発達障害と「好きな色」の深い関係:こだわりの黒、安心の青に隠された理由

支援の工夫

特別支援学級やフリースクール、成人の発達障害者の集まりなど、様々な現場で「黒」「青」「緑」といった落ち着いた色合いの服を選ぶ方が多いと感じることがよくあります。なぜ、特定の色に手が伸びるのでしょうか?

今回は、

私の支援現場での実感や、特別支援学級でのエピソードも交えながら、日常の中に見えてくる「色の選択」と発達障害との関係について、深掘りしてみたいと思います。

発達障害について、こちらの記事でまとめています👇


1. 感覚を鎮める黒。視覚刺激が少なくて「安心」

まず考えられるのは、感覚過敏の特性に配慮した結果として、黒い服を選んでいるという視点です。

発達障害のある方の中には、色や柄の強い刺激を「うるさい」「落ち着かない」と感じる方がいます。例えば、賑やかな場所での原色のポスターや、複雑な模様の壁紙が目に入っただけで、強い不快感を覚えることも珍しくありません。

その点、黒は「無彩色」。目に飛び込んでくる情報が極めて少なく、視覚的に心を落ち着けやすいのです。特に、人混みや刺激の多い環境に出かける際、「これ以上余計な刺激は増やしたくない」という思いから、黒を選ぶことはとても自然な行動と言えるでしょう。

ある児童は、遠足で多くの人が集まる場所に行く前日、「明日は黒い服を着ていこう」とポツリと話してくれました。彼にとって、それは「刺激から自分を守る鎧」のような意味合いがあったのかもしれません。


2. 迷いを減らす黒。コーディネートに悩まない「万能色」

発達障害のある方の中には、「選択肢が多すぎることがストレス」になるタイプの方もいます。

例えば、朝の服選び。Tシャツの色、ズボンの素材、靴下との組み合わせ……。「どのシャツとこのズボンが合うかな?」「これだと変じゃないかな?」と、一つひとつの判断に多くのエネルギーを費やし、それが朝のスタート時の大きな負担になることもあります。

その点、黒は何にでも合う「万能色」。あれこれ深く考えずに済むため、朝の準備もスムーズに進みます。服選びに限らず、「決めなくていいことを増やす」「失敗しにくい選択をしておく」というのは、日常を穏やかに過ごす上でとても大切な工夫なのです。


3. 実用的な理由。食べこぼしが目立たない「最強の防御策」

ここまで感覚や心理的な話をしてきましたが、私自身が支援の現場で強く感じるのは、もっと実用的で、時には切実な理由です。

それは――

「うっかり食べこぼしても、黒ならシミが目立たないから」

これ、実際によく耳にするんです。支援現場でも「分かる!」と共感の声が多い理由の一つです。服を汚すことへの不安、そしてそれを他人から気づかれたくないという気持ち。「失敗」に対するささやかながらも最強の防御策として、黒は選ばれることが多いのです。

誰でもちょっとしたシミが気になることはありますが、それが毎日のことであったり、他者からの視線に敏感だったりすると、「最初から目立たない色を選ぶ」というのは、非常に合理的で、自分を守るための賢い選択と言えるでしょう。


4. 青や緑を好む理由:静けさと安心感の色

ちなみに、黒以外にも「青」や「緑」を好む方も多く見かけます。これは、色彩心理学や感覚の研究からも、ある程度説明がつきます。

  • :静けさ、冷静さ、集中を促す色。空や海を連想させ、心を落ち着かせる効果があります。
  • :自然、安定、安心感を与える色。木々や草花を思い起こさせ、心身のリラックスを促します。

どちらも「寒色系」に分類され、感覚的に落ち着ける色です。逆に、赤やオレンジなどの暖色系は「興奮」「注意喚起」の効果があるため、刺激として苦手とする方もいらっしゃいます。

以前、特別支援学級で自己紹介カードに好きな色を塗ってもらう機会がありました。すると、何人もの児童が迷わずを選び、中にはカードの面いっぱいに青一色を塗りつぶした子もいました。彼らにとって、青は言葉にならないほどの「安心」や「落ち着き」を与えてくれる色なのだと、改めて感じた瞬間でした。

ただし、色の好みには、その人自身の経験や安心感との結びつきも強く影響します。「小さい頃に好きだったキャラクターが青だったから」「入院中に見た病院の壁紙が緑で、その時に安心したから」など、個人的な記憶に由来することも少なくありません。


5. “安心して選べる服”が、その人の暮らしを支えている

私たちはつい、「色の好みは個性」と捉えがちです。しかし、その背景には、感覚の違いや過去の体験、そして日常生活での不安への備えといった、さまざまな意味が込められています。

黒い服を選ぶ理由は決して「地味だから」とか「無難だから」といった単純なものではありません。むしろ、それは――

“自分を守るための選択”であり、
“失敗しなくてすむ選択”であり、
“安心して一日を過ごすための、優しく賢い選択”

なのです。

もし誰かが黒い服を着ていたら、そこには「今日も大丈夫でいたい」「できるだけ安心して過ごしたい」という、ささやかだけれど、その人にとって非常に大切な気持ちが隠れているのかもしれません。


あとがき。見た目の選択に込められた「やさしい合理性」

発達障害がある方の暮らしには、私たちが普段気づかないような、さまざまな“ちいさな選択”が存在します。

その多くは、自分を守るため、落ち着いて過ごすための「やさしい合理性」に満ちています。

黒い服を選ぶ――それは、目立たないけれど、すごく大事な「自分を大事にする工夫」なのです。

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