『自立活動』って何?自閉症・情緒学級担任が教える『その子らしい成長』を支える6つの実践

特別支援教育

はじめに:『自立活動』は魔法の時間ではない

「自立活動って、ただの生活訓練ですか?」
ある保護者面談で投げかけられたこの質問が、私の指導観を変えるきっかけになりました。自閉症のある小学3年生・Tくんは、初めての給食で食器を投げつけ、教室を飛び出したことがあります。しかし、自立活動で「感覚過敏への対応」「見通しを持たせる練習」を重ねた結果、2ヶ月後には「今日のメニューはカレーだね」と笑顔で話しながら食事ができるようになりました。

自立活動は、特別支援教育の根幹をなす重要な指導領域です。特に自閉症・情緒障害のある子どもにとって、「その子が自分らしく生きるための土台作り」の時間と言えます。この記事では、18年間の特別支援学級担任経験をもとに、自立活動の本質と具体的な実践方法を解説します。


第1章:自立活動の基本 ~文部科学省が定義する6つの領域~

自立活動は、学習指導要領で「障害による困難を改善・克服するために必要な力を育む活動」と定義されています。自閉症のある子の場合、次の6領域をバランスよく組み合わせることが大切です。

領域具体例(自閉症児向け)
1. 健康の保持感覚過敏への対処法・食事のマナー練習
2. 心理的な安定安心スペースの設置・感情カードを使った表現練習
3. 人間関係の形成順番待ちの練習・共遊の機会作り
4. 環境の把握学校内マップの作成・予定変更への対応訓練
5. 身体の動き手指の巧緻性向上・姿勢保持トレーニング
6. 学習の基盤づくり集中力持続の工夫・タブレットを使った学習支援

第2章:自閉症のある子に効果的な3つのアプローチ

アプローチ1:『視覚支援』で見通しを明確に

【事例】 Aさん(ASD)の登校時パニック対策
×「口頭で『今日の予定』を説明」
「写真付きスケジュールボード」を作成

実践方法

  1. 起床から下校までをイラストと短い文章で提示
  2. 終了した活動は裏返して「終わった」を可視化
  3. 急な変更時は「変更カード」で事前通知

効果:パニック発生回数が週5回→月1回に減少

アプローチ2:『感覚調整』で安心空間を作る

自閉症のある子の80%に何らかの感覚過敏があると言われています(※日本感覚統合学会調べ)。

【教室環境の工夫例】

  • 聴覚過敏:ノイズキャンセリングイヤーマフの使用許可
  • 触覚過敏:別素材の椅子クッションを用意
  • 視覚過敏:蛍光灯にカバーを付け間接照明を追加

アプローチ3:『ソーシャルストーリー』で社会性を育む

【実践例】 友達とのトラブルが多いBくん(小5)への対応

  1. 具体的な場面を写真と簡単な文章で説明

「友達が使っているおもちゃが欲しい時は:
① 深呼吸する
② 『貸して』と言う
③ 順番カードを渡す」

  1. ロールプレイで実践練習
  2. 成功時に「できた!シール」を貼る

第3章:保護者と連携した『家庭でできる自立活動』

実践1:『感覚ダイアリー』の共有

学校と家庭で「不快に感じた状況」を記録し共有します。

【記入例】

日付状況子どもの反応対策
5/10歯科検診待ち耳を塞ぎ震える次回は一番乗りで呼んでもらう

実践2:『できた!ツリー』で成功体験を可視化

家庭用にアレンジした「できた!ツリー」の例:

  • 木の絵に「靴を揃えた」「『いただきます』が言えた」などの葉っぱシールを貼る
  • 10枚貯まるごとに「好きな絵本を読む時間」などのご褒美を設定

実践3:『5分間チャレンジ』

  1. 子どもが苦手な活動(例:歯磨き)をタイマーで5分間だけ実施
  2. 終了後すぐに好きな活動(例:シール貼り)に移行
  3. 徐々に時間を延ばしていく

第4章:よくある疑問Q&A

Q. 自立活動は週何時間必要ですか?
A. 正式な規定はありませんが、自閉症のある子の場合、週2~3時間を目安に個別のニーズに合わせて調整します。

Q. 通常学級ではどう実施すれば?
A. 朝の会で「今日の予定ボード」を確認する、休み時間に「感覚遊びコーナー」を設けるなど、短時間でできる工夫を取り入れましょう。

Q. 効果が実感できるまでどのくらいかかりますか?
A. 3ヶ月単位で変化を記録すると良いでしょう。ある調査では、6ヶ月継続した子どもの85%に何らかの改善が見られています(※特別支援教育研究所調べ)。


おわりに:自立活動は『未来への種まき』

自閉症のある小学6年生のRさんの言葉が忘れられません。
「わたしは おんがくを きくと きもちが やすまります。じぶんの とくいを しって よかったです」

自立活動の本質は、「できないことを強制する」のではなく、「その子の特性を活かす方法を見つける」ことにあります。特別支援学級の先生、保護者の方、通常学級の先生方と手を取り合いながら、子どもたちが自分らしい花を咲かせられる土壌を作りましょう。


【簡易なチェックリスト】

□ 子どもの「好きな感覚刺激」を3つ把握している
□ 1日の予定を視覚化している
□ 成功体験を週3回以上記録している
□ 保護者と月1回以上情報共有している
□ 苦手な活動に「代替手段」を用意している


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