「ルールが守れない」「負けると癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう」「友だちとうまく関われない」……。
発達障害のあるお子さんの支援において、こうしたコミュニケーションや社会性の課題に悩まれている先生や保護者の方は多いのではないでしょうか。
実は、「ボードゲーム」は、楽しみながらこれらの課題にアプローチできる最強の療育ツールです。
この記事では、特別支援教育の現場で実際にボードゲームを活用してきた経験から、発達障害のある子どもたちに真におすすめできる「協力型ゲーム」を中心に紹介します。また、単なる遊びで終わらせないための「自立活動の視点」を取り入れた指導法や、具体的な発問例も詳しく解説します。
この記事を読むとわかること
- ボードゲーム療育が発達障害の子どもに効果的な理由
- 発達障害 コミュニケーションゲームとしての具体的な活用法
- 自立活動6区分27項目に基づいた指導のねらい
- 失敗から学んだ、子どもが安心して参加できる指導のコツ
- 授業や家庭ですぐ使えるおすすめボードゲーム5選
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ボードゲームは子どもにどんな効果がある?自立活動との関連性
なぜ今、教育や療育の現場でボードゲームが注目されているのでしょうか。それは、ボードゲームが「社会の縮図」であり、失敗してもやり直せる安全な練習の場だからです。
特別支援教育における「自立活動」の6区分27項目と照らし合わせると、ボードゲームがいかに学習指導要領に即した教材であるかが分かります。
1. 人間関係の形成(自立活動区分5)
ボードゲームは他者意識を育てます。「順番を待つ」「相手の出方を見る」「協力する」といった行為は、独りよがりでは成立しません。ゲームを通して、自然と他者との関わりの基礎を学ぶことができます。
2. コミュニケーション(自立活動区分4)
自分の意図を伝える、相手の意図を読み取る練習になります。特に今回紹介する協力型ゲームでは、「相談」が必須となるため、必然性のあるコミュニケーションが生まれます。
3. 心理的な安定(自立活動区分3)
「勝ち負け」による情動の調整は大きな課題です。負けた時の悔しさの処理や、勝った時の相手への配慮など、感情のコントロールを実体験の中で学びます。
指導のメモ:
かつて私は、負けるたびにボードをひっくり返す子に対して「ダメでしょ!」と叱るだけの指導をして失敗しました。その子に必要だったのは、叱責ではなく「負けそうになった時の対処法(ヘルプの出し方)」や「勝ち負けのないゲームでの成功体験」でした。
発達障害が好むゲーム・苦手なゲームの特徴
発達障害 ボードゲーム おすすめで検索すると多くのゲームが出てきますが、すべてが彼らに適しているわけではありません。特性を理解した選定が必要です。
特性別:相性の良いゲームのポイント
- 視覚的構造化: 見通しが立ちやすいもの。カードやコマのデザインが分かりやすいもの。
- 協力型(Cooperative): 全員で勝つか、全員で負けるか。個人の責任が分散されるため、失敗への過度な不安を持つ子(HSC傾向やASD傾向)に適しています。
- 運と実力のバランス: 完全な実力勝負だと実力差が出すぎますが、運要素があると誰にでもチャンスがあり、参加意欲が高まります。
避けたほうがよい場合があるゲーム
- 騙し合い(ブラフ系): 嘘をつくことが苦手なASDタイプの子には苦痛になることがあります。
- 脱落型: 途中でゲームから外れるルールは、待つことが苦手なADHDタイプの子の集中力を切らせてしまいます。
実践!発達障害の子におすすめの協力型ボードゲーム5選
ここからは、実際に自立活動の授業で使用し、効果を感じたゲームを5つ紹介します。以前紹介した『スペース・エスケープ』を含め、難易度順に並べています。
1. 果樹園(The Orchard / HABA社)
【対象】 未就学〜小学校低学年・初心者
【自立活動のねらい】
- [人間関係の形成] ルールを理解し、決まりを守って参加する。
- [環境の把握] 色や形を識別し、対応する行動をとる。
【ゲームの概要】
カラスが果樹園に到達する前に、みんなで協力して果物をすべて収穫するゲームです。サイコロの色に合わせて果物を摘むというシンプルなルールです。
【指導のコツ・発問例】
このゲームは「負け(カラスの勝利)」が決まった瞬間、泣き出す子がいます。
- 指導のポイント: カラスのパズルが完成しそうになった時、指導者が「うわあ、カラスが近づいてきた!ピンチだ!誰か助けて!」と状況を実況・言語化してあげてください。「ピンチ」という概念を共有することで、負けた時も「みんなで頑張ったけど強かったね」と共感しあえます。
- 発問例: 「サイコロでカラスが出ちゃったね。どうするんだっけ?」「赤いリンゴを取るよ。カゴに入れてくれる?」
2. SSTボードゲーム「なかよしチャレンジ」(小学校1・2・3年生向け)
【対象】 小学校1年生〜3年生(低学年向けSST教材)
【自立活動のねらい】
- [人間関係の形成] トラブル場面における適切な対処法(謝る、断る、譲るなど)を知り、他者との摩擦を減らす。
- [コミュニケーション] 自分の気持ちを適切に伝える「アサーション」や、困った時に「助けを求める」スキルを言語化して練習する。
【ゲームの概要】
「授業中に遊びに誘われたら?」「給食をこぼしてしまったら?」など、学校生活でよくある場面をテーマにしたすごろくです。マスに止まると3択の質問カードを引き、「自分ならどうするか」を選んで答えます。低学年の子でも答えやすい設計が特徴です。
【指導のコツ・発問例】
このゲームは「正解を覚えること」よりも、「なぜその行動が良いのか(悪いのか)」を考えるプロセスが重要です。
- 指導のポイント: 3択の中に正解と思われる選択肢がありますが、子どもが別の答えを選んだ時もすぐに否定せず、「なるほど、それを選ぶとどうなるかな?」と一緒にシミュレーションします。また、選んだセリフを実際に口に出して言う「ロールプレイ」を取り入れると、実践的な力がつきます。
- 発問例: 「①の言い方だと、相手はどんな気持ちになると思う?」「実際に先生に言う練習をしてみようか。『先生、すみません…』はい、どうぞ!」
3. スペース・エスケープ(Mole Rats in Space)
【対象】 小学校中学年〜高学年
【自立活動のねらい】
- [コミュニケーション] 自分の手札情報を言語化し、仲間に提案する。
- [人間関係の形成] 集団の目標達成のために、自分の役割を果たす。
【ゲームの概要】
以前の記事で詳しく紹介しましたが、ヘビに噛まれないように装備を集め、脱出ポッドを目指すハラハラドキドキの協力ゲームです。
このゲームの詳しいルールや個別の指導案については、以前書いたこちらの記事をご覧ください。
🔗 内部リンク:スペース・エスケープの指導案と詳細レビュー
【指導のコツ・発問例】
このゲームは「あえて下がったほうが良い(戦略的撤退)」などの高度な判断が求められます。
- 指導のポイント: 手札を見せ合って相談できる(オープンハンド)ルールで最初は行いましょう。衝動性の高い子がすぐに駒を動かそうとした時、「待った!」をかける練習になります。
- 発問例: 「このカードを使うと、Aくんがヘビに噛まれちゃうね。別の方法はないかな?」「脱出するために、今一番必要なものは何だろう?」
4. ザ・マインド(The Mind)
【対象】 小学校高学年〜中高生(SSTとして非常に優秀)
【自立活動のねらい】
- [コミュニケーション] 非言語的コミュニケーション(表情、間、息遣い)を読み取る。
- [心理的な安定] 緊張感の中で衝動を抑制する。
【ゲームの概要】
「喋ってはいけない」協力ゲームです。全員が手札の数字を小さい順に出していくのですが、誰がどの数字を持っているかは分かりません。「間」を読んで空気を読むゲームです。
【指導のコツ・発問例】
ADHD傾向のある子は待てずにカードを出してしまいがちで、ASD傾向のある子は「間」を読むのが難しい場合があります。
- 指導のポイント: 失敗した時に「なんで出したの!」とならないよう、「今のタイミング、早かったね~惜しい!」「目を見合わせると分かるかもよ?」と、非言語サインに注目させます。まさに「空気を読む」を可視化する訓練です。
- 発問例: (ゲーム後の振り返りで)「Bくんが出そうとした時、どんな顔をしてた?」「長い時間誰も出さなかったのは、どうしてだと思う?」
5. パンデミック(Pandemic: The Board Game)※または『禁断の島』
【対象】 高学年〜(論理的思考・戦略性が高い)
【自立活動のねらい】
- [人間関係の形成] 役割分担(職能)を理解し、自分の得意分野で貢献する。
- [健康の保持] (テーマに関連して)衛生管理や危機管理への興味関心を広げる。
【ゲームの概要】
世界中に広がるウイルスを、専門家チームとして根絶する世界的名作。難易度は高いですが、それぞれのキャラクターに「特殊能力」があり、自分の役割が明確です。
【指導のコツ・発問例】
「奉行問題(ゲーム慣れした一人が全部指示してしまうこと)」が起きやすいです。
- 指導のポイント: 指導者はファシリテーターに徹し、声の小さい子に「Cさんのキャラの能力、今使うとすごく助かるんだけど、どう思う?」と活躍の場(スポットライト)を当ててください。「自分が役に立った」という自己有用感を強烈に感じられます。
- 発問例: 「今、世界を救うために一番急がないといけない場所はどこ?」「君の役割でしかできないことがあるよ。それは何かな?」
ボードゲーム療育の核心:始める前の「ねらい」と終わった後の「振り返り」
ただ「遊んで楽しかった」で終わらせては、療育としての効果は半減します。自立活動の授業と同様に、ゲームの前後に必ず「学びの枠組み」を設定しましょう。
ゲーム前の「自分だけのねらい」
ゲームを始める前に、子ども自身に今日の目標を決めさせます。
- 「負けても怒らない」
- 「人の話を最後まで聞く」
- 「自分から『どうする?』と聞く」
ゲーム後の「振り返り」
活動の終わりには、勝敗の結果ではなく、目標が達成できたかを評価します。負けてしまっても、目標が達成できていれば「今日は大成功!」と評価することで、自己肯定感を高めます。
目標設定と振り返りの技術
具体的にどのようなシートを使って、どう子どもたちに目標を立てさせればよいのか。自立活動の授業における「ねらい設定と振り返りのコツ」については、以下の記事に詳しくまとめました。合わせて読むことで、ボードゲーム指導の質が劇的に上がります。
🔗 内部リンク:自立活動の授業における「ねらい」の立て方と「振り返り」の指導技術
関連記事
まとめ:ボードゲームは「小さな社会」へのパスポート
ボードゲーム 発達障害 おすすめの記事として、協力型ゲームを中心に5つ紹介しました。
- 果樹園: ルール理解と共有の第一歩に。
- レオ: 失敗を共有し、記憶を補い合う。
- スペース・エスケープ: 戦略的な相談と役割遂行(内部リンク参照)。
- ザ・マインド: 非言語コミュニケーションと衝動の抑制。
- パンデミック: 自己有用感と高度な役割分担。
私の指導経験上、最も大切なコツは、「指導者自身が本気で楽しむこと」、そして「失敗(負け)を笑い飛ばせる雰囲気を作ること」です。
「あー!間違えた!でも次はこうしよう!」と大人が率先して失敗から立ち直る姿を見せることこそが、子どもたちへの最高のお手本(モデリング)になります。
ぜひ、目の前の子どもたちに合ったゲームを選び、素敵な時間を共有してください。
参考文献・外部リンク
この記事の作成にあたり、自立活動の区分や指導内容については、文部科学省の学習指導要領解説を参考にしています。より専門的な背景を知りたい方は、以下をご参照ください。




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