放課後等デイサービスで指示が伝わらない子への支援|声かけ・見せ方・記録例
「何度声をかけても、片付けを始めない」「みんなへの説明の後、一人だけ別のことをしている」。放課後等デイサービスで、このような場面はありませんか。
子どもが動かなかったとき、すぐに「話を聞いていない」「指示に従いたくない」と考えると、必要な支援を見落とすかもしれません。声が届きにくい環境だったのか、言葉の意味が分からなかったのか、分かっていても最初の一歩が見えなかったのか。あるいは、本人には別の希望や負担があったのかもしれません。
この記事では、指示が伝わりにくい場面を五つの視点で見直し、声かけ・見せ方・職員間の共有をどう変えるかを具体的に紹介します。
私は小学校の特別支援学級で、子どもに伝わる説明や環境づくりを考えてきました。この記事の放課後等デイサービスの場面例は、学校での経験を踏まえた提案であり、私が放デイで実施した事例ではありません。事業所の体制と一人ひとりの状況に合わせて調整してください。
「指示が通らない」を、子どもの性格で説明しない
例えば、職員が「片付けてから手を洗って、おやつの場所に来てね」と伝えたのに、子どもが積み木を続けていたとします。その場面だけでは、理由は決められません。
- 周囲の声や遊びの音に重なり、職員の言葉が届いていなかった
- 「片付ける」の範囲や、物を戻す場所が分からなかった
- 三つの行動を一度に伝えられ、最初に何をするか迷った
- 作品が途中で、今終えることに困っていた
- 学校から来た後の疲れがあり、すぐには動けなかった
これらは可能性の例です。本人の言葉、表情、選び方、実際に試した支援への反応を見ながら確かめます。診断名だけで理由を決めたり、返事をしないことを同意や拒否と即断したりしないことが大切です。
まず確かめたい五つの視点
① 声や合図に気付ける環境だったか
子どもが遊びに集中している場所や、大勢の声が重なる部屋では、職員が話しても気付きにくい場合があります。遠くから何度も大きな声で呼ぶ前に、近くへ行き、周囲の音や距離を見直します。
名前を呼んで少し待つ、本人が見やすい位置に予定カードを置くなど、伝え始める条件を整えます。返事やアイコンタクトを必須にせず、本人が情報を受け取りやすい方法を探します。

② 言葉の意味が具体的だったか
「ちゃんとして」「準備して」「みんなと同じように」は、大人には通じても、子どもには次に何をするか分かりにくいことがあります。
「赤い積み木をこの箱に入れる」「手洗い場で手を洗う」のように、物・場所・行動を具体的にします。短く伝えた後、本人が動き出すまで待つ時間も取ります。
③ 最初の一歩が分かったか
説明の内容を理解していても、複数の手順が重なると、どこから始めるか迷うことがあります。「片付け、手洗い、おやつ」を一度に伝える代わりに、まず「積み木をこの箱に入れる」と一つ示します。
写真、実物、短い手順カードを使う方法もあります。道具を増やすこと自体を目的にせず、本人が何を見れば動きやすいかを確かめましょう。
④ 今、その行動を取れる状態だったか
疲れ、空腹、暑さ、周囲の刺激、活動の難しさによって、理解していることをすぐ行動に移せない場合があります。来所直後に休息が必要な子もいれば、集団の説明より個別に実物を見た方が分かりやすい子もいます。
同じ説明を繰り返す前に、活動を始める時刻、場所、人数、手順の量を変えられないか考えます。
⑤ 本人はどうしたいと思っているか
内容が分かっていても、「今の遊びを続けたい」「その活動には入りたくない」という意思があるかもしれません。ここを確かめずに説明だけを分かりやすくしても、本人の困りごとは残ります。
「まだ作りたいところがある?」「見るところから始める?」「少し休んでから決める?」など、本人が答えやすい形で聞きます。選べる範囲は予定や安全面に合わせて正直に示し、選べないことまで選択肢のように伝えないようにします。
場面別|伝え方と環境をどう変える?
場面① 集団活動の説明中、別のことをしている
まず確かめること:説明する場所から活動が見えるか。周囲の音が大きすぎないか。何をするか、終わりはいつかが本人に分かる形になっているか。
試せる支援:道具を実際に見せ、最初の動作だけ短く伝える。参加方法として、見る、道具を配る、一回だけ試す、途中から加わるなどを示す。
声かけ例:「今日はこのボールを転がすよ。まず見てみる? 一回試してみる?」

見学や途中参加を選べる活動づくりは、放課後等デイサービスで集団活動に参加しない子への支援で詳しく紹介しています。
場面② 「片付けて」と伝えても遊びを続ける
まず確かめること:作品が途中ではないか。どの物をどこに戻すか分かるか。片付けの後の予定が伝わっているか。
試せる支援:作品を残す方法を相談し、最初に戻す物を一つ示す。物を戻す場所に写真を付け、本人が担当する範囲を選べるようにする。
声かけ例:「屋根を作っている途中だったね。作品を写真に残す? その後、青い積み木から箱に入れようか」
この場面では伝え方だけでなく、遊びをどう終えたいかも大切です。写真を撮る、区切りを決める、続きができるか確認するなど、本人と終わり方を相談します。
場面③ 手洗いの声かけ後、別の場所へ向かう
まず確かめること:手洗い場が分かるか。別の用事を先にしようとしていないか。洗面所の混雑や音が負担になっていないか。
試せる支援:手洗い場を一緒に示す。混んでいれば少し待てる場所を用意する。次の活動を写真や実物で伝える。
声かけ例:「手を洗う場所はここだよ。今は混んでいるから、ここで一緒に待つ? 空いてから行く?」
場面④ 危険な行動を止める必要がある
転倒や衝突など、差し迫った危険があるときは、安全確保を優先します。説明を長く続けず、短く具体的に止め、職員が環境も整えます。
声かけ例:「止まって。ここに立とう」。落ち着いてから、何が起きたか、どんな伝え方なら気付きやすかったかを確認します。安全のための対応と、普段の活動参加を促す声かけを同じ方法だけで考えないことが大切です。
言葉を短くしても伝わらないときの見直し方
「短く言えば伝わる」は、すべての子に当てはまる方法ではありません。言葉を減らしても、何をするか見えなければ動きにくいことがあります。次のうち、一度に一つ変えて本人の反応を見ます。
- 伝える位置を近くにする
- 活動する実物を見せる
- 行動を一つずつ伝える
- 写真や絵の手順を使う
- 返答を待つ時間を取る
- 活動場所や人数を変える
- 本人が選べる参加方法を増やす
本人に復唱やアイコンタクトを求めることを、理解の確認方法に固定する必要はありません。指さしで選ぶ、実物を手に取る、最初の一歩を一緒に行うなど、本人に合った方法で確かめます。
情報の伝わり方を5領域から整理したい場合は、放課後等デイサービスの5領域とは?活動例と個別支援計画へのつなげ方も参考にしてください。
記録例|「指示に従わなかった」で終わらせない
記録には、職員が何をどう伝え、本人が何と言い、どの条件を変えた後にどう反応したかを残します。以下は説明のための架空の例です。
記録例|積み木から片付けへの移行
観察した事実:16時30分、職員が部屋の入口から「片付けて手を洗おう」と伝えた。本人は積み木を続け、返答はなかった。近くで「おしまいだよ」と伝えると、「屋根がまだ」と話した。
試した支援:職員が作品を写真に残せることを説明し、「屋根を一つ置いてから写真を撮る」「写真を撮って今終える」の二つを示した。本人は前者を選んだ。
本人の反応:屋根を置いて撮影した後、本人は職員が示した箱に積み木を入れ始めた。
次に確かめること:遊び始める前に終了方法を相談すると、本人が見通しを持ちやすいか。写真以外に希望する残し方があるか。
この記録だけで「本人は必ず写真を撮れば片付けられる」とは言えません。また、入口からの声が聞こえなかったのか、聞いた上で続けていたのかも断定できません。事実と仮説を分け、次に確かめたいことを職員間で共有します。
記録を個別支援計画の目標や支援内容の見直しへつなげる方法は、放課後等デイサービスの個別支援計画|書き方・5領域の記入例とPDCAの回し方で解説しています。

職員でそろえたいのは「同じ言葉」だけではない
職員ごとに違う長い説明を重ねると、子どもが何を手がかりにすればよいか分かりにくくなる場合があります。一方、全職員が同じ一文を繰り返すだけでも、本人の困りごとは解決しません。
共有したいのは、どんな場面で、何を本人と確かめ、何を一つ変えてみるかです。
- 本人が取り組もうとしていること、続けたいこと
- 声が届きやすい位置や時間帯
- 本人に分かりやすい実物・写真・言葉
- 選べる範囲と、安全上変えられないこと
- 次に試す支援と、その反応を見る視点
短い事例検討でも、子どもの行動を評価する前に、職員の伝え方と環境を振り返る時間を取れます。事業所内で研修をどう組み立てるかは、放課後等デイサービスの職員研修|研修内容・新人育成・教材の使い方もご覧ください。
「伝わらなかった場面」を、職員同士で考える研修に
支援力向上研修システム|事業所研修版では、行動の事実と背景の仮説を分け、本人の意思を確かめながら、次に試す支援を考えます。「なぜ指示が伝わらない?」も扱う教材の内容、スライド・台本・ワークの見本は、noteの案内ページで確認できます。
よくある質問
名前を呼んでも振り向かないときは、どうすればよいですか?
振り向かない理由は、その場面だけでは分かりません。周囲の音や距離、遊びへの集中、体調などを確認します。近くで予定カードを見せるなど、本人が気付きやすい方法を試し、視線を合わせることだけを目標にしないようにします。
指示の後に「分かった?」と聞けば確認できますか?
「分かった」と答えても、最初の行動や場所までは分かっていないことがあります。本人が選ぶ、指さす、実物を見る、一緒に一歩目を確認するなど、その子が使いやすい方法で確かめます。
職員によって伝え方が違う場合は、すべて統一すべきですか?
本人にとって大切な予定や安全上の手順は、職員間で共有します。その上で、本人の状態や希望に応じて伝える位置や手段を変えられるようにします。「全員が同じせりふを言うこと」より、支援の目的と確認する視点をそろえることが重要です。
まとめ|伝わらなかったときは、次に変えられる条件を探す
指示の後に子どもが動かなかったとき、まず見るのは「言うことを聞いたか」だけではありません。声に気付ける環境だったか、言葉は具体的だったか、最初の一歩は見えたか、今できる状態だったか、本人はどうしたかったかを確かめます。
伝え方や環境を一つ変えてみて、本人の言葉と反応を記録する。その積み重ねが、一人ひとりに合う支援を職員間で共有する手がかりになります。
参考資料:こども家庭庁「各種ガイドライン・手引き等について」(放課後等デイサービスガイドライン、障害児支援におけるこどもの意思の尊重・最善の利益の優先考慮の手引き)

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