特別支援学級の子どもたちにとって、自分の気持ちを理解し、それを周りに適切に表現する力は、豊かな人間関係を築き、安心して学校生活を送る上で欠かせない土台です。しかし、「どうやって子どもたちに気持ちを教えたらいいんだろう?」「言葉にするのが苦手な子に、どうアプローチしたらいいだろう?」と悩む先生も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、
そんな特別支援学級の先生方の悩みを解決するために、感情の理解と表現をサポートするSST(ソーシャルスキルトレーニング)ゲームを5つ厳選してご紹介します。
どれも筆者が特別支援学級での実践を通して、子どもたちの「気持ちを知る・伝える」力が確実に育ったと感じたものばかりです。
1. 競争なしで「心の声」を引き出す!「こころカルタ」
まずご紹介するのは、
感情を言葉にする力を育てるためのユニークなコミュニケーションゲーム、こころカルタです。
一般的な「かるた」とは異なり、この教材には「取り札」がありません。そこにあるのは、子どもたちの”内なる声”を引き出すための、厳選された『質問』だけです。
例えば、「最近楽しいと感じたことはなんですか?」「今、話したいことはありますか?」「今日の朝ごはんはなんでしたか?」といった、感情にまつわる深い問いから日常の”あるある”まで、多彩な質問が書かれています。遊び方はシンプルで、順番に質問カードを引いた人が、その質問に自分の言葉で答えていくというスタイルです。
このゲームの最大の魅力は、「正しい答え」を求めるのではなく、「自分の言葉で表現すること」そのものに価値を置く点にあります。子どもたちは「何を話せばいいのか分からない」という心理的なハードルが下がり、安心して自分の気持ちや考えを言葉にする練習ができます。特に「取り札」がないことで、競争意識ではなく「共感」や「傾聴」に焦点が当たるため、子どもたちは安心して自分の気持ちを表現でき、他者の話にもじっくりと耳を傾けることができるのです。
こころカルタは、感情語彙が少ない子どもでも、具体的な質問をきっかけに自分の気持ちに名前をつけたり、経験と結びつけたりする経験を促します。その日の気分や子どもの発達段階に合わせて、様々な「心の扉」を開くことができる、非常に汎用性の高いツールです。
実践のヒント
- 子どもたちが話しやすい雰囲気を作るため、まずは先生が率先して質問に答えてみましょう。
- どんな答えでも肯定的に受け止め、「話してくれてありがとう」と感謝を伝えることで、自己肯定感を育みます。
- 必要に応じて、「それはどんな気持ちだった?」など、さらに感情を深掘りする声かけをしても良いでしょう。
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2. 状況と感情を結びつける!「フィーリングマッチ」
次に紹介するのは、
具体的な出来事とそれに伴う感情を関連付けて考える力を育むフィーリングマッチです。「怒り」「悲しみ」「喜び」などの感情カードと、日常の出来事を描いたカードをマッチングさせていくゲームです。
このゲームの狙いは、子どもたちが様々な状況に対して、多様な感情反応があることを知ること、そして人によって感じ方が違うことに気づくことです。例えば、「友達と喧嘩した」という出来事カードに対して、「悲しい」と感じる子もいれば、「悔しい」と感じる子、「怒り」を感じる子もいるかもしれません。それぞれの感じ方を共有することで、子どもたちは感情の多様性を理解し、他者の気持ちを想像する力を養うことができます。
実践のヒント
- マッチングが正解か不正解かではなく、「なぜその感情だと思ったのか」を子どもに尋ねてみましょう。
- 子ども自身の経験と結びつけて、「こんな時、〇〇さんはどう感じる?」と質問することで、より深く感情を考える機会を与えられます。
- 感情カードに絵文字や表情のイラストを加えることで、言葉で表現するのが難しい子でも取り組みやすくなります。
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3. 相手を責めずに伝える力を育む!「I(アイ)メッセージカード」
人間関係を円滑にする上で不可欠なのが、自分の気持ちを適切に伝える力です。
I(アイ)メッセージカードは、「私は〜と感じた」「なぜなら〜だから」といった、自分の気持ちを相手を責めずに伝える練習ができるカードです。
「I(アイ)メッセージ」とは、「あなたは〜だ」と相手を主語にして非難するのではなく、「私は〜と感じている」と自分を主語にして気持ちを表現するコミュニケーションスキルのことです。このカードを使った練習を通して、子どもたちは自分の感情に責任を持ち、建設的な方法で自己表現する力を身につけることができます。これにより、相手との不必要な摩擦を減らし、より良い人間関係を築くための基盤を作ります。
実践のヒント
- 様々な場面設定のカード(例:友達に消しゴムを貸してと頼まれたけど、自分も使いたかった時)を用意し、Iメッセージで答える練習をします。
- ロールプレイング形式で、実際にIメッセージを相手に伝える練習をすることで、より実践的なスキルが身につきます。
- 日常の具体的な場面でIメッセージを使えた時に、積極的に褒めて強化していくことが大切です。
活用法や教材のダウンロードはこちら👇
4. 協力と共感で問題を乗り越える!「スペースエスケープ」
感情の理解と表現は、他者との協力関係の中でさらに深まります。
スペースエスケープは、感情を言葉にして共有しながら協力して脱出を目指すボードゲームです。
仲間と対話しながら問題解決を目指すことで、自然と感情にまつわるコミュニケーションが生まれます。
この協力型ボードゲームは、協力と共感の力を育むのに最適です。ゲームを進める中で、子どもたちは自分の感情だけでなく、仲間の感情にも注意を払い、それぞれの意見を尊重しながら協力して課題を乗り越えていきます。共通の目標に向かって取り組む中で、自然と感情語が増え、感情表現のレパートリーも広がっていくでしょう。
実践のヒント
- ゲームの途中で、子どもたちの感情表現や協力的な行動に気づいたら、具体的にフィードバックを与えましょう。
- ゲーム終了後には、「どんな気持ちになった?」「どうやって協力できた?」など、感情や協力について振り返る時間を設けることが重要です。
- 失敗しても責めず、「次はどうしたらもっと協力できるかな?」と前向きな声かけを心がけましょう。
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5. 多様な感情を発見する!「きもちビンゴ」
最後に紹介するのは、
様々な感情が書かれたマスを使ってビンゴ形式で遊ぶきもちビンゴです。
ランダムに示される感情について、子どもたちは「その気持ちになった場面」を思い出しながらマスを開けていきます。
このゲームは、子どもたちが多様な感情を知ること、そして自分と他者の感じ方の違いに気づくことを促します。例えば、「わくわく」というマスが開いたら、それぞれの子がどんな時に「わくわく」するのかを共有します。同じ感情でも、人それぞれ異なる経験や状況で感じることに気づくことで、他者理解が深まります。ビンゴというゲーム形式が、子どもたちの学習意欲を楽しく刺激してくれるでしょう。
実践のヒント
- ビンゴが揃うことだけでなく、感情について話すプロセスを重視しましょう。
- 子どもが言葉に詰まったら、具体的なヒント(例:「最近楽しかったことは?」)を与えたり、先生が自分の経験を話したりしてサポートします。
- ビンゴシートの感情を、子どもたちの発達段階や特性に合わせてカスタマイズすることも有効です。
おわりに|感情理解はすべての学びと人間関係の土台となる力
感情を知り、表現することは、すべての学びの土台であり、豊かな人間関係を築く上で最も重要な力の一つです。今回ご紹介したSSTゲームは、どれも「遊びながら学べる」ものばかりです。子どもたちが安心して自分の気持ちを表現し、他者の気持ちを理解する経験を重ねることで、自己肯定感を育み、より豊かな学校生活を送れるようになるでしょう。
また、SSTゲームを取り入れる際には、「感情メーター」などのツールを使った日常的なチェックも非常に効果的です。日々の支援の中で、子どもたちが自分の気持ちに気づき、表現できる機会を増やしていきましょう。
※気持ちメーターはこちらからDLください👇
この土台を育むことが、子どもたちの学校生活、そしてその先の人生を豊かにします。これからも、子どもたちが自分の気持ちと上手につきあい、人との関係をよりよく築いていけるよう、支援を工夫していきたいですね。
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