キラキラと輝く水面には、子どもたちのわくわくする気持ちが映し出される一方で、水の感覚、着替えの手順、そして身体への刺激に敏感な支援学級の子どもたちにとって、プールは少なからず不安を伴う場所でもあります。
水の冷たさや音、集団の中での行動、初めての環境…これらは、時に子どもたちの不安を増幅させ、プールを苦手なものにしてしまう可能性も秘めています。しかし、プール指導は単なる水遊びの場ではありません。子どもたちが水の中で自分自身を守り、仲間と協力し、そして何よりも自分自身の成長を感じるための、かけがえのない学習の場なのです。
この大切なプール指導を、子どもたちが安心して、そして積極的に参加できる時間にするためには、事前の丁寧な指導が不可欠です。
この記事では、長年の支援学級での指導経験から見えてきた、子どもたちにプールでの学びを最大限に引き出すために事前指導で大切にしたい5つのポイントを、具体的な声かけ例や実践例を交えながらご紹介します。
「プールは命を守る学習」であることを伝える
まず大切なのは、プールの授業が遊びではなく学習であることを明確に伝えることです。子どもたちの中には、「水=楽しいこと」というイメージが強い子もいます。
しかし、水には危険が伴うことも忘れてはいけません。水は私たちに多くの恵みをもたらしてくれる一方で、一歩間違えれば命に関わる危険も潜んでいます。テレビやニュースで水難事故の報道を目にすることも少なくないでしょう。
「プールは水の中で自分を守るための学習」という視点を共有し、安全意識を持って取り組むように促します。

これは、ただルールを守らせるためではなく、子どもたちが自分の命を守る力を身につけるための、最も重要な土台となる考え方です。
🌊伝え方の例
- 「プールは、みんなが水の中で安全に過ごせるようになるための大切な練習の場所だよ。もし何かあった時に、どうすれば自分を守れるのか、どうすれば助けを呼べるのかを学ぶんだ。」
- 「プールでふざけたり、人をびっくりさせたりすると、思わぬ事故につながることがあるんだ。みんなが安全に楽しく学ぶために、先生のお話をしっかり聞くことが命を守ることにつながるよ。」
この「命を守る学習」という視点は、プールの中だけでなく、川や海など、他の水辺で過ごす時にも役立つ大切な知識となります。
「人との関わり方」にも丁寧にアプローチする
支援学級では、場の空気を読まずに思ったことを口に出してしまう子や、他人の身体的特徴や技能をバカにしてしまう言動が見られることもあります。特に、水着になるプールでは、体型の違いや運動能力の差が目立ちやすく、心ない言葉が飛び交うことも残念ながら起こり得ます。
こうした言葉は、相手の心を大きく傷つけてしまいます。だからこそ、「言葉は相手を元気にするために使うもの」という考えを、具体的な例を挙げながら、丁寧に伝える必要があります。
👂伝え方の例
- 「みんなの体はそれぞれ違う形をしているね。得意なことも苦手なこともあって当たり前。だからこそ、みんなが気持ちよく過ごせるように、優しい言葉を選んで使おうね。」
- 「もし、誰かが『できない』と困っていたら、どう声をかけたら元気になるかな?『大丈夫だよ!』とか、『一緒にやってみようか?』とか、そういう言葉は相手の心を温かくする魔法の言葉だよ。」
- 「バカにする言葉は、心にケガをさせてしまうよ。もし誰かからそんな言葉を言われたら、どんな気持ちになるか想像してみよう。」
具体的なロールプレイングを取り入れたり、良い言葉を使った時のポジティブな変化を共有したりすることも有効です。「よい言葉で応援しあうこと」をルールとして定着させることが大切です。
バディ制度と「仲間を思う気持ち」
支援学級でのプール指導では、バディ(ペア)を組んで行動する活動を取り入れることが多くあります。このとき、ただのペアではなく「命を守る仲間」であることを、子どもたちとしっかり共有しましょう。
バディ制度は、互いの安全を確認し合うだけでなく、困った時に助け合い、一緒にできたことを喜び合える、人との信頼関係を育む絶好の機会です。子どもたちは、バディとの関わりを通して、責任感や共感性、そして思いやりを学びます。

🤝伝え方の例
- 「バディは友だちでもあり、お互いの命を守る大切なパートナーです。もしバディが困っていたら、すぐに気づいて先生に知らせてあげてね。そして、お互いに『ありがとう』と『助け合おうね』の気持ちを忘れずに。」
- 「バディは、苦手なことにチャレンジする時に応援し合う仲間でもあるよ。バディが頑張っているのを見たら、『すごいね!』って声をかけてあげよう。そして、自分もバディに『ありがとう』が言える人になろうね。」
具体的な役割分担(例:お互いの体調を確認する、着替えを手伝う、泳ぎの練習を応援する)を明確にし、トラブルが起こった際の対処法(例:すぐに先生に伝える)も事前に伝えておくことで、子どもたちは安心してバディ活動に取り組めます。
活動の流れや持ち物を“見える化”する
支援学級の子どもたちには、見通しが持てることが安心感につながります。特に、新しい環境や活動、変化に戸惑いやすい特性を持つ子どもたちにとって、次に何が起こるのかを具体的に知ることは、不安を和らげ、主体的に行動するための大切なステップです。
プールの日のスケジュール、着替えの手順、活動の流れなどを、写真やイラストでわかりやすく示す工夫が必要です。子どもたちが自分で確認できるチェックリストや掲示物を用意しましょう。
たとえば👇
- 着替え
- あいさつ・めあて
- たいそう
- シャワー
- バディかくにん
- 入水:足→おなか→顔→あたま
- 水になれる:じゃんけん、 おばけ、 バブリング、ボビングなど
- プール時計回りに回る、反対
- 宝石さがし
- 小、大プールに分かれて活動
- ふりかえり→シャワー→着替え
📌ポイント
- 時間割(図やスライドで提示): プールに行く準備から着替え、入水、活動、着替え、帰りの支度まで、一連の流れを視覚的に示します。
- 着替えの順番や持ち物(チェックリスト化): 服を脱ぐ順番、水着を着る手順、タオルやゴーグルなどの持ち物を、工程ごとに写真や絵で示します。自分でチェックできるよう、ラミネート加工したカードなどを活用するのも良いでしょう。
- 活動の流れ(イラストや写真で掲示): 準備体操、シャワー、プールでの活動内容(例:バタ足、浮き身、歩行)を、シンプルなイラストや写真で掲示し、一つずつ確認しながら進めます。

「知らないことが多いと不安になる」から、「見てわかる」「知っている」と安心できる、という子どもたちの特性を理解し、不安を軽減するための視覚的なサポートを惜しまないことが重要です。ソーシャルストーリーを活用し、プールでの一日を絵本のように読み聞かせるのも効果的です。
「切り替え」と「チャレンジする気持ち」を育てる
水に入ることが怖い子、着替えに時間がかかる子、水しぶきが苦手な子…。子どもたちの反応は本当にさまざまです。活動の切り替えが苦手な子も少なくありません。
だからこそ、無理をせず、その子のペースで少しずつチャレンジしていけるように声をかけていきます。小さな「できた!」を積み重ねることで、子どもたちは自信をつけ、次のステップへ進む意欲が湧いてきます。
また、活動の切り替えが苦手な子に対しては、視覚合図・かけ声・深呼吸などの“切り替えの方法”を一緒に練習しておくと効果的です。
🌟声かけ例
- 「今日も自分のペースでがんばろうね。ちょっとだけ水に触れるだけでも、大きな一歩だよ。」
- 「『スイッチオン!』の合図で、次の活動に気持ちを切り替えよう!深呼吸を3回してみようか。」
- 「『ほうせきさがし』で今日のプールは終わりだよ。そのあと着替えの準備をしようね。」
- 「昨日は顔に水がかかるのが苦手だったけど、今日は少しだけ大丈夫だったね!すごいね!その『ちょっとできた』が、明日の大きな『できた!』につながるんだよ。」
タイマーや砂時計を使って時間の見通しを持たせる、特定の音楽を流して活動の開始・終了を知らせるなど、聴覚的な情報も活用すると良いでしょう。
おわりに|違いを認め合う学びとしてのプール
プール指導は、単に泳ぎの技能を習得するだけの時間ではありません。それは、子どもたちが自身の身体を深く理解し、水の危険性から身を守る「命の学習」であり、互いの違いを認め合い、協力し合う「人間関係を育む学習」でもあります。そして何よりも、新しいことに挑戦し、少しずつできることが増えていく「自己肯定感を育む学習」の場なのです。
支援学級の子どもたちにとって、プールは特に多くの学びの機会を提供してくれます。できないことに焦点を当てるのではなく、「自分のがんばり」や「仲間との助け合い」、そして「昨日よりもちょっとだけ成長した自分」に目を向けられるような、温かい声かけと丁寧なサポートを大切にしていきましょう。
「みんなちがってみんないい」。この言葉は、プールの場においても、子どもたちの個性と多様性を肯定する大切なメッセージです。他人と比べるのではなく、「きのうの自分」と比べて、少しでも前に進めたこと。その小さな一歩こそが、子どもたちの大きな自信となり、これからの生活における様々な挑戦を後押ししてくれるはずです。
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