授業参観向け【自立活動 × ゲーム × 情緒】「こころカルタ」で育つ、子どもの“こころの力”と“ソーシャルスキル”

自立活動•SST

「自立活動」の時間は、その子の未来を形作る大切な機会です。しかし、「どのようにすれば、子どもたちが心を開き、楽しみながら成長できるのか?」と悩むことも少なくないのではないでしょうか。

私自身も、特別支援学級で多くの子どもたちと接する中で、この問いと常に向き合ってきました。そんな中で出会ったのが、今回ご紹介する『こころカルタ』です。このゲームは、単なる遊びではなく、子どもたちが自然に感情を表現し、共感し合う力を育むための、まさに“魔法のツール”だと感じています。

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「こころカルタ」とは?:感情を「ことば」にする優しい入り口

『こころカルタ』は、感情をことばにする力を育てるための、ユニークなコミュニケーションゲームです。一般的な“かるた”とは異なり、この教材には「取り札」はありません。そこにあるのは、子どもたちの“内なる声”を引き出すための、厳選された『質問』だけです。

例えば、「最近楽しいと感じたことはなんですか?」「今、話したいことはありますか?」「今日の朝ごはんはなんでしたか?」などの質問が書かれていて、順番に引いた人がその質問に答えていくというスタイルです。

これらの質問は、子どもたちが「何を話せばいいのか分からない」という心理的なハードルを下げ、自分の気持ちや考えを言葉にする練習の場を提供します。「正しい答え」を求めるのではなく、「自分の言葉で表現すること」そのものに価値を置くこのゲームは、子どもたちの自己肯定感を育む上で非常に重要です。質問内容は、感情にまつわる深い問いから、日常の“あるある”まで多彩で、その日の気分や子どもの発達段階に合わせて、様々な「心の扉」を開くことができます。

特に、「取り札」がないことが、競争意識ではなく「共感」や「傾聴」に焦点を当てることを可能にしています。これにより、子どもたちは安心して自分の気持ちを表現でき、他者の話にもじっくりと耳を傾けることができるのです。


自立活動としてのねらい:なぜ『こころカルタ』が特別支援教育に最適なのか

『こころカルタ』を自立活動に取り入れる上で、私は以下の5つの重要なねらいを設定しています。これらは、文部科学省が示す特別支援教育における自立活動の指導内容(例:自己の理解、情緒の安定、対人関係の形成など)にも深く根ざしています。

  • 感情を言語化する練習をする(2-2 自己の理解): 自分の気持ちを言葉にするのは、大人でも難しい時があります。子どもたちは、喜び、悲しみ、怒り、不安といった多様な感情を、明確な言葉として認識し、表現する練習を積むことで、自己理解を深め、感情のコントロールを学ぶ第一歩となります。『こころカルタ』の質問は、まさにそのための豊かな機会を提供します。
  • 話すことが苦手な子も、自分を表現できる経験を積む(2-3 自己の受容): 発達に特性を持つ子どもたちの中には、自分の意見を伝えることに苦手意識がある子も少なくありません。『こころカルタ』の「パスOK」ルールは、子どもたちに「話したくない時は話さなくていい」という安心感を与えます。この安心感があるからこそ、「話しても大丈夫なんだ」という自己受容の経験を積み重ね、自信を持って表現できる場となります。
  • 他児の話を聞き、共感する力を育てる(3-1 対人関係の形成): コミュニケーションは、話すことだけでなく、聞くことも大切です。他の子が話す内容に耳を傾け、「そうなんだ!」「面白いね!」といった反応をすることで、共感する力、つまり他者の感情や状況を理解する能力が育まれます。これは、対人関係を円滑にし、友情を育む上で不可欠なスキルです。
  • 順番を守る、話を聞くなどのルールを身につける(3-2 集団への参加): ゲームとして楽しむ中で、子どもたちは自然とルールを守ろうとします。「自分の番が来るまで待つ」「人の話を遮らない」といった基本的な社会的なルールを、強制ではなく、“楽しい活動の一部”として学ぶことができます。これは、学校生活だけでなく、将来社会で生きていく上で必要な集団行動の基礎となります。
  • 楽しさの中で、情緒を安定させる(2-1 情緒の安定): 感情を表現することは、情緒の安定に直結します。自分の気持ちを言葉にすることで、モヤモヤした感情が整理されたり、他の子どもたちとの共有を通じて安心感を得たりします。『こころカルタ』は、安全で肯定的な雰囲気の中で、子どもたちが感情を解放し、リラックスして過ごせる時間を提供します。

これらのねらいは、ソーシャルスキルトレーニング(SST)の核心部分とも強く結びついています。SSTは、社会生活を送る上で必要な対人スキルを学ぶための訓練ですが、『こころカルタ』は、その訓練を「遊び」という形に変え、子どもたちが主体的に、そして意欲的に参加できる環境を作り出します。かしこまった座学ではなく、自然な会話の中で「心の筋肉」を鍛えることができるのが、この教材の最大の強みと言えるでしょう。


活動の進め方:誰でも簡単に始められるシンプルさ

遊び方はとてもシンプルで、準備もほとんどいりません。

1.子どもたちがテーブルを囲んで座ります

2.中央にカードを山にして置きます

3.順番に1枚引き、書かれた質問に答えます

4.話したくないときは「パス」でもOKにしています

この「パスOK」のルールが、話すのが苦手な子にも安心感を与えるようです。また、人数や時間に応じて、「1人2枚ずつ」などのルールを工夫することも可能です。


子どもたちのリアルな反応:心が通じ合う瞬間の喜び

この活動を続けていく中で、私自身が最も感動するのは、子どもたちの内面から湧き出る「話したい」という純粋な気持ちと、それに伴う劇的な変化です。

ある日、普段は教員との一対一の会話でもなかなか話を広げられないAさんがいました。いつも質問には「はい」「いいえ」と短く答えるばかりで、表情も乏しい傾向があったのです。しかし、『こころカルタ』の活動では、自分の番が来るのを嬉しそうに待ち、カードを引くと、「お母さんとコンビニでおにぎり買ったことが楽しかった!」と、満面の笑顔で話してくれました。普段では見られない、心からの笑顔と饒舌さに、私も思わず胸が熱くなりました。この経験は、Aさんにとって「自分の話は受け入れてもらえる」という大きな自己肯定感につながったことでしょう。

また、別のBさんは、初回は「パス」を連発していました。話すことに強い抵抗があるようでした。しかし、他の子が楽しそうに話している姿や、誰も「パス」を否定しない温かい雰囲気に触れるうちに、何回目かの活動で、自分から「今日の給食、カレーで嬉しかった!」と話し始めました。その瞬間、他の子どもたちも自然と拍手をして、Bさんの勇気を称えました。この温かい空間こそが、「話しても大丈夫」という安心感を生み出し、子どもたちが一歩踏み出す背中を押してくれているのだと実感しました。

このように、「話しても大丈夫」「受け止めてもらえる」という安心感の中で、子どもたちは自然と心を開いていくのです。それは、自信となって、他の活動や日常生活にも良い影響をもたらしています。自己表現の機会が増えることで、子どもたちの表情は豊かになり、他者との関わり方もより積極的になっていくのを日々感じています。


順番を待つ力、ルールを守る力も育つ:遊びの中の社会性育成

ゲーム性があるからこそ、子どもたちはルールを守ろうという意識が自然に生まれます。

普段は順番を待つことが難しい子でも、「自分の番が来るのが楽しみ」という気持ちが強く、静かに人の話を聞きながら順番を待つ姿が見られました。これは、単にルールに従うだけでなく、他者への配慮や、集団の中で自分を律する力を育んでいる証拠です。

もちろん、ときには「今しゃべりたい!」と順番を飛ばして話してしまうことや、話が脱線することもあります。でも、それもまた関わりの中で育つ力。トラブルをきっかけに、「どんなふうに伝えたらよかったかな?」と一緒に振り返ることが、まさに社会性の学びにつながっています。「失敗しても大丈夫、次につなげよう」という肯定的な経験が、子どもたちの成長を促します。


活動時間と流れ(例)と応用例:多様な学びの可能性

標準的な活動例:

  • 活動時間:20〜30分
  • 人数:3〜6人程度が適切
  • 場所:机を囲める静かな空間
  • 活動後:1人1枚、印象に残ったカードを選んで振り返る

活動後に、絵やことばで「今日の気持ち」を書いたり、印象に残った友達の話を共有したりすると、より深い学びになります。

応用例:

『こころカルタ』は、そのシンプルさゆえに、様々なアレンジが可能です。

  • テーマを限定する: 「嬉しかったこと限定」「頑張ったこと限定」など、特定の感情や出来事に絞って質問に答えることで、より深い内省を促すことができます。
  • ペアワークでの活用: 慣れてきたら、2人組で質問し合い、よりじっくりと対話する時間を設けることもできます。
  • 絵や文字での表現を促す: 話すことが難しい子や、より深く内省したい子には、カードの質問に答える代わりに、絵や言葉で表現する時間を与えても良いでしょう。
  • “お気に入りのカード”を見つける活動: 活動の最後に、自分が一番心に残った質問カードや、友達の答えで印象に残ったカードを1枚選んでもらい、その理由を共有する時間を作ることで、さらに深い振り返りにつながります。これにより、自己理解だけでなく、他者への興味や関心を育むこともできます。
  • 感情語彙を増やす: 感情に関する質問が出た際に、その感情を表す別の言葉(例:「嬉しい」→「楽しい」「わくわくする」「晴れやかな気持ち」など)を提示することで、子どもたちの感情語彙を増やすきっかけにもなります。

これらのアレンジは、子どもたちの興味関心や発達段階に合わせて柔軟に取り入れることで、『こころカルタ』の可能性を最大限に引き出すことができます。


おすすめの子ども像:『こころカルタ』が寄り添う子どもたち

  • 自分の気持ちをうまく表現できない子
  • 人と話すのが少し苦手な子
  • 人の話を聞くのが苦手な子
  • 感情の整理や共有が必要な子
  • 集団活動への参加に不安がある子

『こころカルタ』は、「話したくなるしかけ」がたくさんある教材なので、支援の手立てが難しい子にも入り口が見つけやすいと感じています。「話すこと」へのハードルを下げ、成功体験を積み重ねることで、自信を持ってコミュニケーションに参加できるようになります。


指導者(先生・保護者)へのメッセージ:温かい関わりが育む「こころの力」

『こころカルタ』を最大限に活かすために、指導者である私たちが心がけるべきことがあります。

  • 安全基地となる場の提供: 何よりも大切なのは、子どもたちが「ここでなら何を話しても大丈夫」と感じられる安全で肯定的な空間を作ることです。批判や否定はせず、どんな発言もまずは受け入れる姿勢が求められます。
  • 共感的な傾聴: 子どもたちの話に真剣に耳を傾け、「そうなんだね」「よく教えてくれたね」といった共感的な言葉を返すことで、子どもたちは「自分の話は聞いてもらえている」と感じ、さらに安心して話せるようになります。
  • 「パス」の尊重: 話したくない時に「パス」を選べるルールは、『こころカルタ』の大きな特徴です。これを尊重し、決して無理強いしないことが、子どもたちの安心感を育みます。
  • 適切な声かけと励まし: 話し始めた子には、「話してくれてありがとう」「よくがんばったね」といった具体的な言葉で励まし、自信を育んでいきましょう。
  • 見守る姿勢: 時には、子どもたちが話に詰まったり、脱線したりすることもあります。しかし、すぐに口を挟むのではなく、まずは見守る姿勢が大切です。子どもたち自身が考え、言葉を探す時間を与えることで、より主体的な学びにつながります。

『こころカルタ』は、子どもたちの「こころの力」を信じ、それを引き出すための“優しい道具”です。私たちが意識的に環境を整え、温かい眼差しで見守ることで、子どもたちは驚くほど大きく成長してくれるでしょう。この活動を通じて、子どもたち一人ひとりの個性が輝き、互いに支え合う温かい集団が育っていくことを心から願っています。


まとめ|自立活動に、もっと“こころ”の時間を

自立活動は、子どもたちが将来、社会の中で豊かに生きていくための重要な基盤を築く時間です。その中でも、「こころ」と「ことば」をつなぐ時間は、子どもたちの情緒の安定や、他者と温かい関係を築くための土台を育む上で不可欠です。

『こころカルタ』は、そのための理想的な教材だと私は確信しています。簡単なルールで、安心して自分を表現できるこのゲームは、特別支援教育の現場に「遊びながら学ぶ」という新たな風を吹き込んでくれます。日々の実践の中で、子どもたちの言葉が増え、笑顔が増え、そして何よりも、お互いの“こころ”に触れ合う豊かな関係性が少しずつ育っていく姿に、大きな可能性と喜びを感じています。

このブログを読んでくださった先生方、保護者の皆様、そして支援に関わる全ての方に、ぜひ一度『こころカルタ』を手に取っていただき、子どもたちの“こころの力”が芽生え、育っていく瞬間に立ち会っていただきたいと心から願っています。

子どもたちの「こころ」の声に耳を傾け、それを言葉に、そして豊かな関係性へとつなげていく。そのかけがえのない時間を、一緒に作っていきませんか?

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