- 塗り絵が自立活動になる理由
- なぜ説明文を書かなかったのか
- 子どもの「困り感」を知る教材としても活用できる
- 第1章「気持ち編(1~10枚)」のねらい
- 第1章「気持ち編」の45分授業モデル
- 子どもによって活動時間が違うことが、この教材の強み
- 授業がうまくいく5つの工夫
- 第2章「学校生活編(11〜20枚)」のねらい
- 教材サンプル①
- SSTとの違い
- 学校生活編で育てたい力
- 第2章「学校生活編」の45分授業モデル
- 教師の役割は「教える人」ではなく「引き出す人」
- 授業後の変化を見逃さない
- 個別の指導計画へどうつなげるか
- 第3章「自己理解編(21〜30枚)」のねらい
- 最後の1枚「私の説明書」がこの教材のゴール
- 教材は家庭や療育でも活用できます
- この教材を通して目指したいこと
- より詳しい授業実践・教材はnoteで公開しています
- 自立活動についてもっと知りたい方へ
- まとめ
塗り絵が自立活動になる理由
「塗り絵は遊びの時間」「早く終わった子どもの時間調整」と考えられることも少なくありません。しかし、少し視点を変えるだけで、塗り絵は子どもの自己理解や他者理解を深める、自立活動の教材へと変わります。
私は特別支援学級で子どもたちと関わる中で、一つの共通点に気付きました。それは、「自分の気持ちを言葉にすること」が苦手な子どもが多いということです。
「なんか嫌だった。」「イライラした。」「もうやりたくない。」
こうした言葉の背景には、「悔しかった」「恥ずかしかった」「友達と遊びたかった」「不安だった」など、さまざまな感情が隠れています。
しかし、言葉だけで気持ちを説明することは簡単ではありません。
そこで役立つのがイラストです。

子どもたちは一枚の絵を見ることで、「この子は悲しそう」「僕もこんなことあった」「私はこう思う」と自然に話し始めます。
つまり、イラストは子どもの経験や気持ちを引き出す「きっかけ」になります。
今回作成した30枚の塗り絵ワークシートは、単に色を塗る教材ではありません。
- 見る
- 考える
- 話す
- 自分と重ねる
- 振り返る
この5つの活動を自然に繰り返すことで、子ども自身が「自分はどんなときに困るのか」「どんな方法なら安心できるのか」を少しずつ理解できるようになります。
なぜ説明文を書かなかったのか
今回の教材には、あえて場面の説明文を書いていません。
例えば「負けた」というイラストがあります。
一般的な教材であれば、「ゲームで負けて悔しそうです。」という説明が添えられているかもしれません。
しかし、それでは子どもは「答え」を探す活動になってしまいます。
私は、この教材を「答えを教える教材」ではなく、「考える教材」にしたいと考えました。
教師が最初に投げかける言葉は、一つだけです。
「この子、何があったんだろう?」
すると、子どもたちは自分の経験をもとに話し始めます。
- じゃんけんで負けたのかな。
- サッカーの試合かな。
- 友達に負けたのかな。
- 鬼ごっこかもしれない。
どの答えも間違いではありません。
むしろ、その子自身が経験してきた出来事が表れている可能性があります。
この対話こそが、自立活動で最も価値のある時間だと私は考えています。

子どもの「困り感」を知る教材としても活用できる
この教材のもう一つの魅力は、教師が児童理解を深められることです。
例えば、「悲しい」のイラストを見たとき、子どもによって答えは大きく変わります。
- ゲームで負けた。
- お母さんに怒られた。
- 友達が遊んでくれなかった。
- 宿題を忘れた。
同じイラストを見ていても、子どもが思い浮かべる場面は違います。
それは、その子が日頃どのような経験をしているのか、何に困りやすいのかを知る大切な手掛かりになります。
つまり、この教材は「自立活動の教材」であると同時に、「児童理解のためのアセスメント教材」としても活用できるのです。
第1章「気持ち編(1~10枚)」のねらい
第1章では、「うれしい」「悲しい」「怒る」「こわい」「悔しい」「モヤモヤ」など、子どもたちが日常生活で経験しやすい感情を取り上げています。

自立活動では、感情をコントロールする前に、まず自分の気持ちに気付くことが重要です。
自分の気持ちが分からなければ、人に伝えることも、落ち着く方法を考えることも難しいからです。
そのため、第1章では「気持ちに名前を付けること」「相手の気持ちを想像すること」を大切にしています。
この活動を繰り返すことで、「何となく嫌だった」という曖昧な表現から、「悔しかった」「不安だった」「恥ずかしかった」と具体的に表現できる子どもが少しずつ増えていきます。
第1章「気持ち編」の45分授業モデル
ここでは、「悲しい」のイラストを例に、実際の45分間の授業の流れを紹介します。
もちろん、「うれしい」「怒る」「こわい」「悔しい」「モヤモヤ」など、他のイラストでも同じ流れで進めることができます。
① 導入(5分)
子どもたちに塗り絵を配ります。
このとき、一番大切なのは教師が説明し過ぎないことです。
私は最初に、たった一つの質問だけをします。
「この子、何があったんだろう?」
この一言だけで十分です。

すると、子どもたちは自然と絵を見始めます。
- 泣いているね。
- 転んじゃったのかな。
- ゲームで負けたのかも。
- 友達とけんかしたんじゃない?
- お母さんに怒られたのかな。
ここでは「正解」を探す必要はありません。
子どもが思い浮かべた場面は、その子自身の経験と結び付いていることが多いからです。
教師は、
- 「そう思ったんだね。」
- 「どうしてそう思ったの?」
- 「なるほど。」
と受け止める姿勢を大切にします。
② 塗り絵(15〜20分)
イラストを自由に塗ります。
色に正解はありません。
例えば、
- 悲しいから青。
- 怒っているから赤。
- 今日は黄色で塗りたい。
どれも大切な表現です。
教師は塗り方を評価するのではなく、子どもの考えを引き出します。
おすすめの声掛け
- 「その色を選んだ理由はある?」
- 「どんな気持ちだったと思う?」
- 「この子は今、何に困っていると思う?」
- 「あなたも同じようなことがあった?」
- 「そのとき、どうしたの?」
答えを言わせることが目的ではありません。
考える時間をつくることが、この教材の価値です。
③ ワークシート(10〜15分)
塗り終わったら、ワークシートに取り組みます。
私は毎回同じ4つの質問を入れることをおすすめします。
- この子は何があったと思いますか?
- この子はどんな気持ちだと思いますか?
- あなたならどうしますか?
- 困ったとき、誰に何と言って伝えますか?
毎回同じ質問を繰り返すことで、子どもは少しずつ考え方を身に付けていきます。
書くことが難しい子どもは、教師との対話だけでも十分です。
④ 振り返り(5分)
最後は、一人一人が自由に発表します。
ここでも正解を決めません。
同じイラストでも、感じ方は人それぞれだからです。
教師は、
- 「いろいろな考え方があるね。」
- 「そんな経験をしたんだね。」
- 「教えてくれてありがとう。」
という言葉で終えることをおすすめします。
子どもによって活動時間が違うことが、この教材の強み
支援学級では、一人一人の活動スピードが違います。
通常の授業では、この時間差が難しさになります。
しかし、この教材では、それが大きなメリットになります。
例えば、5分で塗り終わる子どもには、
- 「どうしてそう思ったの?」
- 「他にはどんな場面があるかな?」
- 「友達だったら何て声を掛ける?」
など、対話を深めることができます。
一方で、30分かけて丁寧に塗る子どもは、その時間そのものが安心できる活動になります。
無理に急がせる必要はありません。
自分のペースで活動できることも、自立活動では大切な支援です。
授業がうまくいく5つの工夫
① 教師が答えを言わない
子どもの考えを否定せず、「どうしてそう思ったの?」と問い返すことを意識します。
② 色に正解を作らない
子どもの表現を尊重し、「その色もいいね。」と受け止めます。
③ 全員に発表させなくてもよい
話したい子だけが話せる安心感をつくることが大切です。
④ 教師も一緒に考える
「先生だったら、こう思うな。」と一緒に考える姿勢を見せることで、安心して話せる雰囲気が生まれます。
⑤ 日常生活につなげる
授業だけで終わらせず、
「今日の休み時間にも、こんな場面あったね。」
など、学校生活と結び付けることで、自立活動が実際の生活へとつながっていきます。
第2章「学校生活編(11〜20枚)」のねらい
第2章では、学校生活の中で子どもたちが経験しやすい困り場面をテーマにしています。

例えば、
- 負けた
- 仲間に入れない
- 忘れ物
- 順番待ち
- 発表
- 注意された
- 勉強がわからない
- 給食
- 掃除
- 下校
これらは、支援学級だけでなく通常の学級でも毎日のように起こる場面です。
しかし、同じ出来事でも、困り方は子どもによって全く違います。
例えば「順番待ち」が苦手な子どもでも、
- 待ち方が分からない。
- 先が見えず不安になる。
- 早くやりたい気持ちを止められない。
- 暇になることが苦手。
など、背景には様々な理由があります。
だからこそ、自立活動では「できる・できない」ではなく、 何に困っているのかを考えることが大切です。
教材サンプル①
例えば「順番待ち」のイラストでは、このようなシンプルな場面を提示します。
教師は説明をするのではなく、
「この子は何に困っているんだろう?」
と問い掛けます。
すると、
- 早くやりたいんじゃない?
- 疲れてきたのかな。
- 待つのが嫌なんだと思う。
- あと何人か分からないんじゃない?
など、子どもたち自身が困り感を考え始めます。
私は、この時間こそが自立活動で最も価値のある時間だと考えています。
SSTとの違い
学校生活を扱う教材というと、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を思い浮かべる先生も多いでしょう。
SSTでは、「こんなときはこうしましょう」という望ましい行動を学ぶことが多くあります。
もちろん、それも大切な学習です。
しかし、この教材では、その一歩前を大切にしています。
それは、
「本人は何に困っているのだろう?」
という視点です。
例えば、「忘れ物」をした子どもを見たとき、
- 確認し忘れた。
- 朝、急いでいた。
- 持ち物が多くて分からなかった。
- 家で嫌なことがあった。
理由は一つではありません。
だからこそ、行動だけを見るのではなく、背景にある困り感を理解することが、自立活動では重要になります。
学校生活編で育てたい力
- 自分の困り感に気付く力
- 相手の気持ちを考える力
- 困ったときに助けを求める力
- 自分に合った解決方法を考える力
- 学校生活を安心して送る力
私は、この5つの力が育つことで、子どもたちは学校生活そのものが少しずつ安心できる場所になっていくと考えています。
第2章「学校生活編」の45分授業モデル
ここでは、「忘れ物」のイラストを例に、実際の授業の進め方を紹介します。
もちろん、「順番待ち」「発表」「給食」「注意された」など、他のイラストでも同じ流れで実践できます。
① 導入(5分)
まずはイラストを配ります。
教師は答えを説明せず、子どもたちに問い掛けます。
「この子、何があったんだろう?」
すると、子どもたちは様々な意見を話し始めます。
- 教科書を忘れたんじゃない?
- 宿題を持ってくるのを忘れたのかな。
- ランドセルの中を見て困っている。
- 先生に言えなくて困っていると思う。
ここでは、「正解」を求めません。
大切なのは、一人一人の考えを受け止めることです。
② 塗り絵(15〜20分)
イラストを自由に塗ります。
教師は教室を回りながら、一人一人に合わせて声を掛けます。
おすすめの声掛け
- 「この子はどんな気持ちかな?」
- 「何に困っていると思う?」
- 「先生だったら何て声を掛ける?」
- 「友達ならどうする?」
- 「自分だったらどうする?」
これらの問いは、「答え」を引き出すためではありません。
困り感を考える時間をつくることが目的です。
③ ワークシート(15分)
塗り終わったら、ワークシートに取り組みます。
私は毎回、次の5つの質問を使っています。
- この子は何があったと思いますか?
- この子はどんな気持ちでしょう?
- 何に困っていると思いますか?
- あなたならどうしますか?
- 困ったとき、誰に何と伝えますか?
繰り返し同じ形式で取り組むことで、子どもたちは自然と「困ったときの考え方」を身に付けていきます。
教師の役割は「教える人」ではなく「引き出す人」
この教材では、教師が答えを教える場面はほとんどありません。
教師の役割は、子どもが考えたことを引き出すことです。
例えば、
「先生、忘れ物をしたら怒られる。」
という子どもの言葉に対して、
「そう思ったんだね。どうしたら安心できそうかな?」
と返すだけで、子どもは自分で考え始めます。
私は、この「考える時間」こそが、自立活動の価値だと考えています。
授業後の変化を見逃さない
授業が終わったあと、本当の学びは日常生活の中で表れます。
例えば、
- 「先生、今日プリントを忘れました。」と自分から伝えられた。
- 順番待ちのときに深呼吸をしていた。
- 友達に「大丈夫?」と声を掛けられた。
- 困ったときに助けを求められた。
こうした小さな変化こそ、自立活動で大切にしたい成長です。
ぜひ授業だけで終わらせず、日常生活の中でも子どもの姿を観察してみてください。
個別の指導計画へどうつなげるか
私は、この教材の大きな特徴の一つが「個別の指導計画」につなげやすいことだと考えています。
例えば、「助けを求めること」が苦手な子どもであれば、
指導目標(例)
困った場面で、自分から教師や友達に援助を求めることができる。
手立て(例)
塗り絵教材を用いて困った場面を想像し、「どのように伝えたらよいか」を教師との対話を通して繰り返し考える機会を設定する。
評価(例)
学校生活の中で困った場面において、自分から教師へ援助を求める姿が見られるようになった。
このように、授業と個別の指導計画を自然につなげられることも、この教材の魅力です。
第3章「自己理解編(21〜30枚)」のねらい
第3章では、この教材の集大成として「自分を知ること」をテーマにしています。

扱う内容は、
- 好きなこと
- 苦手なこと
- 得意なこと
- 落ち着く方法
- 助けてほしいこと
- 将来の夢
- 大切な人
- 頑張ったこと
- 成長したこと
- 私の説明書
自立活動では、「できないこと」を練習するだけではなく、「自分にはどんな良さがあり、どんな支援があると安心して生活できるのか」を理解することが大切です。
私は、この10枚を通して、子どもたちが「自分はこんな人なんだ」と前向きに振り返る時間をつくりたいと考えました。
最後の1枚「私の説明書」がこの教材のゴール
30枚目のワークシートは、「私の説明書」です。
ここでは、これまでの29枚で考えてきたことを振り返り、自分自身についてまとめます。

例えば、
- 私は〇〇をすると落ち着きます。
- 困ったときは先生に話しかけると安心します。
- 〇〇が得意です。
- 〇〇は少し苦手です。
- 友達にこうしてもらえるとうれしいです。
このように、自分の強みや困り感、安心できる方法を一枚にまとめることで、「自分だけの説明書」が完成します。
これは、子ども自身が自分を理解するための教材であると同時に、保護者や担任、支援者と子どもをつなぐツールにもなります。
教材は家庭や療育でも活用できます
この教材は、特別支援学級だけでなく、通級指導教室、放課後等デイサービス、療育機関、ご家庭でも活用できます。
特に「療育 塗り絵」の教材を探している保護者の方からは、「親子で話すきっかけになった」「子どもの気持ちが分かった」という声をいただけるような教材を目指しています。
また、「特別支援 塗り絵」の教材としては、授業だけでなく、朝の会や帰りの会、自立活動、個別学習など、さまざまな場面で取り入れられるよう設計しています。
この教材を通して目指したいこと
私は、この教材を「塗り絵教材」とは考えていません。
子どもと先生、子どもと保護者が対話をするための教材です。
子どもの行動だけを見るのではなく、
「今、この子は何に困っているんだろう?」
と考える時間を増やしていきたいと思っています。
その積み重ねが、子どもを理解することにつながり、安心して過ごせる学校や家庭づくりにつながると信じています。
より詳しい授業実践・教材はnoteで公開しています
この記事では、教材の考え方や活用方法の一部をご紹介しました。
実際に授業で使えるように、さらに詳しい内容をまとめた教材をnoteで公開しています。
note教材の内容
- 30枚すべての印刷用ワークシート(PDF)
- イラストごとの授業展開(45分モデル)
- 教師の具体的な声掛け例
- ワークシート記入例
- 授業でうまくいく工夫
- 個別の指導計画(目標・手立て・評価)の例文集
- 放課後等デイサービス・療育での活用例
- 家庭で取り組むためのポイント
「明日からすぐに授業で使いたい」「自立活動の教材を探している」という先生や支援者の方に役立つ内容を目指しました。
※note→ 【特別支援 塗り絵】30枚の自立活動ワークシートをダウンロード|子どもの困り感に寄り添う教材
自立活動についてもっと知りたい方へ
自立活動の考え方については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
特別支援学級の「自立活動」所見、もう悩まない!明日から使える文例集【6区分27項目対応】
また、自立活動の基本的な考え方については、文部科学省の資料も参考になります。
まとめ
塗り絵は、色を塗るだけの活動ではありません。
一枚のイラストから、
- 気持ちを想像する。
- 困り感を考える。
- 友達の立場になってみる。
- 自分を振り返る。
- 安心できる方法を見つける。
そんな豊かな対話が生まれる教材になります。
子どもによって感じ方は違います。
だからこそ、一人一人の答えを大切にしながら、自分自身を知る時間を積み重ねていきたいと思っています。
この教材が、子どもたちの「できた!」だけではなく、「自分ってこんな人なんだ」と気付くきっかけになれば、とてもうれしく思います。

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