〜日常に根ざした関わりの中で育てる視点〜
ソーシャルスキルトレーニング(SST)というと、「スキルを教える時間」として切り出され、プリントやロールプレイでの練習が注目されがちです。
けれど、私は日々の実践を通して思うのです。
「教えた」だけでは、子どもはなかなか“使いたくならない”。
スキルは「必要な場面」で「実感」があってこそ、子どもの中で生き始めるもの。
今回は、「スキルをどう教えるか」だけでなく、「スキルをどう“使いたくなる”ように導くか」という視点から、SSTを考えてみたいと思います。
子どもが「使いたくなる」のはどんなとき?
たとえば、「いやだと言えない」「頼れない」「怒りが爆発してしまう」。
そんな子どもの姿を見て、「こう言えばいいよ」「こうすればいいよ」と教えたくなるのは自然なことです。
でも、大人にとっては当たり前に思える言葉も、子どもにとってはハードルが高かったり、「本当にこれでいいのかな…」と不安だったりします。
子どもが“スキルを使いたくなる”条件って?
- そのスキルが「自分の困りごと」に結びついていると感じられる
- 使うことで「いいことがあった」という体験がある
- 「やってみて大丈夫だった」という安心感がある
この3つが揃ってはじめて、子どもはそのスキルを“使いたくなる”のだと思います。
「日常場面」からニーズを見つける
スキルの教科書やプリントには、「謝る」「断る」「お願いする」など、よくあるスキルが並んでいます。
でも、どのスキルから教えるかは、目の前の子どもたちの“日常”から決めていくことが大切です。
たとえば──
- 給食の配膳で、前に割り込まれても何も言えずに困っていた子
- 遊びの中でルールを変えられて、モヤモヤしたまま泣いてしまった子
- 授業中、わからないことがあっても「わからない」が言えない子
「もし言えたら、どんな気持ちになれたかな」
これらの場面は、すべてスキル習得の“入り口”になります。
「どうして何も言えなかったのかな」
スキルを「教える」ではなく「一緒に探す」
SSTの時間は、スキルを一方的に“教える”場ではなく、一緒に考え、一緒に練習し、安心して挑戦できる場であることが大切です。
私はこんなふうに関わることを意識しています。
- 「正しい答え」を求めすぎない
→「こうすればいいよ」とは言い切らず、複数の選択肢を一緒に考える。 - 「試してみること」が目的
→実際の場面で100%できなくてもOK。まずは「やってみようとした気持ち」を認める。 - 「うまくいった経験」を拾う
→「昨日、ちゃんと“待って”って言えたね」と具体的にふり返る。
子どもが「これは、自分にとって役に立つスキルなんだ」と思えるような関わりが、スキルの定着につながります。
成功体験は、特別な言葉よりも「関係性」から生まれる
子どもが安心してスキルを試せるかどうかは、教える側との関係性が大きく影響します。
どんなスキルよりも大切なのは、
- 「あなたがいてくれるからやってみようと思えた」
- 「うまくいかなくても大丈夫と思えた」
そんなふうに思える、“安心の土台”としての関係性なのだと思います。
だからこそ、私は「失敗してもいいんだよ」「一緒に考えていこうね」という空気を大切にしたいのです。
まとめ:SSTは「関係」と「日常」から育つ
子どもにとってスキルとは、「大人に教えられるもの」ではなく、「自分が必要としていて、自分の言葉として使いたくなるもの」であるはずです。
だから、
・日常の中で生まれる困りごとに目を向けること
・スキルの価値に子ども自身が気づく関わりをすること
・成功体験を安心して積み重ねられる関係を築くこと
これらが、SSTを「スキルの時間」から「生きる力を育む時間」に変えてくれるのではないかと感じています。
おわりに
私自身も、子どもに伝えたスキルを自分がうまく使えず、もどかしい思いをすることがあります。
でも、そんなときこそ子どもと一緒に考えるチャンス。
「うまくできなくてもいい」
「練習してるんだから、それでいい」
そうやって大人も自分に優しくなれるとき、SSTはもっと豊かに、もっと楽しくなると信じています。
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