「また謝らなかった…」
友達を傷つけてしまったのに、何度促しても黙ったまま。むしろ怒ったような顔をしている。そんな場面に、担任として何度も直面してきました。
「なんで謝れないの!」「ちゃんと反省しなさい!」と声を荒げてしまったこともあります。でも、それで謝れるようになったことは、一度もありませんでした。
私は教員歴18年、うち支援学級を8年担任してきました。その経験の中でわかったことがあります。
ASDの子が謝れないのは、わがままでも反省していないわけでもありません。脳の特性が、「謝る」という行動を極めて難しくしているのです。
この記事では、ASDの子どもが謝れない本当の理由と、学校や家庭で実践できる具体的な指導のステップをお伝えします。
ASDの子が「ごめんなさい」を言えない4つの理由
まず大前提として理解しておきたいのは、ASDの子どもにとって「謝る」という行動は、私たちが思っている以上に複雑な認知処理を必要とするということです。
「謝る」という一言の背景には、次のような思考プロセスがあります。
- 自分の行動が相手を傷つけたと気づく
- 相手がどんな気持ちになっているかを想像する
- その状況で「謝る」という行動が適切だと判断する
- 「ごめんなさい」という言葉と、適切な表情・態度を同時に表現する
この4ステップを瞬時にこなすことが、定型発達の人でも実は難しい。ASDの特性を持つ子どもにとっては、さらにハードルが上がります。具体的に見ていきましょう。

① 相手の気持ちが「見えない」
ASDの特性のひとつに、他者の感情を直感的に読み取ることの難しさがあります。
「相手が怒っている」「悲しんでいる」という情報は、表情・声のトーン・文脈などを総合的に読み取ることで初めてわかります。しかしASDの子どもは、この「複数の情報を同時に統合する」ことが苦手です。
相手が泣いていても「なぜ泣いているのかわからない」、怒った顔をしていても「怒っているとは思わなかった」ということが、実際に起こります。
謝るためには「相手が傷ついた」という認識が前提ですが、その認識自体が持てていない場合、謝る動機が生まれないのは当然のことです。
② 「自分が悪い」という認識が持てない
自分の行動を客観的に振り返ることも、ASDの子どもには難しいことがあります。
たとえば友達のブロックを崩してしまったとき。本人の中では「ちょっと触っただけ」「わざとじゃない」という認識があります。「わざとじゃないのに、なぜ謝らないといけないのか」という疑問が生じ、謝ることへの抵抗感が強まります。
また、「自分が悪い」と認めることは、自分のプライドや自己像を傷つけることにつながります。これはASDに限らず多くの子どもにあることですが、ASDの場合は特にこだわりの強さと合わさって、「絶対に自分は悪くない」という姿勢が強固になることがあります。

③ 「謝るルール」が見えない曖昧なものである
私たちが「謝るべきタイミング」を判断するとき、実は明文化されていないさまざまな社会ルールを使っています。
「わざとではなくても、相手が悲しんでいれば謝る」「ケンカ両成敗でも、先に手を出した方が謝る」「謝罪は言葉だけでなく、しおらしい態度も必要」――これらはどこにも書いてありませんが、定型発達の人は自然に習得します。
ASDの子どもにとって、こういった「暗黙のルール」は非常に習得しにくいものです。「なぜこの場面で謝る必要があるのか」が論理的に理解できないと、謝ることができません。
支援学級で担任をしていると、「ごめんなさいって言えばいいってわかってる。でも言えない」という子どもに出会います。「わかっている」と「できる」の間には、大きな溝があるのです。
④ 「謝り方」そのものを知らない
謝罪には、言葉・表情・声のトーン・姿勢など複数の要素が同時に必要です。「ごめんなさい」と言いながら怒った顔をしていれば、相手には誠意が伝わりません。
ASDの子どもは、この「言葉と表情と態度を一致させる」ことが特に難しいことがあります。心の中では申し訳なく思っていても、表情が乏しかったり、棒読みのような謝り方になってしまったりします。
すると相手から「本当に反省してるの?」と追及され、さらに混乱が深まる、というサイクルに陥りがちです。
やってしまいがちな「逆効果な対応」
理由がわかったところで、次によくある「やってしまいがちだけど逆効果な対応」を確認しておきましょう。善意の対応が、子どもをより追い詰めることがあります。
✕ 「謝りなさい!」と繰り返す
最も多いパターンです。何度も「謝りなさい」と言い続けることで、子どもはパニックになるか、さらに頑なになるかのどちらかです。
「謝りなさい」という指示は、「なぜ謝るべきか」「どう謝ればいいか」を何も教えていません。やり方がわからない子どもに「やりなさい」と繰り返すのは、逆効果なのです。
✕ 謝るまでその場で待ち続ける
「謝らないと終わらないよ」という状況を作る対応も、ASDの子どもには機能しにくいです。
追い詰められた状態では、言葉が出てきません。無理やり言わせた「ごめんなさい」は、本人にとって意味のある学習になりません。むしろ、謝罪という行為そのものに強いストレスを感じるようになってしまいます。
✕ 「相手がどんな気持ちか考えてごらん」と言う
共感を引き出そうとするこの声かけは、定型発達の子には有効でも、ASDの子どもには難しいことがあります。
「相手の気持ちを考える」こと自体が苦手な特性があるため、「考えてごらん」と言われてもわからないのです。「考えられない」ことを責められているように感じ、パニックや拒絶につながることもあります。
特支担任が実践する「謝り方の指導」ステップ
では、どう指導すればいいのか。支援学級での実践をもとに、具体的なステップをお伝えします。
大切なのは、「感情が高ぶっているときに謝らせようとしない」ということです。クールダウン後に、落ち着いた状態で振り返ることが基本です。
ステップ① まず「何が起きたか」を整理する
感情論ではなく、事実の整理から始めます。
「Aくんがブロックを触ったら、崩れてしまった」「BくんがCくんの絵に線を引いた」というように、起きた出来事を客観的に言葉にします。
この段階では「だから謝りなさい」とは言いません。ただ「何が起きたか」を整理することが目的です。
支援学級では、絵や図を使って出来事を整理することも有効です。「コミック会話」と呼ばれる手法で、吹き出しを使って「このとき〇〇くんは何を考えていたか」「相手は何を感じたか」を視覚的に整理します。
ステップ② 「相手の気持ち」を視覚化・言語化する
次に、相手の気持ちを「見える化」します。
「相手の顔を見てごらん。どんな顔をしてる?」と問いかけ、「悲しそう」「困ってる」という感情を言葉にします。もし表情から読み取ることが難しければ、感情カードや表情イラストを使うのも効果的です。
「ブロックが崩れて、Bくんはどんな気持ちだったと思う?」と聞き、「悲しかった」「がっかりした」という言葉を引き出せたら、次のステップに進みます。
ここでのポイントは「相手が悲しかった」という事実を確認することです。「あなたが悪い」という評価ではなく、「相手に悲しい気持ちが生まれた」という事実を共有することで、子どもの防衛反応を最小限にできます。
ステップ③ 「謝る意味」を論理的に説明する
ASDの子どもが納得して謝るためには、「なぜ謝るのか」の論理的な説明が必要です。
「謝ると、相手の悲しい気持ちが少し楽になるよ」「謝ることで、また友達として仲良くできるよ」という説明が有効です。「ルールだから謝れ」ではなく、「謝ることのメリット」を論理的に伝えます。
8年間の支援学級担任の経験の中で、「自分が謝ると相手の気持ちが楽になる」ということを理解した途端に、自分から謝れるようになった子が何人もいました。理由がわかれば、動ける子がほとんどなのです。
ステップ④ ロールプレイで「謝り方」を練習する
「謝るべき場面がわかった」次は「どう謝るか」の練習です。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)のロールプレイを使い、実際の場面を再現しながら練習します。
具体的には以下のような流れです。
- 先生や保護者が相手役になる
- 「相手の顔を見て」「小さな声で」「『ごめんね』と言う」を一つずつ確認する
- うまくできたら、すぐに「よく言えたね!」と具体的にほめる
- うまくできなくても「もう一回やってみよう」と繰り返す
この練習は、実際にトラブルがあったときだけやるのではなく、日常的に「SST」の時間として行うのが理想です。非常時に初めてやろうとしても、パニック状態の子どもには難しいからです。
また「ごめんね」という言葉に強い抵抗感がある子どもには、「気をつけるね」「次はしないようにするね」といった代替フレーズを用意することも有効です。
ステップ⑤ 小さな成功体験を積み重ねる
「謝れた」という成功体験が、次の謝罪につながります。
大きなトラブルで謝らせようとする前に、日常の小さな場面でたくさん練習することが重要です。給食でお皿が当たってしまったとき、廊下でぶつかったとき――こういった小さな場面で「ごめんね」と言えたときに、しっかりほめます。
「自分で謝れた」という成功体験が積み重なることで、謝ることへの抵抗感が少しずつ下がっていきます。
保護者・担任が知っておきたい「長期的な見通し」
すぐには変わらないが、確実に育つ
一番大切なのは、「すぐに謝れるようにしようとしない」ことかもしれません。
ASDの子どもが「謝り方」を習得するには、定型発達の子どもより多くの時間と練習が必要です。1回教えてできるようにはなりません。同じことを何度も繰り返しながら、少しずつ体に染み込ませていく作業です。
それでも、丁寧に関わり続けることで、確実に変化は生まれます。支援学級担任として実感しているのは、「時間をかけた子ほど、謝り方が自分のものになる」ということです。
謝れないことで二次障害を防ぐ
「謝れない子」は、周囲から「わがまま」「反省していない」と見られ続けます。友達から避けられ、教師や保護者から叱られ続けることで、自己肯定感が大きく傷つきます。
これが積み重なると、不登校や自傷、強い反抗などの二次障害につながることがあります。
「なぜ謝れないのか」を理解して適切な支援につなぐことは、子どもの今だけでなく、将来を守ることでもあります。
担任・保護者が「責めない」ことが最大の支援
謝れない子どもを目の前にしたとき、どうしてもイライラしてしまうことがあります。それは当然の感情です。でも、責め続けることは子どもを追い詰めるだけです。
「この子は謝り方を知らないだけ。教えれば必ずできるようになる」という視点で関わることが、支援の第一歩です。
学校での指導に使える教材について
謝り方の指導は、SSTの中で体系的に行うのが最も効果的です。単発で「謝りなさい」と指示するのではなく、日常的な練習として取り組むことで、子どもに定着しやすくなります。
私が支援学級で使ってきたアンガーマネジメント教材には、感情の整理から謝り方の練習まで活用できるカードが含まれています。怒りの場面カード・感情レベルカードを使って、「今どのくらい怒っているか」「どう対処するか」をゲーム感覚で学べます。
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また、SST全体を通じて支援学級の1年を組み立てたい先生には、教材・指導計画・ワークシートをすべてまとめた「支援級コンプリートBOX」もご活用ください。
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まとめ:謝れないのは「特性」。指導できるスキルです
ASDの子どもが謝れない理由を、改めて整理します。
- 相手の気持ちが直感的に読み取れない
- 「自分が悪い」という客観的な認識が持ちにくい
- 謝るタイミングや謝り方の「暗黙のルール」が見えにくい
- 言葉・表情・態度を同時に合わせることが難しい
これらはすべて、ASDの脳の特性から来るものです。わがままでも、反省していないわけでもありません。
そして、これらは適切な指導で確実に改善できます。
- クールダウン後に「何が起きたか」を整理する
- 相手の気持ちを視覚化・言語化する
- 「なぜ謝るのか」を論理的に説明する
- ロールプレイで「謝り方」を繰り返し練習する
- 小さな成功体験をたくさん積み重ねる
急がなくていいです。焦らなくていいです。子どもは必ず育ちます。
18年間、たくさんの子どもたちと向き合ってきた経験から、自信を持ってお伝えできます。丁寧に関わり続けた先に、必ず「ごめんね」と言える日が来ます。
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