【支援学級の先生へ】「白ごはんしか食べない子」への対応法──偏食のある自閉症の子どもに出会ったときに知っておきたいこと

支援の工夫

初めて自閉症スペクトラム(ASD)の子どもを担当する先生にとって、戸惑う場面は少なくありません。中でも「偏食」は、多くの先生が驚き、悩むことの一つではないでしょうか。

「白いごはんしか食べないんです…」
「唐揚げの衣だけ食べて、お肉は残すんです」
「フライドポテトは食べるけど、他の野菜は全滅です」

これらは、決して珍しいことではありません。支援学級の現場でよく耳にする「あるある」なのです。もしかしたら、あなたも同じような経験をされているかもしれませんね。

今回は、

自閉症の子どもたちに多く見られる偏食の背景にある「感覚のちがい」について理解を深め、その上で先生方が実践できる、子どもに寄り添った対応のヒントを具体的にご紹介します。

『特性』についてはこちらに詳しくまとめています👇

特性のある支援級の子はどんな子ですか?かわいそうですか?👇


偏食の背景にある「感覚のちがい」を理解する

自閉症スペクトラムの子どもたちは、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚など、あらゆる感覚が「敏感」または「鈍感」であることがよくあります。この感覚の違いが、食事の「好き嫌い」の範疇を超えた「偏食」として現れることが少なくありません。

特に食事に関しては、以下のような理由から偏食が起こりやすいとされています。これは、彼らが生きづらさを解消し、「安心」して生活するための工夫だと捉えることができます。

こちらの記事からも、支援学級に在籍する子の特性についてまとめています👇

白いごはんしか食べない理由

白いごはんを好んで食べる子どもは非常に多く、「なぜ?」と疑問に思う先生もいるかもしれません。そこには、子どもたちの感覚特性が大きく関係しています。

  1. 味やにおいが薄くて安心
    白米は、刺激が少ない食べ物の代表です。香辛料や調味料の強いにおい、複雑な味が苦手な子にとっては、白米が「唯一の安心できる食品」であることがあります。例えば、少しの醤油の匂いでも「臭い!」と感じたり、複数の食材が混ざった煮物の味が受け付けなかったりすることがあるのです。
  2. 色や形に変化がなく予測しやすい
    ごはんは白く、粒が均一で、混ざり物もありません。食感も大きく変わらないため、「次に何が来るか」を予測しやすい食べ物です。自閉症の子どもたちは、予測できない変化に強い不安を感じやすい特性があります。そのため、常に一定であるごはんは、彼らにとって極めて心地よく、安心感を与えてくれるのです。
  3. 「いつも同じ」で安心できるルーティン
    自閉症の子どもには、決まったルーティンや習慣を好む特性があります。「朝は白ごはん」「このお皿じゃないとイヤ」といった「決まりごと」は、彼らが自身の世界を秩序立て、安心感を得るための重要な手段です。食べるものに関しても、「いつも同じもの」が予測可能性を高め、安心材料となります。

衣だけ、カリカリだけを食べる理由

唐揚げの衣やフライドポテト、シリアルなど、特定の部分だけを好んで食べるケースもよく見られます。これもまた、感覚特性が深く関わっています。

  1. “音と食感”が気持ちよい
    唐揚げの衣やフライドポテトのような「カリカリ」「サクサク」とした食感は、ある子どもにとっては「最高に気持ちいい」刺激となります。聴覚や触覚が敏感な子にとって、この心地よい音や食感は、まるで脳に直接響くような快感をもたらすことがあります。逆に、肉や豆の柔らかい、あるいは「ぐにゃぐにゃ」「ねばねば」とした食感を不快に感じる子もいます。
  2. “混ざっている感じ”が苦手
    唐揚げのように「外はカリッ、中はジューシー」というような異なる食感が混ざっている構造は、ある意味「裏切り」のように感じられることがあります。見た目と中身が違うことに強い違和感を抱いたり、複数の食感が口の中で混ざり合うことが不快に感じられたりするのです。感覚の処理に負荷がかかるため、単一の食感だけを好む傾向が見られます。
  3. 味よりも食感重視の傾向
    「味が好きだから食べる」のではなく、「この食感だけが好き」という理由で特定の部分だけを食べる子どももいます。味覚が鈍感な場合、味そのものよりも、食感や温度、匂いといった他の感覚刺激がより重要になることがあります。そのため、たとえ栄養面で不十分に見えても、その子にとっては「食べられるもの」であるという事実を尊重することが大切です。

無理に食べさせようとしないで

初めてこうした偏食のある子どもと出会った先生は、「栄養は大丈夫?」「給食をどうするの?」と戸惑い、心配になるかもしれません。栄養バランスを考えるのは教師として当然の責任感ですが、焦って無理に食べさせようとすることは、かえって逆効果になることが多いです。

無理強いは、子どもにとって「食べる=不快な体験」として認識されてしまい、食事そのものや、食事の時間を嫌いになってしまう可能性があります。また、先生や周囲の人との信頼関係を損ねる原因にもなりかねません。

まずは、その子が「安心して食べられるものがある」ことを肯定的に受け止めることが何よりも大切です。食べられるものが一つでもあれば、それを起点に少しずつ「食べられるものの幅」を広げていくことができるのです。


実践に活かせる対応のヒント

それでは、支援学級の先生としてできる、子どもに寄り添ったやさしい工夫をいくつかご紹介します。これらのヒントは、お子さん一人ひとりの特性や状況に合わせて柔軟に活用してください。

少しずつ「経験の幅」を広げるサポート

食べることに直接つなげるのではなく、まずは食材への「抵抗感をなくす」ことから始めましょう。

  • 食べられる物の周りに、新しい食材を“近くに置く”だけでもOK
    例えば、白いごはんの隣に、普段食べない野菜スティックを一切れ置いてみる。無理に食べさせようとせず、「今日は、隣にキュウリさんがいるね」と声かけをする程度で十分です。毎日同じ位置に置くことで、ある日突然、触ってみたり、匂いを嗅いでみたりするようになるかもしれません。
  • ごはんに似たものから少しずつ変化をつける
    白いごはんを好む子には、おにぎり、おかゆ、雑炊など、ごはんをベースにしたもので少しずつ食感や形に変化をつけてみましょう。ふりかけを少量かけてみる、ご飯に混ぜ込める刻みのりやとろろ昆布など、見た目の変化が少ないものから試すのも良い方法です。
  • 「小さな成功体験」を積み重ねる
    「今日は、においはかげたね!」「触るだけやってみたね、すごい!」「一口だけお口に入れてみたね、えらいね!」など、食べること以外の小さな行動も「成功」として肯定的に捉え、具体的に褒めてあげましょう。この小さな成功の積み重ねが、「自分にもできる」という自己肯定感を育み、次のステップへの意欲につながります。

家庭との連携を大切に

学校での給食と家庭での食事が異なる場合も多いため、家庭との連携は非常に重要です。

  • 日常の工夫を共有する
    保護者の方と「どんな食材なら食べやすいか」「家ではどうしているか(調理法、味付け、盛り付け、声かけなど)」「どんな食器を使っているか」など、具体的な工夫や成功体験を共有しましょう。家庭での情報が、学校での給食指導の大きなヒントになります。
  • 給食の代替食や盛り付けの工夫
    給食での代替食の可能性や、盛り付け方を家庭と連携して検討することも大切です。例えば、苦手なものと好きなものを離して盛り付ける、同じお皿でも仕切りのあるものを使う、など。給食室との連携も欠かせません。
  • アレルギー情報や体調の変化を常に共有する
    偏食のある子どもは、特定の食材へのアレルギーや体調の変化が食事に大きく影響することもあります。日々の健康状態やアレルギー情報を保護者と密に共有し、安全に配慮しながら給食を進めていくことが重要です。

子どもへの声かけの工夫

子どもを安心させ、自ら「やってみよう」という気持ちを引き出す声かけを心がけましょう。

  • 共感と肯定の言葉を大切に
    「これ食べなさい」という指示的な言葉ではなく、「このカリカリ、好きなんだね」「これは、ちょっと苦手なんだね」と、子どもの気持ちや感覚をまず肯定的に受け止める姿勢を見せましょう。
  • 選択肢を与え、自主性を促す
    「今日は何にチャレンジしてみる?(においを嗅ぐ、触る、一口だけなど)」「どれから食べてみる?」など、子ども自身に選択させることで、主体性を育み、食事へのポジティブな気持ちを促します。
  • 「なぜ食べないの?」はNGワード
    「どうして食べられないの?」という問いかけは、子どもにとって責められているように感じられたり、自分でも理由が分からなかったりして、ストレスになります。無理に理由を問い詰めるのではなく、「苦手なんだね」と受け止めることが重要です。

「食べる」ことは「安心できる」こと

偏食は、単なる「好き嫌い」や「わがまま」ではありません。そこには、その子なりの「安心したい」「予測したい」「感覚に合わせたい」といった生き方の工夫があるのです。子どもたちは、彼ら自身のやり方で、世界の不確実性や感覚的な刺激の洪水から自分を守ろうとしているのかもしれません。

給食の時間に「唐揚げの衣だけ食べてるなあ」と子どもを見たとき、ただ驚いたり心配したりするのではなく、「この子は衣のカリカリした食感に安心するんだな」「これなら食べられるんだな」と、一歩引いて、その子の特性として受け止めてみる

先生がそうしてくれることが、子どもにとっては何よりも大きな安心になります。先生の理解と受容の姿勢が、子どもが安心して学校生活を送るための大切な土台となるでしょう。


最後に。先生自身も“少しずつ”で大丈夫

支援学級の先生になってすぐ、自閉症の子どもたちの偏食や感覚の違いに戸惑うのは当然のことです。完璧に理解し、完璧に対応しようと思うと、先生自身が疲れてしまうかもしれません。

でも、子どもが少しずつ食べられるようになっていくように、先生も少しずつ自閉症の特性について知り、少しずつ子どもたちに寄り添っていければ大丈夫です。焦る必要はありません。

子どもたちの「食べる」を温かく見守る毎日が、きっとあなたの支援の土台になっていくはずです。そして、子どもたちが安心して「食べる」ことができる環境を整えることは、彼らの心身の健やかな成長にとって、かけがえのない大切な一歩となるでしょう。


まとめ

自閉症のお子さんの偏食は、感覚の違いから来る「安心したい」「予測したい」という彼らなりの工夫です。無理に食べさせようとするのではなく、お子さんの「安心して食べられるもの」を肯定的に受け入れ、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。家庭との連携を密にし、共感的な声かけを心がけながら、先生ご自身も「少しずつ」で大丈夫。お子さんの「食べる」を温かく見守ることが、何よりも大切な支援の土台となるでしょう。


※この記事は、現場での観察と支援の経験をもとにまとめています。お子さんの偏食が著しい場合や、成長に影響が出ている可能性がある場合は、必要に応じて、小児科医、専門家、管理栄養士の協力も得ながら、お子さん一人ひとりに合った支援を考えていくことを強くおすすめします。

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