「さっきまで機嫌がよかったのに、急に怒り出した」
「一度パニックになると、言葉が届かなくなる」
特別支援学級の担任の先生や、発達障害のあるお子さんを育てる保護者の方から、もっとも多く寄せられる悩みのひとつが「感情・気持ちのコントロール」についてです。
「我慢が足りない」「わがまま」と誤解されがちですが、これは脳の特性によるスキルの課題であり、適切なツールと指導があれば、子どもたちは必ず自分の感情との付き合い方を学んでいきます。
今回は、「4つのゾーン(感情の区分)」と「怒りメーター(感情の数値化)」という2つの視覚支援プリント(画像)を活用し、そのまま授業で使えるSST(ソーシャルスキルトレーニング)の展開案をご紹介します。
また、特別支援教育の根幹である「自立活動の6区分27項目」に照らし合わせ、指導の狙いを明確にします。
この記事を読むと分かること
- 発達障害 気持ちのコントロールが難しい脳の仕組みと理由
- 「感情のコントロールができない障害」とは何か、その疑問への答え
- 自立活動の「6区分27項目」に基づいた専門的な指導目標の立て方
- 小学生にもわかりやすい「気持ちのコントロール 方法」と授業案
- 「気持ちのコントロール プリント」としての画像教材の具体的な使い方
発達障害 気持ちのコントロールが難しいのはなぜ?
まず、具体的な指導法に入る前に、なぜ発達障害(神経発達症)のある子どもたちが感情調整を苦手とするのか、その背景を理解しておきましょう。
感情のコントロールができない障害は?
「気持ちのコントロールができない」という状態は、主に以下の特性に関連して現れることが多いです。
- ASD(自閉スペクトラム症)
予想外の出来事への不安、感覚過敏による不快感、こだわりが崩れた時のパニックなどが見られます。「感情のコントロールができない ASD」と検索されることが多いですが、これは「怒りっぽい」のではなく、「不快や不安の原因が解消されないことへの混乱」である場合が大半です。 - ADHD(注意欠如・多動症)
衝動性が強く、カッとなった瞬間に手が出たり、大声が出たりします。ブレーキをかける脳の機能(抑制機能)の発達がゆっくりであるためです。 - 二次的な情緒障害
失敗体験の積み重ねにより、自尊心が低下し、防衛反応として攻撃的になったり、過度に落ち込んだりするケースです。
発達障害は感情をコントロールできないのでしょうか?
結論から言うと、「できない」のではなく、「自分の感情に気づくこと」と「適切な表現方法」を学ぶ機会が必要なだけです。
定型発達の子どもは、周囲の様子を見ながら自然と「今は怒ってもいい場面か」「どうやって気持ちを落ち着けるか」を習得します。しかし、発達障害のある子どもは、自分の内面で起きている感情の嵐に気づきにくかったり(自己受容の弱さ)、言葉で表現するのが苦手だったりします。
だからこそ、今回紹介するような「視覚化されたツール(プリント)」を使って、「今の自分はどの状態か?」を客観視する練習(外在化)が必要なのです。
自立活動の視点で考える:6区分27項目と感情調整
特別支援学校や特別支援学級において、指導の要となるのが「自立活動」です。
今回使用する「4つのゾーン」と「怒りメーター」の教材は、自立活動の6区分27項目のうち、主に以下の項目に深く関連しています。個別の指導計画(IEP)を作成する際の参考にしてください。
1. 【区分2】心理的な安定
感情のコントロールにおいて最も直接的な項目です。
- (1) 情緒の安定に関すること
自分の感情の波に気づき、興奮や不安を和らげようとする力を育てます。 - (2) 状況の理解と変化への対応に関すること
「今、自分が置かれている状況(授業中なのか、休み時間なのか)」を理解し、その場にふさわしい感情表出を学びます。
2. 【区分3】人間関係の形成
- (2) 自己の理解と行動の調整に関すること
「怒りメーター」が5(爆発)になる前に、自分でクールダウンするなどの行動調整を行います。
3. 【区分6】コミュニケーション
- (3) 言語の受容及び表出に関すること
「ムカつく!」という行動ではなく、「いま、きいろのゾーンだから、しんぱいなんだ」と、適切な言葉で相手に伝える力を養います。
【教材1】「4つのゾーン」を使った授業展開案
ここからは、4つの色(青・緑・黄・赤)に分けられたゾーンのイラストを活用した具体的な指導案です。この教材は、「自分の今の状態をモニタリング(自己理解)する」ために最適です。

狙い(自立活動の目標)
- 今の自分の気持ちがどの色(ゾーン)にあるか気づくことができる。【心理的な安定】
- 各ゾーンに適した過ごし方を知る。【自己の理解と行動の調整】
授業の流れ(45分)
1. 導入:気持ちには「色」がある?(10分)
先生は「あおのぞーん」「みどりのぞーん」「きいろのぞーん」「あかのぞーん」と書かれた大きな掲示物を黒板に貼ります。
- 先生: 「みんな、元気かな? 心の中の天気はどうかな? 今日は、心の『色』について勉強しよう。」
- 活動: イラストを見ながら、それぞれのキャラクターがどんな顔をしているか確認します。「青の男の子はどんな顔? そう、元気がないね。『つかれている』って書いてあるね。」
2. 展開:自分は今どこ?(15分)
- 先生: 「じゃあ、今のみんなはどの色かな? 指差してみよう。」
- ポイント: 「みどりのゾーン」が良い、「あかのゾーン」が悪い、と決めつけないことが重要です。「あかのゾーン」にいる子がいれば、「そうか、今は赤なんだね。教えてくれてありがとう」と受容します。
3. 実践:各ゾーンの対処法を考える(15分)
ここが「気持ちのコントロール 方法」を学ぶ核心部分です。
各ゾーンにいる時に「どうすれば緑(リラックス・集中)に戻れるか」、または「どう対処すればいいか」を話し合います。
- 青のゾーン(エネルギー不足)のとき
対策:水を飲む、ストレッチをする、少し休む。 - 黄のゾーン(エネルギー上昇・注意信号)のとき
対策:深呼吸をする、先生に「こまっています」と伝える、静かな場所に行く。 - 赤のゾーン(エネルギー爆発)のとき
対策:安全な場所でひとりになる、クッションをぎゅっとする(他害を防ぐ)。
4. まとめ(5分)
「気持ちは変わってもいいんだよ。でも、赤になる前に黄色で気づけるといいね」と伝えます。教室の常設掲示としてこのプリントを貼り、毎朝の「朝の会」で「今日のゾーン確認」を行うと定着します。
教材はこちらから⇩
【教材2】「怒りメーター」を使った「爆発」を防ぐ具体策
次に、1〜5の数字で描かれた「怒りメーター」のイラストを活用します。これは、「怒りの段階理解」と「スモールステップでの対処」に役立ちます。

狙い(自立活動の目標)
- 怒りがいきなり「爆発」するのではなく、段階があることを知る。【心理的な安定】
- レベル3(ちょっといや)やレベル4(いらいら)の段階で、SOSを出したり対処したりできるようにする。【コミュニケーション】
授業展開のヒント:怒りの温度計を作ろう
子どもたち一人ひとりに、このメーターのプリントを配ります。そして、自分の経験を書き込んで(または選んで)もらいます。
- レベル1(たのしい): ゲームをしている時、給食の時間
- レベル2(ふつう): 授業を聞いている時
- レベル3(ちょっといや): 難しい問題が出た時、消しゴムが落ちた時
- レベル4(いらいら): 友達にちょっかいを出された時、負けそうな時
- レベル5(ばくはつ): 叩かれた時、ずっと我慢していた時
【指導のポイント:気持ちのコントロール 小学生編】
発達障害のある子は、レベル1からいきなりレベル5へ飛んでしまうように感じることがあります(0か100か思考)。しかし、丁寧に見返すと「実はレベル3の『ちょっといや』なことがあった」と気づくことができます。
「レベル3で気づく練習」を行いましょう。「『ちょっといや』だと思ったら、先生に合図を送ろう」「水を飲みに行こう」など、爆発する前の「スモールステップの対処行動」を決めておくことが、最も効果的なコントロール方法です。
教材はこちら⇩
感情のコントロールができないASD児への声かけと環境調整
教材を使うだけでなく、教師や保護者の関わり方も重要です。
1. クールダウンエリアの設置
「あかのゾーン」や「メーター5」になりそうな時、子どもが物理的に避難できる場所(パーティションで区切った静かな場所など)を教室内に作ります。これは「罰」ではなく「心を休める場所」としてポジティブに提示します。
2. 視覚的なフィードバック
子どもがパニックになっている時、多くの言葉は届きません。そんな時こそ、今回作成いただいた画像を指差し、「今はここ(赤)だね。深呼吸しよう」と視覚的に示すことで、子どもは我に返りやすくなります。
3. 「できたこと」を認める
「怒らずに我慢できた」時だけでなく、「怒りそうになったけど、途中で先生に言いに来れた」時に全力で褒めてください。「自分でコントロールできた!」という自己効力感こそが、次のステップへの原動力になります。
おすすめの自立活動の実践をまとめた書籍を出版しています。各種教材のダウンロードも可能ですので、ぜひ手に取っていただければ、指導の引き出しがさらに増えることと思います⇩
まとめ:ツールを使って「心の翻訳」をしよう
発達障害のある子どもたちにとって、自分の感情は時に「得体の知れない怪物」のように感じられることがあります。
今回ご紹介した「4つのゾーン」や「怒りメーター」といった気持ちのコントロール プリントは、その怪物に名前をつけ、形を与え、対処可能にするための「心の翻訳機」です。
先生や保護者の方が、これらのツールを通して子どもの心に寄り添い、「今は黄色なんだね、じゃあどうしようか?」と対話を重ねることで、子どもたちは少しずつ、しかし確実に、自分の感情のハンドルを自分で握れるようになっていきます。
ぜひ、明日の学級活動やご家庭での対話に取り入れてみてください。
参考リンク
さらに詳しい自立活動の指導内容については、文部科学省の公式サイトが参考になります。
特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編(文部科学省)
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