「不登校はどれくらいの期間続くのか?」
保護者の方にとって、これはとても切実な問いだと思います。
文部科学省も毎年、不登校に関する調査を公表しています。平均日数などの数字を知ることで、少し気持ちが落ち着くこともあるでしょう。
でも私は、特別支援学級の担任として不登校や登校しぶりの子どもたちと関わってきた中で、こう思うようになりました。
不登校に「平均」という数字はあっても、「平均的な子ども」はいない。
数字はあくまで全体を捉えるための指標であり、一人ひとりの抱える背景、感情、そして歩む道のりは、驚くほど多様で複雑です。「平均」という言葉で、お子さんの状況を一括りに捉えようとすること自体が、時に保護者の方をさらに苦しめてしまうのではないかとさえ感じています。
この記事では、文部科学省のデータ(令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等調査)を客観的な情報として紹介しつつ、私が現場で見て、肌で感じてきた「登校に繋がり始める子どもたちの共通点」について、より深く掘り下げてお伝えしたいと思います。データだけでは見えてこない、お子さん一人ひとりの個性と可能性に光を当てながら、保護者の皆様が少しでも心の支えとなるような情報を提供できれば幸いです。
実際に登校に繋がった一例についてはこちらもお読みください👇
不登校初期対応については👇
文部科学省のデータに見る「不登校の平均期間」
文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等調査」(令和4年度)によると、不登校の小中学生は全国で約29万人。
この調査では、1年間に30日以上欠席した場合に「不登校」としてカウントされています。
平均的な欠席日数は以下の通りです。
- 小学生:約70日
- 中学生:約90日
この数字を見て、どのように感じられるでしょうか。「意外と短い」と感じる方もいれば、「やっぱり長い」と改めて不安になる方もいるかもしれません。しかし、ここで強調しておきたいのは、この数字はあくまで「平均」であり、個々のケースとは大きく異なる可能性があるということです。
あるお子さんは、数週間で再び登校できるようになるかもしれませんし、別のお子さんは、数ヶ月、あるいはそれ以上の時間を必要とするかもしれません。大切なのは、この「平均」という数字に過度に囚われすぎないことです。なぜなら、不登校の背景にある要因は千差万別であり、その解決に向けた道のりもまた、一つとして同じものはないからです。
「平均」を気にしすぎなくてもいい理由
たしかにデータは参考になります。しかし現場の感覚としては、「一人ひとり、事情も歩みも違う」というのが実感です。
私が担任していた支援学級にも、不登校や登校しぶりの子が何人かいました。
感覚過敏、人間関係、生活リズム、家庭の事情――理由も状況も本当にさまざまでした。
たとえば
- 光や音、特定の触感に過敏なため、学校の環境そのものが大きな負担となる子ども。
- 友人関係でのちょっとした誤解やいじめをきっかけに、学校への足が遠のいてしまった子ども。
- 生活リズムが乱れやすく、朝起きること自体が困難な子ども。
- 家庭環境に様々な課題を抱え、心身ともに疲弊している子ども。
これらの例はほんの一部であり、不登校の理由は、単一的なものではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていることがほとんどです。
そのため、「平均」という一律の尺度で、一人ひとりの状況を測ることの難しさを痛感してきました。
ですが、登校日数が少しずつ伸びていった子たちに、共通していたことがありました。
特性(発達障害)からの不登校も考えられるならこの記事を参考ください👇
登校につながる共通点①:まずは担任との関係
最初のカギは「担任との信頼関係」でした。
特に支援学級の場合、担任が持ち上がり(翌年度も同じ担任)になることが多いです。
そのため、長期的な視点で関わることができました。
私は何よりも一対一で関わる時間を意識的に捻出していました。
たとえば
- 登校できた日には、授業や活動を始める前に、必ず個別の時間を取り、その日の体調や気持ち、家で過ごした様子などをゆっくりと聞きました。
- 会話の糸口は、学校のことだけではなく、「最近好きなアニメは何?」「週末は何をして過ごしたの?」といった、子どもたちが心を開きやすい話題から始めるように心がけました。
- 子どもたちが話してくれた好きなことや興味のあることを、授業内容や活動に取り入れたり、さらに会話を広げたりすることで、「先生は僕(私)のことをちゃんと見てくれている」と感じてもらえるように努めました。
こうした積み重ねが、「また来たい」と思える小さなきっかけになったように思います。
登校につながる共通点②:保護者とのやり取りは“情報交換”というより“共有”
保護者の方とは、現状の報告というよりも「一緒に見守る」という感覚で接してきました。
- 今どんな様子か
- 家で楽しんでいることは何か
- 朝の様子はどうか
- 学校で無理なくできそうなことは何か
そんな情報を共有することで、「無理に登校させなきゃ」というプレッシャーが減り、
親子ともに落ち着いた気持ちで日々を過ごせるようになるケースもありました。
登校につながる共通点③:まずは“先生と1対1”から、そして仲間へ
支援学級では日常的に個別に関わる時間が多いため、子どもたちは大人との関係構築に慣れていきます。
そして、担任との関係がある程度安定したあと
徐々に友達との活動へステップアップしていきます。
この時、決して無理に集団活動に参加させるのではなく、お子さんのペースに合わせて、以下のような工夫をしてきました。
- 小さな成功体験を積み重ねるために、最初は短い時間から始め、徐々に活動時間を延ばしていくようにしました。
- 最初は、特定の友達と二人だけで一緒に簡単な作業をする時間を作ったり、共通の趣味に関する話をする機会を設けたりしました。
- 自分の得意なことや好きなものを友達に「教えてあげる」「見せてあげる」といった、一方的な関わりではなく、双方向のコミュニケーションが生まれるような活動を取り入れました。
仲間との関係が広がったときに、登校日数がぐっと伸びる
これが、私の現場で見てきた一つの共通点でした。
友達との楽しい経験や、仲間から認められる喜びが、「また学校に行きたい」という強い動機付けになったのだと思います。不登校の状態から抜け出すためには、安心できる大人との関係だけでなく、共感し、共に笑い合える仲間の存在もまた、大きな力となるのです。
おわりに:大切なのは「平均」にしばられないこと
不登校の「平均期間」を検索する方の多くは、「うちの子はいつまで続くんだろう」という不安を抱えていると思います。
でも、私は伝えたいです。
大切なのは、「平均より長い」「短い」を気にすることではなく、
お子さんのペースで、信頼できる大人と少しずつ前に進めるかどうかです。
そのスタートラインは、もしかしたら、担任の先生との何気ない会話かもしれません。あるいは、家で好きなことに没頭する時間かもしれません。お子さんのそばに、ありのままの自分を受け止めてくれる、安心できる大人がいること。それが、すべてのはじまりだと、私は心から信じています。焦らず、見守り、信じること。それが、不登校というトンネルから抜け出すための、最も大切な光となるでしょう。
お子さんのそばに、安心できる誰かがいること。それがすべてのはじまりだと、私は思います。
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