発達障害のある子どものアンガーマネジメント|学校で使える教え方・支援・教材
「何度伝えても、怒ると手が出てしまう」
「クールダウンの方法を教えたのに、実際の場面では使えない」
「怒りが大きくなったとき、教師はどう関わればいいのだろう」
特別支援学級や通常学級で子どもと関わっていると、こうした場面に出会うことがあります。
アンガーマネジメントというと「怒らないようにする方法」と思われがちですが、怒りそのものをなくすことが目的ではありません。
大切なのは、自分の気持ちや体の変化に気づき、怒りが大きくなったときに、自分や周囲を傷つけにくい方法を選べるようにしていくことです。
この記事では、小学校教員としての実践経験と特別支援学級での経験をもとに、発達障害のある子どものアンガーマネジメントについて、予防・怒りが大きくなったときの対応・振り返り・授業での教え方・教材まで具体的に解説します。
この記事で分かること
- アンガーマネジメントで本当に目指したいこと
- 怒りが大きくなる背景の捉え方
- 怒りが爆発する前にできる予防的な支援
- 怒りが大きくなったときの教師の関わり方
- 落ち着いた後の振り返り方法
- 授業で使える3つのアンガーマネジメント活動
- 家庭と共有するときのポイント
- アンガーマネジメントは「怒らない子」にする指導ではない
- なぜ怒りのコントロールが難しくなるのか|診断名だけで決めない
- 【予防】怒りが大きくなる前にできる支援
- 【対応】怒りが大きくなったときは「教える」より安全確保を優先する
- 【振り返り】落ち着いた後に「次の選択肢」を一緒に考える
- アンガーマネジメントを教える3つのステップ
- 学校で使えるアンガーマネジメントゲーム3選
- アンガーマネジメントがうまくいかないときに確認したいこと
- 家庭とは「同じ方法をやってもらう」より情報を共有する
- アンガーマネジメントと自立活動の関係
- まとめ|怒りをなくすのではなく「使える方法」を増やす
- SST・自立活動の教材をまとめて準備したい先生へ
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- 参考資料
アンガーマネジメントは「怒らない子」にする指導ではない
まず確認しておきたいのは、怒りは悪い感情ではないということです。
嫌なことをされたとき、不公平だと感じたとき、思い通りにならなかったときに怒りを感じること自体は自然です。
そのため、
「怒ってはいけません」
「イライラしないようにしましょう」
と感情そのものを抑え込ませることが、アンガーマネジメントの目標ではありません。
目指したいのは、例えば次のような姿です。
- 「今イライラしてきた」と自分の変化に気づく
- その場から少し離れる
- 「やめて」「手伝って」と伝える
- 教師に助けを求める
- 自分に合ったクールダウン方法を使う
- 落ち着いてから次の方法を考える
「怒らない」ではなく、「怒ったときに使える方法を増やす」と考えると、支援の方向が見えやすくなります。
なぜ怒りのコントロールが難しくなるのか|診断名だけで決めない
「発達障害だから怒りやすい」「ASDだから予定変更が苦手」「ADHDだから手が出る」と、診断名だけから支援を決めることはできません。
同じ診断名でも、困っていることや得意な方法は一人ひとり異なります。
怒りが大きくなる場面では、まずその子に何が起きているのかを見ます。
① 予定変更や見通しの持ちにくさ
急な予定変更、活動の終わりが分からないこと、次に何をするのか分からないことなどが強い不安につながり、結果として怒りのように見える行動になる場合があります。
この場合は、怒った後に「我慢しよう」と教えるだけではなく、予定を事前に知らせる・変更を見える形で伝えるなどの環境調整も必要です。
② 気持ちや体の変化に気づきにくい
「怒り」を自覚する前に、すでに体が強く反応している子もいます。
- 顔が熱くなる
- 心臓が速くなる
- 手に力が入る
- 声が大きくなる
- 同じ言葉を繰り返す
など、本人なりの「怒りが大きくなる前のサイン」があるかもしれません。
穏やかなときに一緒に振り返り、「自分はどんなサインが出やすいか」を少しずつ知っていくことが予防につながります。
③ 考える前に行動が出やすい
嫌なことが起きた瞬間に、言葉より先に手が出る、その場から飛び出す、大きな声が出るなど、考えるより先に行動が出る場合があります。
この場合、「分かっているのだから我慢しよう」と求めるだけでは不十分です。
普段から、
- その場を離れる
- 先生にカードを見せる
- 「やめて」と伝える
- 助けを求める
など、実際に使える行動を具体的に練習しておく必要があります。
④ 言葉で伝えることが難しい
「嫌だった」「やめてほしかった」「どうしたらいいか分からなかった」ということを、その場で言葉にするのが難しい場合もあります。
このとき、怒りの表出だけを減らそうとするのではなく、
- 指差し
- 気持ちカード
- 「休憩」「手伝って」カード
- 文字
- ジェスチャー
など、その子に合う伝え方を増やすことも大切です。
支援を考える順番
診断名 → 支援方法、ではなく、
困っている場面 → なぜ起きている? → どんな力や環境が必要? → 支援
の順で考えます。
【予防】怒りが大きくなる前にできる支援
アンガーマネジメントは、怒りが爆発した後だけに行うものではありません。
むしろ、穏やかな状態のときに環境や対処方法を準備しておくことが重要です。
① 怒りが起きやすい場面を記録する
まずは、どんな場面で怒りが大きくなりやすいのかを見ます。
- 活動の切り替え
- 待ち時間
- 友達との距離が近い場面
- 失敗したとき
- 予定変更
- 音やにおいなどの刺激が強いとき
「また怒った」で終わらず、前後の状況を簡単に記録すると、支援できるポイントが見えてくることがあります。
② 見通しを持てるようにする
予定が分からないことが負担になっている場合は、
- 一日の予定を示す
- 「今→次」を見せる
- 終了時刻や残り時間を知らせる
- 予定変更をできるだけ早めに伝える
といった支援が考えられます。
ただし、すべての子に視覚支援が必要なわけではありません。本人が理解しやすい方法を選びます。
③ クールダウンの方法を「平常時」に試しておく
怒りが最大になってから初めて、
「深呼吸して!」
と言われても、使えないことがあります。
普段から、
- 少し離れた場所へ移動する
- 水を飲む
- 静かな場所で過ごす
- 深呼吸する
- 手を握って緩める
- 好きな活動を短時間行う
などを試し、本人にとって本当に落ち着きやすい方法を探します。
クールダウンスペースを設ける場合も、「悪いことをした人が行く場所」ではなく、自分を整えるために使える場所として扱います。
クールダウンの具体的な方法はこちらの記事でも詳しく紹介しています。
【対応】怒りが大きくなったときは「教える」より安全確保を優先する
怒りが大きくなっている最中は、新しい方法を教える時間ではありません。
まず優先したいのは、本人と周囲の安全を確保し、刺激を増やしすぎないことです。
その場で意識したいこと
- 必要以上に大勢で囲まない
- 教師の言葉を短くする
- 安全を確保できる距離を取る
- 必要であれば刺激の少ない場所へ移動する
- 本人が普段使っているクールダウン方法を提示する
- 説得や振り返りは落ち着いてから行う
声をかける場合も、
「ここで待っているよ」
「休憩する?」
「先生と一緒に行く?」
など、普段本人と共有している言葉を短く使います。
避けたい対応
- 興奮している最中に長く説教する
- 「どうしてそんなことをしたの?」とその場ですぐ説明を求める
- 「いつもそうだ」と過去の失敗まで持ち出す
- 行動ではなく本人の人格を否定する
- みんなの前で反省を求める
もちろん、安全上すぐ止める必要がある行動には介入します。
ただし、危険な行動を止めることと、その理由や次の方法を教えることは分けて考えます。
【振り返り】落ち着いた後に「次の選択肢」を一緒に考える
振り返りは大切ですが、必ずその場ですぐ行う必要はありません。
本人が疲れている、まだ興奮が残っている、話したくないという状態なら、時間を置くこともできます。
振り返るときは、「反省させる」より、何が起きて、次にどんな方法が使えそうかを一緒に整理することを目的にします。
振り返りの4つの視点
- 何があった?
事実を短く整理します。 - どんな気持ち・体の変化があった?
言葉だけでなく、カードや温度計から選んでも構いません。 - 何をした?その結果どうなった?
責めずに行動と結果を整理します。 - 次は何が使えそう?
一つだけでなく、複数の選択肢を用意します。
例えば、
「次に同じことがあったら、先生に言う・少し離れる・『やめて』と言うなら、どれが使えそう?」
のように、選択肢から考えても構いません。
本人が言葉で説明しにくい場合には、絵カードや振り返りシートを使う方法もあります。
アンガーマネジメントを教える3つのステップ
ここからは、怒りが起きていない穏やかな時間に行う学習について紹介します。
ステップ1|自分の気持ちに気づく
まずは、「怒っているかどうか」を教師が決めるのではなく、本人が自分の状態に気づけるようにします。
例えば、
- うれしい
- かなしい
- 不安
- 悔しい
- イライラする
などの感情をカードから選ぶ方法があります。
言葉にすることが難しい場合は、表情・色・天気など、その子が分かりやすい方法から始めます。
ステップ2|怒りの大きさを知る
同じ「怒り」でも、その大きさは毎回同じではありません。
そこで、怒り温度計やレベルカードを使い、
「これはレベル1くらい?」
「レベル4になると、体はどうなる?」
などと整理します。

数値化が分かりにくい子には、3段階の表情や色などを使っても構いません。
数字にすること自体が目的ではなく、自分の状態に気づくための手掛かりとして使います。
ステップ3|自分に合う対処方法を増やす
最後に、怒りが大きくなってきたときの選択肢を考えます。
- その場を離れる
- 教師へ知らせる
- 「やめて」と伝える
- 休憩カードを使う
- 深呼吸する
- 静かな場所へ移動する
重要なのは、「深呼吸が正解」のように一つの方法を全員に教えることではありません。
その子が実際の生活の中で使いやすい方法を一緒に探すことが大切です。
学校で使えるアンガーマネジメントゲーム3選
カード教材を使うと、実際に怒っている場面ではなく、落ち着いているときにさまざまな状況について考えられます。
① 怒りの温度当てゲーム
学校生活で起こりそうな場面カードを見て、
「自分ならどのくらいイライラする?」
と考えるゲームです。
教師と子どもの答えが違っても構いません。
「同じ出来事でも感じ方は人によって違う」ということを知る活動にもなります。
② 「許せる・迷う・許せない」ゲーム
場面カードを見て、
- 許せる
- 迷う・場合による
- 許せない
などに分けます。
ここでも、教師の答えへ合わせることを目的にしません。
「わざとだった場合と、うっかりだった場合では変わる?」など、状況によって感じ方や対応が変わることを考える材料にします。
③ こんなときどうする?行動選択ゲーム
具体的な場面を見ながら、
「どんな方法が使えそう?」
「その方法を使ったら、その後どうなりそう?」
と考えます。
言葉で自由に考えることが難しい場合は、行動カードから選んでも構いません。
小学生向けのゲームや授業の進め方はこちらの記事でも詳しく紹介しています。
🃏 授業で使えるアンガーマネジメント教材
怒りの場面カード・怒りレベルカード・許す/許さないカード
学校生活の具体的な場面を使いながら、怒りの大きさや感じ方、困ったときの対応方法について考えられる教材です。無料サンプルも用意しています。
アンガーマネジメント教材の詳しい内容を見るアンガーマネジメントがうまくいかないときに確認したいこと
授業ではできるのに実際の場面では使えない、6秒数える方法が合わない、教えた方法を嫌がる。
こうしたことは珍しくありません。
うまくいかないときは、
- 怒りが大きくなっている最中に新しい方法を使わせようとしていないか
- 一つの方法を全員に使わせていないか
- 本人の困り感ではなく、大人が困る行動だけを目標にしていないか
- 環境調整で減らせる負担が残っていないか
- 授業と実際の生活場面がつながっているか
を確認します。
「6秒ルールが使えない」「何度教えても実際の場面で使えない」と感じる場合はこちらの記事で詳しく整理しています。
家庭とは「同じ方法をやってもらう」より情報を共有する
学校で有効だった方法が見つかった場合は、家庭と共有することも役立ちます。
ただし、
「学校で練習しているので、家庭でも毎日やってください」
と家庭にトレーニングを求めることが基本ではありません。
まずは、
- 学校ではどんな場面で怒りが大きくなりやすいか
- どんなサインが見られるか
- どんな方法なら落ち着きやすかったか
- どんな言葉かけは負担になりやすかったか
などを共有します。
同時に、家庭でうまくいっている方法があれば学校側も教えてもらいます。
学校から家庭へ一方的に方法を伝えるのではなく、本人に合う方法を一緒に探すという考え方が大切です。
アンガーマネジメントと自立活動の関係
アンガーマネジメントは、自立活動の複数の区分・項目と関連する場合があります。
例えば、子どもの実態によっては、
- 2-(1) 情緒の安定に関すること
- 2-(2) 状況の理解と変化への対応に関すること
- 3-(3) 自己の理解と行動の調整に関すること
- 6-(5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること
などを関連付けることが考えられます。
ただし、6区分27項目をチェックリストのように当てはめるのではありません。
子どもの困り感 → 目標 → 必要な項目 → 具体的な活動の順で整理し、個別の指導計画とつなげて考えます。
まとめ|怒りをなくすのではなく「使える方法」を増やす
発達障害のある子どもへのアンガーマネジメントで大切なのは、診断名だけから支援方法を決めたり、「怒らないように我慢させる」ことではありません。
- 怒りは悪い感情ではない
- 行動の前後から困り感や背景を考える
- 怒りが大きくなる前の環境調整を行う
- 怒りが大きい最中は安全確保を優先する
- 落ち着いた後に次の選択肢を考える
- 本人に合うクールダウン方法や伝え方を増やす
- 授業で学んだ方法を日常生活につなげる
ことが重要です。
一度教えただけで変化が出るとは限りません。
「今日は先生に伝えられた」「その場を少し離れられた」「後からなら振り返れた」といった小さな変化を、その子の目標と照らし合わせながら見ていきます。
🃏 アンガーマネジメントを授業で扱いたい先生へ
アンガーマネジメント教材
怒りの場面カード、怒りレベルカード、許す/許さないカードを使いながら、気持ちの大きさや対応方法を考えられる教材です。
アンガーマネジメント教材の詳しい内容を見るSST・自立活動の教材をまとめて準備したい先生へ
アンガーマネジメントだけでなく、感情理解、自己理解、コミュニケーションなど、さまざまなテーマを扱いたい場合は、教材をまとめたパックも用意しています。
📚 授業準備の負担を減らしたい先生へ
支援級パック(自立活動・SST教材フルパック)
SST・自立活動、感情理解、自己理解、コミュニケーション、アンガーマネジメントなど、特別支援学級で活用できる教材をまとめています。
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支援級パックの詳しい内容を見る関連記事
参考資料
自立活動の内容を検討する際は、文部科学省「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編」も参考にしてください。





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