ASDとADHDの併発(併存)とは?特徴・困りごと・子どもへの接し方を解説
「ASDとADHD、両方の特性があると言われた」
「予定通りに進めたいのに、途中で別のことに気を取られてしまう」
「こだわりが強い一方で、忘れ物や不注意も多い。これはどう考えればいいの?」
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)は、それぞれ異なる診断ですが、同じ人に両方の特性がみられることがあります。
ASDとADHDが合体して別の障害になるわけではなく、それぞれの特性や困難が同じ人の中にみられる状態です。
ただし、「ASDとADHDを併発している人は必ずこうなる」という決まった姿があるわけではありません。
大切なのは診断名だけから行動を説明することではなく、「その人が、どんな場面で、何に困っているのか」を見ることです。
この記事では、特別支援学級で子どもたちと関わってきた経験も踏まえながら、ASDとADHDの併発・併存とは何か、両方の特性がある場合に起こりやすい困りごと、家庭や学校での接し方について分かりやすく解説します。
ASDとADHDそれぞれの違いを知りたい方へ
この記事では「ASDとADHDの両方の特性がある場合」を中心に解説します。ASDとADHDそれぞれの特徴・共通点・見分け方については、以下の記事をご覧ください。
ASDとADHDの違いとは?特徴・見分け方・併存を比較表でわかりやすく解説ASDとADHDは併発・併存する?
ASDとADHDは、同じ人に併存することがあります。
現在は、ASDとADHDそれぞれの診断基準を満たす場合、両方の診断がつくことがあります。
「ASDなのかADHDなのか、どちらか一方を選ばなければならない」というものではありません。
一方で、ASDやADHDの特徴には一部似て見えるものもあります。また、同じ行動でも、その背景にある理由は人によって異なります。
そのため、家庭や学校で見られる一つの行動だけから「ASDとADHDを併発している」と判断することはできません。
ASDとADHDの「併発・併存」とは?
一般には「ASDとADHDの併発」という表現をよく見かけますが、医療や支援の文脈では「併存」という言葉も使われます。
ここでいう併発・併存とは、ASDとADHDが混ざって一つの新しい障害になるという意味ではありません。
ASDとしてみられる特徴とADHDとしてみられる特徴が、一人の人の中に同時に存在していると考えると分かりやすいでしょう。

それぞれの特性の現れ方や強さ、本人が困る場面は人によって異なります。また、年齢や環境によっても困り方は変わります。
支援を考えるときには、「ASDだからこう」「ADHDだからこう」と診断名だけから決めるのではなく、実際の場面を具体的に見る必要があります。
ASDとADHDの両方の特性があると、どんな困りごとが起こる?
ASDとADHDの両方の特性がある場合、一つの行動に複数の要因が関係していることがあります。
ここでは、学校や家庭でみられることのある具体的な困りごとを紹介します。
ただし、以下の特徴がすべての人に当てはまるわけではありません。
① 予定通りにしたいのに、予定通り進まない
ASDのある人の中には、予定や手順が分かっている方が安心して行動しやすい人がいます。
その一方で、ADHDの不注意や衝動性などによって、途中で別のことに注意が向いたり、必要な物を忘れたりすることがあります。
例えば朝の準備で、
↓
途中で目に入った物が気になる
↓
別の行動を始める
↓
予定が崩れる
↓
混乱したり強いストレスを感じたりする

周囲から見ると「自分で違うことを始めたのだから仕方がない」と感じるかもしれません。
しかし本人の中では、予定通りに進めたい気持ちと、注意が別のものへ向いてしまう難しさの両方を抱えている場合があります。
② やりたいことは分かっているのに、始められない・終わらない
「宿題をしなければいけない」
「明日の準備をしなければいけない」
本人はやるべきことを理解しているのに、なかなか始められなかったり、最後まで終わらなかったりすることがあります。
例えば、
- 何から始めればよいか決められない
- 必要な物を集めている途中で別のことを始める
- やり方や細かな部分が気になり、先へ進みにくい
- 途中で集中が切れてしまう
- 一度中断すると再開するのが難しい
といった困難が重なる場合があります。
このようなとき、「分かっているのだから自分でやりなさい」と繰り返すだけでは、うまくいかないことがあります。
課題を小さく区切る、開始地点を明確にする、終わりを見えるようにするといった支援が役立つことがあります。
③ 対人関係で複数の困難が重なる
友達との関わりでも、一つではなく複数の難しさが重なることがあります。
例えば、相手の意図やその場の暗黙のルールを理解しにくい状態で、思いついた言葉がすぐ口から出てしまうと、本人には悪意がなくても友達が傷つくことがあります。
また、相手が嫌がっていることに気づくまでに時間がかかったり、分かっていても行動を止めることが難しかったりすることもあります。
こうした場合、単純に、
「人の気持ちを考えなさい」
「言う前に考えなさい」
と注意するだけでは、本人にとって具体的な解決方法にならないことがあります。
「どんな場面だったのか」
「相手はどんな反応をしていたのか」
「次に同じ場面になったら、どんな言い方なら使えそうか」
と、具体的な場面から一緒に整理していくことが大切です。
④ 感覚刺激と注意のそれやすさが重なる
教室には、さまざまな刺激があります。
- 友達の話し声
- 椅子や机を動かす音
- 廊下を歩く音
- 掲示物
- 窓から入る光
- 人の動き
ASDの特性として、音・光・触覚などの刺激を強く感じる人もいます。
さらに、周囲の刺激へ注意が向きやすい場合、
+
「その音が気になって授業へ注意を戻せない」
という二つの困難が重なることもあります。
このような場合、本人に集中するよう求め続けるよりも、座席の位置や周囲の刺激を調整した方がうまくいくことがあります。
⑤ 「できること」と「できないこと」の差が理解されにくい
好きなことや興味のある活動には集中できるのに、持ち物の管理や提出物、身支度などでは大きな支援が必要になることがあります。
すると周囲から、
「好きなことならできるのだから、やる気の問題では?」
と思われてしまうことがあります。
しかし、活動によって必要となる力は異なります。
知識が豊富であることと、予定を管理すること。
好きなことへ集中できることと、興味の薄い活動へ注意を向け続けること。
これらは同じ力ではありません。
「一つのことができる=どんな場面でも同じようにできる」と考えないことが大切です。

ASDとADHDの併発で「生きづらさ」が強くなることも
私が子どもたちと関わる中で大切だと感じるのは、目に見える行動だけで本人を評価しないことです。
例えば、
- 忘れ物をしたくないのに忘れてしまう
- 友達とうまく関わりたいのに言葉が先に出てしまう
- 予定通りに行動したいのに途中で別のことに注意が向いてしまう
- やるべきことは分かっているのになかなか始められない
ということが繰り返されると、本人の中に失敗経験が積み重なっていきます。
「どうせ自分はできない」
「頑張っても怒られる」
「自分だけ、どうしてできないんだろう」
このような経験が積み重なることで、自信を失ったり、強い不安や気分の落ち込みにつながったりすることがあります。
発達特性そのものだけでなく、本人と環境とのミスマッチや、繰り返される失敗・叱責が生きづらさを大きくしている場合もあります。
だからこそ、「なぜできないの?」ではなく、
「どこで困っているのだろう?」
「何を変えればできそうだろう?」
という視点で考えることが重要です。
子どもでは困りごとが周囲から見えにくいこともある
発達特性による困りごとは、いつでも同じように表面へ現れるとは限りません。
特に学校では、本人が周囲に合わせようと強く努力していることがあります。
例えば、
- ルールを守ろうと常に意識している
- 周囲の子の行動を見ながら同じように動いている
- 失敗しないよう何度も確認している
- 困っていても助けを求めず我慢している
- 注意がそれないよう常に緊張している
このような場合、教師からは「問題なく過ごせている子」に見えることがあります。

しかし、学校で多くのエネルギーを使った結果、帰宅すると強く疲れていたり、気持ちが崩れたりすることもあります。
家庭と学校で様子が大きく違う場合には、「どちらが本当なのか」と考えるのではなく、それぞれの環境で本人がどのように過ごしているのかを共有することが大切です。
ASDとADHDを併発している子どもへの接し方・支援
ASDとADHDの両方の特性がある子への支援で大切なのは、
「ASD向けの支援+ADHD向けの支援」を機械的に組み合わせることではありません。
その子が実際に困っている場面を見て、必要な支援を組み合わせていきます。

① 予定や手順を「見えるようにする」
「ちゃんとして」
「次の準備をして」
「早くやって」
といった曖昧な指示では、何をどこまで行えばよいのか分かりにくいことがあります。
例えば、
② 算数の教科書とノートを出す
③ 筆箱を机の右側に置く
④ できたら先生に知らせる
というように、やることを具体的に示します。
予定表、チェックリスト、写真、イラストなど、その子に合った方法で見えるようにすると、毎回言葉で促す量を減らせる場合があります。
② 注意をそらす刺激を減らす
集中できないとき、「集中しなさい」と本人の努力だけを求めるのではなく、環境も見直します。
例えば、
- 人の出入りが少ない席へ移動する
- 机の上に必要な物だけを置く
- 掲示物が視界に入り続けない位置にする
- 必要に応じてパーテーションを使う
- 刺激の少ない場所で休めるようにする
といった方法があります。
本人が集中できるよう努力することだけでなく、集中しやすい環境を大人側がつくるという視点が重要です。
③ 課題を小さく分ける
「このプリントを全部やる」では負担が大きい場合には、課題を小さくします。
例えば、
↓
できたら確認
↓
「次の3問」
というように進めます。
ゴールが遠すぎる課題は、始めること自体が難しくなることがあります。
「今やること」と「どこまでやれば終わりなのか」を分かりやすくすることが大切です。
④ 本人と一緒に「自分の困り方」を整理する
支援者がすべての方法を決めるのではなく、本人にも聞いてみます。
例えば、
- どんなとき困る?
- どんな音が苦手?
- どうしてもらえると分かりやすい?
- 休みたいときは、どう伝えたい?
- 自分でできそうな方法はある?
と確認します。
自分の得意なこと、苦手なこと、助けてほしいことを知ることは、将来、自分で必要な支援を伝える力にもつながります。
自分の「得意・苦手・助けてほしいこと」を整理する無料ワーク
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「わたしのトリセツ」無料プリントを見る⑤ 必要な場面ではSSTも活用する
友達との関わり方、困ったときの伝え方、助けの求め方などを学ぶ方法として、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を活用することもできます。
ただし、SSTの目的は「周囲と同じように振る舞わせること」ではありません。
本人が実際に困っている場面について、
- どんな方法が使えそうか
- どんな言葉なら伝えやすいか
- 困ったときに誰へ助けを求めるか
- うまくいかなかったときにどうやり直すか
といった選択肢を増やすことが大切です。
SSTトレーニングの進め方とは?基本の技法や実践例を解説
発達障害の子の「気持ちのコントロール」を育む自立活動
放課後等デイサービスのSST実践ガイド
ASD・ADHDの併発が気になるときの診断・相談先
「ASDとADHDの両方の特性があるのでは?」と感じても、家庭や学校での様子だけから診断を決めることはできません。
子どもの発達について医療的な評価を希望する場合は、小児科、児童精神科、発達外来などが相談先になります。
また、診断の有無にかかわらず、学校生活や日常生活で困っている場合には支援について相談することができます。
例えば、
- 学校の担任
- 特別支援教育コーディネーター
- スクールカウンセラー
- 市区町村の発達相談窓口
- 児童発達支援センター
- 利用している児童発達支援・放課後等デイサービス
などがあります。
相談するときには、単に「ASDかもしれない」「ADHDかもしれない」と伝えるだけでなく、
- どんな場面で困るのか
- いつ頃からみられるのか
- どのくらいの頻度で起こるのか
- 家庭と学校で違いがあるか
- うまくいった支援は何か
- 本人自身は何に困っていると言っているか
を記録しておくと、本人の状態を共有しやすくなります。
大人になってからASDとADHDの両方に気づくこともある?
大人になってから、発達特性による困りごとについて相談する人もいます。
子どもの頃は、家族や学校によって生活の予定がある程度決められていたため、困りごとが目立たなかった人でも、進学や就職、一人暮らしなどによって自己管理することが増えると、生活上の難しさが表面化する場合があります。
例えば、
- 複数の仕事の優先順位を決めることが難しい
- 締め切りや予定の管理に苦労する
- 急な予定変更に強いストレスを感じる
- 職場の暗黙のルールを理解しにくい
- 忘れ物や提出忘れを繰り返す
- 人間関係で強く疲れる
といった困難が生じることがあります。
大人の場合も、「自分はASDなのかADHDなのか」と自己判断することより、どんな場面で生活や仕事に支障があるのかを整理することが重要です。
よくある質問
Q. ASDとADHDは両方診断されることがありますか?
A. あります。現在は、それぞれの診断基準を満たす場合、ASDとADHDの両方が診断されることがあります。
Q. 「ASD・ADHD併発」という正式な診断名があるのですか?
A. 「ASD・ADHD併発」という一つの独立した診断名があるわけではありません。ASDとADHDそれぞれの診断や特性が同じ人に併存している状態を表す言葉として使われています。
Q. ASDとADHDを併発すると、どんな困りごとがありますか?
A. 人によって異なりますが、予定通りに行動したいのに注意がそれる、やるべきことは分かっているのに始められない、対人関係で複数の困難が重なる、感覚刺激と注意のそれやすさが重なる、といった困りごとがみられることがあります。
Q. 子どもでもASDとADHDを併発することがありますか?
A. あります。子どもの場合もASDとADHDの両方の特性がみられることがあります。ただし、学校や家庭でみられる一つの行動だけで判断することはできません。気になる場合は、生活上の困りごとを整理したうえで専門機関へ相談してください。
Q. 大人になってからASDとADHDの両方に気づくことはありますか?
A. あります。就職や一人暮らしなどによって自己管理することが増え、子どもの頃には目立たなかった困りごとが表面化する場合があります。
まとめ|診断名より「何に困っているか」を見る
ASDとADHDは、同じ人に併発・併存することがあります。
しかし、「ASDとADHDの両方があるからこのような行動をする」と単純に説明できるものではありません。
同じ診断名であっても、本人が困っている場面や必要な支援は一人ひとり異なります。
「この子は、どんな場面で何に困っているのだろう?」と考えること。
私は、これが支援を考えるうえでとても大切だと感じています。
行動だけを見て叱るのではなく、その背景にある困りごとを整理し、環境を調整し、本人と一緒に使える方法を増やしていく。
その積み重ねが、本人の「できた」「これなら大丈夫」という経験につながっていきます。
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