「自立活動って必ずやらなきゃいけないんですか?」
これは、特別支援学級を担当する先生や、初めて特別支援学級にお子さんが在籍する保護者の方からよくいただく質問です。
「国語や算数も大事だけど、自立活動って何をするの?」「普通学級では見かけないけど、なぜ必要なの?」
この記事では、そんな疑問にお答えしながら、自立活動の目的や具体的な内容、そして子どもたちにとってなぜ欠かせないのかを丁寧に解説します。さらに、指導時間の目安や、より実践的なアドバイスも加えています。
自立活動の授業案はこちらを参考ください。👇
自立活動は“必ず”行うことが決められている
まず結論からお伝えすると、自立活動は特別支援学級において“必ず”行わなければならない教育内容です。
文部科学省の定める学習指導要領や通知文では、次のように明確に記されています。
「児童生徒が自己の障害による困難を克服し、自立を図るために必要な力を育成するための指導であり、特別支援学級において必ず行う教育内容である。」
つまり、自立活動は特別支援学級に通う子どもたち一人ひとりにとって、将来を見据えた必要不可欠な教育活動なんです。
なぜ「自立活動」が必要なのか?
特別支援学級に在籍する子どもたちは、学習や生活の中で様々な困難を抱えていることがあります。
- 落ち着いて座ることが難しい
- 感情のコントロールが苦手
- 人との関わりがうまくいかない
- 身体の動かし方が不自然で生活が不便 など
こうした困難の「原因」は、国語や算数などの教科学習だけではカバーできない部分にあることが多く、「その子自身の特性に応じたきめ細やかな支援」が求められます。
だからこそ、自立活動では教科の知識・技能だけではなく、子どもたちが自分らしく生活を送るための“土台”となる力を育てることを目的としています。
自立活動の内容|6区分27項目で構成されています
文部科学省は、自立活動を以下の6つの領域に分け、27項目の具体的な指導内容を示しています。
◎ 1. 健康の保持(4項目)
- 体調管理の仕方
- 健康・衛生に関する習慣(手洗い、うがいなど)
- 医療的ケアとの向き合い方 など
◎ 2. 心理的な安定(5項目)
- 安心できる環境づくり
- 不安・緊張への対応、リラックス方法
- 自己肯定感の育成(「自分はできる」という気持ち) など
◎ 3. 人間関係の形成(5項目)
- あいさつや対話の方法
- 相手の気持ちを考える、共感する力
- 仲間との関係づくり、協力すること など
◎ 4. 環境の把握(4項目)
- 時間や空間の認識(いつ、どこで、何をするのか)
- 状況理解や予測する力
- 周囲への注意の向け方、危険を察知する力 など
◎ 5. 身体の動き(5項目)
- 姿勢やバランスのとり方
- 基本的な動作(歩く・座る・立つなど)
- 運動機能の向上、微細運動(指先の器用さ) など
◎ 6. コミュニケーション(4項目)
- 気持ちや意思を伝える方法(言葉、表情、ジェスチャーなど)
- 言葉以外の表現手段(絵、サインなど)
- 対人理解のスキル(相手の意図をくみ取る) など
このように、自立活動はただの「特別な時間」ではなく、子どもたちが安心して生活し、学び、将来へ向かって成長していくために欠かせない指導の積み重ねなのです。
具体的にどんなことをするの?
自立活動は、子どもたち一人ひとりの「困っていること」に合わせて、オーダーメイドで計画・実施されます。個別の指導計画(IEP)に基づいて、目標を決め、取り組んでいくのが特徴です。
例えば、こんな活動が行われています。
- 視覚支援ツール(スケジュールカード、絵カードなど)を使った見通し練習や予測練習
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)で場面ごとの会話練習やロールプレイング
- 体幹を育てる運動遊び(バランスボール、縄跳び、トランポリンなど)
- 「気持ちの温度計」や絵カードを使った感情表現のトレーニング
- 生活習慣(手洗い、着替え、持ち物管理、片付けなど)の定着指導
- 落ち着かない時のクールダウンの方法(深呼吸、感覚遊びなど)
授業で使えるSST はこちらを参考ください👇
ある小学校では、人との関わりが苦手だったAさんが、「気持ちの温度計」を使ったトレーニングを通じて、自分の「イライラ」を言葉で伝えられるようになり、衝動的な行動が減ったという成功事例もあります。また、手先の不器用さが目立ったBさんは、指先を使う遊びを継続した結果、ボタンの留め外しや箸の操作が格段に上手になりました。
自分のイライラに向き合わせたいならこちらのSSTを参考にください。👇
指導時間の目安と柔軟な実施
自立活動の指導時間は、特別支援学級の児童生徒の障害の状態や特性、教育課程編成の状況に応じて柔軟に設定されます。明確な「週〇時間」という規定はありませんが、一般的には、週に数時間から、個別の必要性に応じてそれ以上の時間が割り当てられることもあります。
国語や算数などの教科と並行して行われることもあれば、子どもたちの状況に合わせて、休み時間や給食の時間、または下校前の時間などを活用して短時間で実施されることもあります。大切なのは、子どもにとって最も効果的なタイミングと方法で提供することです。
保護者の方へ|自立活動はお子さんの“未来の準備”
保護者の方からは、「勉強が遅れるのでは?」「遊んでいるだけに見える」というご心配の声をいただくこともあります。
ですが、自立活動で育つ力は、お子さんの将来の生活のしやすさ、働く力、そして人との関わる力の“基礎の基礎”です。学力と同じくらい、いや、それ以上に、社会で生きていく上で大切な土台となる力を育む活動なんです。
例えば、こんな力が身につきます。
- 自分の体調や気持ちに気づき、自分で調整できる
- 不安を感じたとき、安心する方法を知っている
- 人との適切な距離を保ちながら関われる
- トラブルが起きた時、冷静に解決策を考えられる
- 困った時に助けを求められる
これらはすべて、自立活動を通じて身につけることができる力であり、お子さんが将来、より豊かに、自分らしく生きるための大きな財産となります。学校での指導内容について、ぜひ担任の先生と積極的に連携し、お子様の成長を一緒に見守ってください。
まとめ|「自立活動」はすべてのスタートライン
ポイント | 内容 |
---|---|
自立活動は? | 必ず行う教育内容(法的に定められている) |
目的は? | その子が生活しやすくなる「土台」を育てること |
内容は? | 6区分27項目で個別に計画・実施 |
指導時間は? | 個々の必要性に応じて柔軟に設定される |
保護者に伝えたいこと | 学力と同じくらい、将来に必要な力を育てる大切な活動 |
さいごに
自立活動は、子どもたちの成長の“裏側”でしっかりと支えている、非常に大切な教育です。
先生方にとっては「どんな力を育てたいか」を明確にする指針となり、保護者の方にとっては「今、何のために学校に通っているのか」を知る手がかりになるでしょう。
これからも、子どもたち一人ひとりの「できる」を増やし、将来の可能性を広げるために、自立活動を大切に育んでいきましょう。この記事が、自立活動への理解を深める一助となれば幸いです。
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