「支援学級と通級、どう違うんですか?」
これは、お子さんの発達に特性がある保護者の方から、本当によくいただく質問の一つです。
うちの子には、一体どんな場所が合っているんだろう?もしかして、今の環境は合っていないんじゃないか?そんな不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
お子さんの特性や困りごとに合わせて、どんな支援が合っているかを考えるためにも、まずはこの二つの仕組みの基本的な違いを押さえておくことが大切です。この記事を読めば、それぞれの支援の仕組みが具体的にイメージでき、お子さんに最適な環境を見つけるための第一歩を踏み出せるはずです。
この記事では、支援学級(正式名称:特別支援学級)と通級指導教室の違いを中心に、現場での実際の様子や保護者が知っておきたいポイントも交えながら解説します。
支援学級は、どんな子が在籍しているのか詳しく知りたい方はこちらをご覧ください👇
1. 支援学級と通級の基本的な違い
まずは、両者の基本的な違いを表で見てみましょう。
項目 | 支援学級 | 通級指導教室 |
---|---|---|
在籍先 | 支援学級(特別支援学級) | 通常学級 |
学びの場 | 支援学級を拠点に学習 | 通常学級を中心に一部時間だけ通級教室で支援 |
対象となる子ども | 発達障害、知的障害、身体・言語の障害、情緒障害など | 主に発達障害(LD・ADHD・ASD傾向)、言語障害、難聴など |
支援の範囲 | 教科すべて・日常生活全般・社会性 | 苦手な分野や課題に絞った個別支援 |
指導形態 | 少人数(数名)で常時支援 | 週1〜数時間の個別・小集団指導 |
担任 | 支援学級担任がいる | 通常学級の担任が基本、通級担当教員が支援を担当 |
支援学級と通級の基本的な違い
この表を理解する上で大切なのは、「在籍先」です。支援学級に在籍するということは、その学級がお子さんの学びの拠点となることを意味します。一方で、通級の場合は、あくまで通常学級が主で、通級指導は一時的な補習や個別指導の場というイメージです。
支援学級について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください👇
2. 通級とは?
通級(正式名称:通級による指導)は、通常の学級に在籍しながら、必要な時間だけ特別な支援を受ける仕組みです。
例えば、こんなお子さんが通級を利用することが多いです。
- 読み書きが極端に苦手な子どもが「文字の学習支援」を受ける
- 自己コントロールが苦手な子どもが「感情調整や社会性トレーニング」を受ける
- 言葉の発達に遅れがある子どもが「発音や語彙の指導」を受ける
このように、本人の苦手さに焦点を当てたピンポイントの個別支援が行われます。
✅ 通級のメリット
- 基本は通常学級に在籍するため、クラスメートとの交流が多く保たれます。放課後の遊びや遠足、運動会といった学校行事にも、通常学級の仲間と一緒に参加しやすいでしょう。
- 苦手な部分だけピンポイントで支援が受けられます。全体的な理解力は高いものの、特定のスキルだけが伸び悩んでいるといった場合に有効です。
- 通常の進度で学習を続けられる子にとっては、自然な環境の中で支援を受けられるため、自己肯定感を保ちやすいというメリットもあります。
3. 支援学級とは?
支援学級(正式名称:特別支援学級)は、発達障害や知的障害、肢体不自由、情緒障害などのある子どもが在籍する、少人数の特別な学級です。原則として1クラスに8人程度までの少人数で、それぞれの子の実態に応じて学習内容や方法を柔軟に調整しながら指導が行われます。
✅ 支援学級のメリット
- 少人数で落ち着いた環境の中、個別に応じたきめ細やかな支援が受けられます。集団での刺激が苦手な子も安心して学習に取り組め、先生の目が行き届きやすく、些細な変化にも気づいてもらいやすい環境です。
- 通常学級では難しい配慮(視覚的支援、感覚過敏への対応、イヤーマフの使用、座席の配置調整など)がしやすいのが特徴です。
- 教科学習以外にも、生活面や社会性などの支援が可能です。例えば、給食の準備や片付け、休み時間の過ごし方など、日常生活で必要なスキルをスモールステップで学ぶことができます。
また、必要に応じて通常学級と行き来する「交流学習」も行われます。これは、社会性の育成や多様性を理解する機会を作ることを目的としており、体育や音楽、図工といった特定の教科だけ一緒に学んだり、給食の時間だけ一緒に過ごしたりする形が一般的です。お子さんの状態に合わせて無理なく過ごせるよう、無理に交流を強制されることはなく、子どもの負担にならないよう配慮されます。
支援学級の学習「自立活動」については、こちらに詳しくまとめています👇
4. 通級は「週に8時間まで」が原則。でも現実は…
通級は制度上、週に最大8時間(おおよそ授業8コマ)まで受けられるとされています。しかし、実際にはこの「原則」と「現実」の間には大きなギャップがあることを知っておく必要があります。
残念ながら、私の勤務校を含め、多くの学校では――
- 担当教員が1人しかおらず、通級希望者が非常に多い
- 教員が複数校を兼務しているため、特定の学校に割ける時間が限られている
- 通常学級の時間割と調整がつきにくい
などの理由で、週1〜2時間しか通えない子どもが多いのが現実です。これは、多くの学校で通級担当教員が専任ではなく、通常学級の担任を兼務していることや、地域によっては通級指導教室自体が非常に少ないといった背景があります。
「本当は週に3〜4時間通級で支援したい」と思っていても、1人あたり週1時間が限界という状況は珍しくありません。せっかく支援を受けても、間が空きすぎて効果が出にくい、子どもの困りごとが改善されにくいといった影響が出る可能性も指摘されています。
入学前や転校の際には、学校の通級の具体的な状況(専任の先生がいるか、何時間程度受けられる見込みかなど)を事前に確認することが非常に重要です。
5. どちらを選ぶ? 保護者が知っておきたい視点
通級と支援学級、どちらが良いかは「子どもの特性」や「学校での困りごとの程度」によって大きく変わります。お子さんの「今」の状況をよく観察し、専門家と相談しながら判断することが大切です。
通級が向いている子
- 学習や社会性に一部困りごとがあるが、基本的には通常学級で学べる子。例えば、読むことだけが非常に遅い、漢字の書き取りだけが極端に苦手、特定の場面でこだわりが強く切り替えが難しいといった特性がある場合です。
- 授業の進度や内容についていけている子。全体的な理解力は高く、集団での学習も問題ないが、特定のスキルだけが伸び悩んでいる場合に有効です。
- 周囲の環境の変化にも比較的柔軟に対応できる子。
支援学級が向いている子
- 授業についていくことが難しく、学習内容の大幅な調整が必要な子。教科書の内容を理解するのに大幅なサポートが必要、集団での指示理解が難しい、着席して集中することが困難な場合などです。
- 人間関係や集団行動が大きなストレスになる子。休み時間などにトラブルが多い、大勢のいる場所でパニックになりやすい、友達とのコミュニケーションが苦手で孤立しがちといった特性がある場合です。
- 日常生活においても、個別の支援が必要な場面が多い子。着替えや排泄、食事などの生活習慣の習得に手助けが必要、感覚過敏で特定の音が苦手・特定の場所が苦手といった場合も含まれます。
❗️注意したいこと
通級では十分な支援が受けられない場合、「支援学級という選択肢もある」ということを、保護者が早めに知っておくことがとても大切です。特に、通級の時間が物理的に確保できない場合や、ピンポイントの支援だけでは困り感が解消されない場合は、視野を広げて検討する必要があるでしょう。
6. おわりに|子どもに合った支援環境を見つけるために
特別支援教育の仕組みは、まだまだ整備途中の部分も多く、制度と現場との間にはギャップがあります。特に通級は制度上の上限と、実際の運用との間に大きなズレがある分野の一つです。
だからこそ、「週1時間の通級では足りない」「もっと手厚い支援が必要かも」と感じたときには、遠慮せずに学校や専門機関と積極的に話し合い、情報を得ることの重要性を忘れないでください。支援学級も視野に入れた上で選択肢を検討することをおすすめします。
不安な時は、一人で抱え込まずに、地域の相談窓口や同じ経験を持つ保護者のコミュニティなども活用してみてください。何よりも、お子さんの「困り感」に寄り添い、一番力を発揮できる場所はどこかを一緒に考えていくことが大切です。
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