「授業中、突然子どもが教室から飛び出してしまう……」
「何度注意しても繰り返し、他の児童にも影響が……」
自閉症スペクトラム(ASD)の子どもが教室から飛び出してしまう行動に、頭を悩ませている教員は少なくありません。
この行動には「不安」「感覚過敏」「コミュニケーションの困難」など、さまざまな要因が隠れています。
「叱る」「無理に連れ戻す」だけでは解決せず、むしろパニックを悪化させることも。
この記事では、
✅ 飛び出し行動の背景にある原因
✅ 予防策・即時対応・事後のフォロー
✅ 学校全体で取り組む支援体制
を具体的に解説します。
「問題行動」ではなく「SOSのサイン」と捉え、適切な支援につなげる方法を一緒に考えていきましょう。
1. なぜ飛び出してしまう? 行動の背景を理解する
(1)自閉症スペクトラムの特性と飛び出し行動
ASDの子どもは、以下の特性から「教室から離れる」行動をとることがあります。
- 予測不能な変化への不安(急なスケジュール変更など)
- 感覚過敏(騒音、明るい光、特定の臭いなどで耐えられなくなる)
- コミュニケーションの困難(「休みたい」を言葉で伝えられない)
- 興味の偏り(外のものに強く惹かれる、特定の場所に行きたい)
「飛び出し=困った行動」ではなく、「今の状況から逃れたいというメッセージ」と考えることが支援の第一歩です。
(2)行動の機能(目的)を見極める
飛び出し行動には主に2つのパターンがあります。
行動の機能 | 具体例 | 支援の方向性 |
---|---|---|
① 逃避・回避 | 授業が難しい、騒音がつらい | 環境調整、クールダウンスペース |
② 要求・注目 | 特定の場所に行きたい、構ってほしい | 代替コミュニケーション方法を教える |
「ABC分析」(Antecedent=直前の状況、Behavior=行動、Consequence=結果)で記録を取り、パターンを見つけましょう。
2. 予防策~飛び出しを減らす環境づくり~
(1)見通しを持たせる
ASDの子どもは「見通しが立たないこと」に強い不安を感じます。
- ① スケジュールの視覚化
- 1日の流れを絵カードや文字で提示(「朝の会→算数→休み時間」)。
- 変更がある場合は、事前に伝えて準備させる。

- ② タイマーやアラームを使う
- 活動の終わりを視覚的に示す(「Time Timer」など時間が見えるタイマー)。
(2)物理的・感覚的な環境調整
- ① 教室のレイアウトを工夫
- ドアから遠い席にする、クールダウンコーナーを設置。
- 必要に応じて簡易的な柵やカーテンで「境界」を示す。
- ② 感覚過敏への配慮
- 騒音が苦手→イヤーマフやヘッドホンを許可。
- 蛍光灯がまぶしい→席を調整、間接照明を活用。
(3)代替行動を教える
「飛び出す」以外の方法で気持ちを伝えられるようにします。
- ① カードやジェスチャー
- 「休みたい」「助けて」のカードを渡す練習。
- ② クールダウンスペースの活用
- 落ち着ける場所を設定し、「ここに行ってもいい」と教える。

3. 飛び出してしまったときの即時対応
(1)安全確保が最優先
- 大声で追いかけない(興奮を助長する可能性)。
- 穏やかな声で「〇〇くん、待って」と伝え、一旦止まるよう促す。
(2)パニック時の対応
- 説得や質問は控える(「なぜ逃げるの!」は逆効果)。
- 落ち着くまで待ち、静かな場所に移動させる。
(3)教室に戻るための支援
- 選択肢を与える
- 「今すぐ戻る? あと5分休んでから戻る?」
- 小さな成功を褒める
- 「自分で戻れてえらかったよ」と肯定的なフィードバック。
4. 事後のフォローと長期的な支援
(1)振り返りで気持ちを整理
- 絵やカードを使って「何が嫌だった?」を聞く(言語化が難しい場合)。
- ソーシャルストーリー(※)で「教室にいるのが安心」と学ばせる。
※ 具体的な場面を想定した物語形式の教材(例:「授業中は席にいよう」)。
(2)学校全体での支援体制
- 個別の支援計画(IEP)を作成
- 教員間で統一した対応を共有。
- 専門家との連携
- スクールカウンセラー、作業療法士(OT)の助言を受ける。
5. 教員のメンタルケアも大切に
「また飛び出したらどうしよう……」と不安になることもあるでしょう。
- 1人で抱え込まない(管理職や同僚と情報共有)。
- 小さな変化を見逃さず、自分を褒める(「昨日より戻るのが早かった!」)。
まとめ:子どものSOSに寄り添った支援を
飛び出し行動は「変えなければいけない問題」ではなく、
「子どもが今の環境に適応するための支援が足りていないサイン」です。
- 予防策(見通し、環境調整、代替行動)
- 即時対応(安全確保、穏やかな声かけ)
- 事後フォロー(振り返り、褒める機会)
「完璧な対応」ではなく、「少しでも良い方向に向かう支援」を目指しましょう。
学校全体で取り組むことで、子どもも教員も安心できる学級づくりが可能になります。
「この子にとって、今何が一番必要なのか?」
その視点を忘れず、焦らず一歩ずつ進んでいきましょう。
この記事が、少しでも現場の先生方の助けになれば幸いです。
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