転がす・当てる・的をねらう」など活動の目的を明確にすることで、集中力や達成感も高まります。
児童一人一人に、教師がボールを投げキャッチやトスの練習を行うボール遊びもおすすめです。
【教師の支援ポイント】
目的意識の共有
「今日はここにボールを転がしてみよう」「あの的に当ててみよう」と具体的な目標を設定し、子どもたちが集中して取り組めるようにします。成功体験を積み重ねやすいように、最初は的に近づけてあげるなど、スモールステップで難易度を調整します。
感覚統合の促進
特に的あてゲームは、「狙ったところに届いた!」という感覚が得られやすく、感覚統合や身体のコントロールにも効果的です。様々な大きさや重さのボールを用意し、子どもたちが自分に合ったものを選べるようにするのも良いでしょう。
安心安全な環境
当たっても痛くない柔らかいボールやスポンジ製のボールを使うことで、運動に苦手意識のある子も安心して参加できます。もしボールが当たってしまっても「大丈夫だよ」と優しく声をかけ、次に繋がりやすい雰囲気を作ります。
③ ドッチビー
今回の授業で取り入れているドッチビーは、ドッジボールのように「当てる・逃げる」のではなく、2〜3人でペアになってディスクを“やりとり”する活動です。
【教師の支援ポイント】
「気持ちのキャッチボール」を促す声かけ
この種目の魅力は、何といっても「勝ち負け」ではなく「気持ちのキャッチボール」ができること。教師が率先して「行くよ〜」「ナイスキャッチ!」「あ〜ごめん、ちょっと曲がっちゃった!」といった言葉を交わすことで、子どもたちも自然とコミュニケーションを取るようになります。繰り返し行うことで、恥ずかしがっていた子も少しずつ声を出せるようになります。
非言語コミュニケーションの促進
相手の動きや表情を見て、ディスクをどこに、どのくらいの速さで投げるかを判断する力も養われます。相手が取りやすいように投げる「思いやり」の気持ちも育まれます。
挑戦と発見
フリスビーのように見えますが、遠くへ飛ばすには手首の使い方にコツが必要なので、子どもたちは「どうやったらうまくいくかな?」と試行錯誤し、新たな発見をすることができます。教師は「手首をこうするといいよ」とヒントを出すことで、子どもの気づきを促します。
④ 大縄跳び
大縄跳びは、タイミングを合わせて跳ぶという難しさがありますが、それだけにリズム・見通し・勇気を出してチャレンジする力を養えます。
【教師の支援ポイント】
“成功の形”は多様であることを伝える
大縄跳びは難易度が高く、苦手意識を持つ子も少なくありません。しかし、一人ひとりにとっての“成功の形”は異なります。
- 縄が回るタイミングで跳ぶ子縄をヘビのように動かして、それをジャンプして飛び越える子縄のそばで拍手を送る応援係になる子
スモールステップの設定
最初は縄を地面に置いて飛び越える練習から始めたり、回し役を教師が行ったりするなど、段階的に難易度を上げていきます。定期的に練習することで、最初は跳べなかった子が少しずつ跳べるようになるなど、目に見える成長が見られます。
安全への配慮
縄の素材や回すスピード、周りのスペースに配慮し、安全に活動できる環境を整えます。
ボッチャについては、別記事で詳しくまとめています👇
「目当て」と「振り返り」が活動を“学び”に変える
活動自体が楽しく、挑戦に満ちていることはもちろんですが、“自立活動”として価値が高まるポイントは、実はこの「目当て」と「振り返り」にあります。この二つを結びつけることで、単なる「遊び」が、子どもたちの内面に深く響く「学び」へと昇華します。
🌱 目当て(活動前)今日の自分に問いかける
子どもたち自身が「今日のめあて」を自分のこととして受け取れるように、簡単な言葉と視覚支援を使って共有します。活動の前に目標を明確にすることで、子どもたちは意識的に活動に取り組むことができます。
【具体的な声かけ・支援例】
- 「今日は『友だちの話をよく聞く』を意識してみよう。先生が話す時、お友達が意見を言う時、耳と目でしっかり聞けるかな?」(絵カードで「耳」「目」を示しながら)
- 「『まっすぐ投げるにはどうすればいい?』を考えながらボールを投げてみようね。投げる前に、足の位置や手の振り方を確認してみよう。」(イラストで投げるフォームのポイントを示しながら)
- 「今日はお友達と『協力する』ことを目当てにしよう!困っている子がいたら『手伝おうか?』って声をかけられるかな?」
- 「今日の大縄跳びでは、『勇気を出してチャレンジする』ことを目標にしよう。たとえすぐに跳べなくても、一歩踏み出すことができたら素晴らしいね!」
🌿 振り返り(活動後)気づきを言葉にする
活動後には、「できたこと」「難しかったこと」「友だちとの関わりで気づいたこと」などをシンプルに振り返ります。ここで大切なのは、「上手くできた/できなかった」という結果だけでなく、「どんな気づきがあったか」です。自分の内面に目を向け、それを言葉にすることで、活動が心とつながり、自分にとっての学びになります。
【具体的な声かけ・質問例】
- 「今日の活動で『できたこと』は何かな?小さくてもいいから教えてくれる?」
- 「遠くに投げるとき、手首を使ったほうがいいって気づいた!」
- 「最初は緊張したけど、大縄を3回跳べた!」
- 「リレーで、順番が来る前に準備することができた!」
- 「『難しかったこと』はあったかな?どうしたらもっと良くなりそう?」
- 「ドッチビーで友達にうまく投げられなかった。もっと練習したい。」
- 「ボールが強すぎて、友達が受け取りにくそうだった。」
- 「『友だちとの関わりで気づいたこと』はあった?どんな気持ちになったかな?」
- 「応援されたとき、すごくうれしかった!」
- 「先に並ばれるとイラッとしたけど、あとで交代できてよかった。我慢できた自分もいたな。」
- 「友達が困っていたから『手伝おうか?』って声をかけたら、ありがとうって言ってくれて嬉しかった。」
- 視覚支援の活用: 振り返りシートに「できたこと」「難しかったこと」「楽しかったこと」の項目を設け、絵や簡単な言葉で記入できるようにするのも有効です。子どもたちの表現方法に合わせて、絵や写真、ジェスチャーなども積極的に活用しましょう。
継続するからこそ得られる大きな成長
この運動あそびの時間を月に1〜2回、定期的に継続することには、大きな意味があります。
- 学習習慣の形成: 「この時間は体育館で運動あそびをする」という見通しが立つことで、子どもたちはスムーズに活動へと移行し、集中して取り組む習慣が身につきます。
- 自信の積み重ね: 繰り返し活動する中で、できなかったことができるようになる経験が増え、子どもたちは自己肯定感を高めます。「前より速く走れるようになった!」「前は難しかったけど、今回はパスができた!」といった小さな成功が、大きな自信へと繋がります。
- 関係性の深化: 同じ仲間と継続して活動することで、お互いのことをより深く理解し、協力する楽しさや、困っている友達を自然と助ける心が育まれます。
私たち教師は、こうした継続的な関わりの中で、子どもたち一人ひとりの成長をきめ細やかに捉え、次なる支援へと繋げています。
授業参観で伝えたいこと
自立活動の時間は、単に「特別な支援」の時間ではありません。子どもたちが、社会で生きていくために必要な「自分を知る」そして「他者と関わる」力を育てる、かけがえのない時間です。
そして、楽しい活動を通じてこそ、こうした力は自然に、深く身についていきます。私たち教師は、道具の選び方、声かけのタイミング、成功体験の設定方法などを工夫しながら、一人ひとりの特性に合わせて活動を支えています。
今回の授業参観では、子どもたちが体を動かし、仲間と協力し、そして自分自身と向き合う姿をご覧いただけたことと思います。彼らの小さな成功体験一つひとつが、将来の大きな自信へと繋がっていくと信じています。
もっと知りたい方へ
「自立活動での『目当てと振り返り』、具体的にどう進めたらいいか、もっと詳しく知りたいですか?」「どんな言葉かけが効果的なのか?」「授業参観での子どもたちの様子から、どのような支援のヒントが得られるのか?」
そんな視点に興味のある方は、ぜひこちらの記事もご覧ください👇
おわりに
活動を通じて見える子どもたちの「笑顔」「がんばり」「思いやり」。それらはすべて、子どもたちが社会でたくましく生きていくための「生きる力の芽生え」です。
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