「ぼくって障害があるの?」小学生への発達障害の伝え方※SSTワークシート無料ダウンロード

実践アイデア集

「どうして支援学級に通うの?」「なんでみんなと違うんだろう…」

お子さんがふと口にするこんな疑問は、自己理解への大切な一歩です。この問いに、私たちはどう応えるべきでしょうか?

障害や特性と向き合うことに「完璧な時期」はありませんが、発達段階に応じた適切な伝え方は、子どもの自己肯定感を守りながら「自分らしさ」を育む上で不可欠です。

現場で子どもたちと向き合う教師の視点から、その具体的なアプローチをご提案します。お子さんの将来を案じる保護者の方、日々の指導に迷う先生方の一助となれば幸いです。

「特別支援学級ってずるい!」の問いへの応え方はこちらから👇


1. 低学年(1-2年生)から始める“気づきのサポート”

子どもの疑問に隠されたチャンス

「先生、なんで僕だけ少ない教室で勉強するの?」
「どうして交流学級に行かないの?」

こんな質問こそ、子どもが自分の状態に気づき始めた絶好の機会です。この問いをどう受け止めるかが、その後の自己肯定感に繋がる大切な瞬間。「あなたに合った学び方」という視点で、子どもが安心できる言葉で伝えましょう。

具体的な伝え方の例

  • ✅ 「〇〇さんは、少ない人数だととっても集中できる力があるんだよ。その力をぐんと伸ばすための特別な教室だね!」
  • ✅ 「メガネが必要な子がいるように、〇〇さんには『静かな場所』が勉強のパートナーなんだ。みんなそれぞれ得意なことや、集中しやすい場所が違うんだよ。」
  • ❌ 「障害があるから」「みんなと違うから」はNG

教師の役割

交流学級の児童へは「みんなそれぞれに合った学び方があるんだよ。〇〇さんにとっては、少人数の教室が一番集中できる場所なんだ」と説明し、環境の多様性を自然に理解させる雰囲気づくりを心がけましょう。


2. 中学年(3-4年生)で芽生える“自己理解”の土台づくり

特性を前向きな言葉で言語化

この時期の子どもたちは、自己と他者の違いを意識し始めます。特性を「脳の働き方の特徴」として伝え、長所・短所をセットで説明するのが効果的です。

具体的な伝え方の例

  • 「〇〇さんは、細かい変化に気づく天才だね! その代わり、たくさんの声が一度に入ると混乱しやすい特徴もあるんだ。」
  • 「イヤーマフは『集中スイッチ』だよ。つけたら『今、大事な考え中です』の合図だね。」

教師の役割

特性マップ」作成をサポートしましょう。これは、イラストや言葉を使って、本人の「得意なこと(例:絵を描くのが得意、細かい作業に集中できる)」「苦手なこと(例:大きな音は苦手、急な予定変更は混乱する)」「助けてほしいこと(例:声をかけてほしい、静かな場所が必要)」などを書き出すワークシートです。これにより、本人が自分自身を客観的に理解し、周囲に伝えられる自己理解ツールとして活用できます。

特性マップ(わたしのトリセツ)は、こちらからダウンロードできます👇


3. 高学年(5-6年生)からの“自己受容”へ ~アイデンティティの一部として~

社会モデルの視点で伝える

この段階では、「障害=個人の問題」ではなく、「環境とのミスマッチ」という考え方を導入します。子ども自身が、自分の特性と社会の関係性を理解できるよう促しましょう。

具体的な伝え方の例

  • 「『障害』とは、社会の仕組みがあなたに合っていない状態を指すこともあるんだよ。」
  • 「あなたの困りごとは、環境を変える権利があることの証拠。先生も一緒に工夫しよう。」
  • 感覚過敏と向き合いながら世界で活躍するアスリート、ADHDの特性を活かして成功した起業家など、**著名人の例**を紹介し、多様性を肯定する視点を育みます。

教師の役割

将来の進路選択につなげましょう。「自分の特性を活かせる仕事」について調べたり、「必要な配慮を伝える練習」を授業に組み込んだりします。例えば、グループワークで自分の意見を伝える際に「私は〇〇だから、こういう形で発表させてほしい」と伝える練習をするなど、実践的な力を身につけさせます。


4. 全学年共通で守るべき「3つの原則」

  1. 「Why」より「How」
    「なぜ?」と原因を探るよりも、「どうサポートするか」に焦点を当てましょう。
  2. 診断名より「行動ニーズ」
    「自閉症です」と伝えるより、「予定変更は事前に伝えてほしい」といった具体的なニーズを優先しましょう。
  3. 本人のペースを最優先
    子どもが「知りたい」というサインを見逃さず、決して情報や考え方を押し付けないでください。

5. 「自立活動」の視点から考える自己理解の育み

特別支援学校学習指導要領で示されている「自立活動」は、子どもが自分らしく生きていくための力を育む上で非常に重要な視点です。特に、その6区分27項目の中には、子どもが自分の障害を理解し、主体的に社会と関わっていくためのヒントが隠されています。

自己理解が「心理的な安定」につながる

自立活動の「(3) 心理的な安定」には、「情緒の安定」や「意欲の向上」といった項目があります。自分の特性を正しく理解することは、子どもが「なぜ自分はこう感じるのか」「なぜこんな時に困るのか」を言語化できることに繋がります。これは、漠然とした不安や戸惑いを軽減し、心の安定を図る上で不可欠なステップです。

  • 「自分だけができない」と悩むのではなく、「こういう特性があるから、こんな工夫をすればうまくいく」と気づくことで、自己肯定感を育み、前向きな気持ちで様々な活動に取り組めるようになります。
  • 私たちは、子どもたちが自分の困りごとを安心して伝えられる環境を整え、適切なサポートを具体的に示すことで、情緒の安定を支えることができます。

自己理解が「人間関係の形成」を促す

また、「(6) 人間関係の形成」には、「共感的な人間関係の形成」や「自己の理解と受容」といった項目が含まれています。自分の特性を理解し、それを適切に他者に伝えられるようになることは、良好な人間関係を築く上で非常に重要です。

  • 子どもが自分の特性を理解し、例えば「大きな音は苦手だから、びっくりした時は少し離れてもいいかな」と伝えることで、周囲も配慮しやすくなります。
  • 自分の特性を知ることは、周りの友だちとの違いを受け入れ、お互いの多様性を尊重する姿勢を育むことにも繋がります。それは、孤立感を減らし、より豊かな人間関係を築く土台となるでしょう。

このように、子どもが自分の障害や特性を理解することは、自立活動の目標にも合致する、生きる力を育む上で欠かせない手立てなのです。


6. 保護者・教師へのメッセージ

「伝えるタイミング」に唯一の正解はありません。子どもたちの特性は十人十色であり、私たち大人が迷うのは当然のことです。

大切なのは、子どもが発したささやかな疑問を“自己理解の種”に変え、いかなる時も「あなたのままで価値がある」というメッセージを送り続けることです。特性と向き合う過程こそが、その子の「生きる力」を育む揺るぎない土台になります。


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