特別支援学級での水泳指導は、「できた!」「楽しい!」という小さな成功体験の積み重ねが、子どもたちの大きな自信につながります。この記事では、支援級でよくある課題に寄り添いながら、水泳指導のポイントをイラストや具体的な声かけ例を交えてわかりやすく紹介します。
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ビート板の正しい持ち方
ビート板は「安心して浮く感覚」をつかむための重要なツールです。正しく持つことで、キックやけのびの姿勢が安定し、スムーズな動きにつながります。

目的: バタ足(キック)練習や浮力補助
持ち方の手順
- ビート板の上部(丸くなっているほう)を両手で持ちます。
- 両手の親指はビート板の上に置きます。
- 他の4本の指は下からビート板を支えるように持ちます。
- 腕はまっすぐに伸ばしましょう。
- 肘を曲げずに、顔を水につけてストリームライン(抵抗の少ない姿勢)を意識します。
- ビート板を前に押し出すような感覚で持つと、体がより安定します。
- 身体はまっすぐ、水面に対して水平を保ちます。
- ビート板を強く押さえつけすぎないように注意しましょう。力が入りすぎると上体が沈みやすくなります。
その他の持ち方(レベル・目的に応じて)
- 初心者・低学年向け(水慣れ、顔つけが苦手な児童に)
- ビート板の側面(両脇)を持ち、胸の前にビート板を置いて、顔を上げたままキック練習をします。
- 中級者以上(バランス強化、泳ぎの左右差の矯正に)
- 片手でビート板を持ち、もう一方の手は前に伸ばしてバランスを取りながら練習します。
よくある間違いと指導ポイント
間違い | 指導ポイント |
---|---|
ビート板を強く握りすぎている | 「リラックスして、そっと押さえるように持ってみよう」 |
肘が曲がっている | 「腕をまっすぐ伸ばして、ロケットみたいに進んでみよう」 |
顔が上がっている | 「水に顔をつけられる子は、水に顔をつけて練習してみよう」 |
ビート板を胸に当てすぎる | 「ビート板を前に押し出すように使ってみよう」 |
指導のコツ
- 最初は陸上でフォームを確認し、次にプールで実践すると、子どもは動きをイメージしやすくなります。
- 短い距離でも「持ち方OKかな?」とこまめにチェックし、その場で修正する機会を設けましょう。
- 子どもの目線に立ち、「ワニさんみたいにスーッと進もうね」など、具体的なイメージが湧く比喩を使うと理解が深まります。
正しいキック(バタ足)の仕方
姿勢をキープしながら水を蹴る「バタ足」は、泳ぎの基本です。支援級の子どもたちにも伝わりやすい指導法を意識しましょう。

基本ポイント
- 脚はまっすぐに伸ばし、膝を曲げすぎないようにします。
- 太ももから動かす意識を持つと、より大きな推進力が生まれます。
- 足首は力を抜いてつま先を伸ばすと、水を効率よくとらえられます。
- 水面を優しく叩くように「パタパタ」と動かします。
- キックの幅は小さく、テンポは一定に保つとバランスが取りやすくなります。
よくある間違いと声かけ
間違い例 | 声かけ例 |
---|---|
膝が大きく曲がる | 「お尻から動かしてみよう!足はまっすぐだよ」 |
足が水の中に深く入る | 「水面をポチャポチャって優しくたたいてみよう」 |
足がバラバラのテンポ | 「太鼓のリズムでパタパタね、1、2、1、2」 |
足に力が入りすぎている | 「足の力を抜いて、お魚のしっぽみたいに動かしてみよう」 |
クロールの教え方【6つのステップで技能アップ】
いきなり「クロール泳いでごらん」では難しいので、要素ごとに分けて段階的に教えましょう。子どもたちの発達段階や特性に合わせて、それぞれのステップに時間をかけ、「できた!」の瞬間を大切にします。

教える順番(6ステップ)
- けのび(ストリームライン)
- 「ロケットのように体をまっすぐ伸ばして進む感覚だよ」と伝えます。
- 支援級のポイント: 最初は壁を蹴らずに、水に浮いて手足を伸ばす練習から始めることも有効です。補助具(ヘルパーなど)を使って、体の浮きをサポートするのも良いでしょう。
- バタ足
- 「小さく、しなやかにテンポよく動かそう」と伝えます。
- 支援級のポイント: 視覚的にわかりやすいよう、足元でパタパタ動く水しぶきを見せる、リズムに合わせて手拍子をするなど、多感覚に訴える指導が効果的です。
- 手のかき(ストローク)
- 陸上でエアクロール(空中で腕を回す練習)から始め、水中で片手ずつ、最後に両手へと進めます。
- 支援級のポイント: 腕の動きをイラストや模型で示したり、先生が横で一緒に動いて見せたりすると、動きが理解しやすくなります。
- 呼吸練習(息継ぎ)
- 「顔を横に向けて、自然なタイミングで吸おう」と伝えます。
- 支援級のポイント: 息継ぎのタイミングを「手をかく時に顔を横!」など、短い言葉とジェスチャーで伝えることで、混乱を避けられます。プールの壁につかまって繰り返し練習する時間を確保しましょう。
- 片手クロール(ビート板あり)
- 片手でビート板を持ち、もう片方の手でストロークの練習をします。
- 両手クロール+呼吸(完成形)
- ここに至るまで、各ステップで十分な練習時間を確保し、焦らず進めることが重要です。
技能別 声かけ例
技能 | 声かけ例 |
---|---|
キック | 「今のパタパタ、とってもいいリズムだったよ!すごいね」 |
姿勢(けのび) | 「まっすぐ伸びて、ロケットみたいだったね!上手!」 |
手のかき | 「水をグーっと押せてたよ!大きな弧でかいてたね」 |
呼吸 | 「かくタイミングで顔をスーッと横にできたね、バッチリ!」 |
顔がつけられない子へのアプローチ
水を怖がる子どもには、「安心感+段階的な体験」が最も重要です。個々のペースを尊重し、無理強いは絶対にしないようにしましょう。
段階的な指導ステップ
- 水に手で触れる・顔にかける
- 先生や友達と一緒に、水鉄砲やジョウロで遊ぶ感覚で。
- 口元だけつけてブクブク泡遊び
- 「アヒルさんみたいにブクブクできるかな?」など、遊びを取り入れて。
- 鼻〜目まで顔に水を近づける
- 「お顔にシャワーをかけるみたいに、お水を近づけてみようか」
- 一瞬だけ顔をつける「水にチュー」
- 水面に口だけつけて「チュー」と音を出す練習から始めます。
- 5秒顔つけ → 息を吐く練習
- 「1、2、3、4、5!すごい、できたね!」と、できた時間を具体的に伝えることで達成感を高めます。
効果的な声かけ
- 「先生も一緒にやってみるね!」(共感と安心感を与える)
- 「水に少し仲良くなれたね!すごい発見だ!」(肯定的な言葉で前向きな気持ちを育む)
- 「自分でやってみたね、すごい!勇気を出してくれてありがとう」(行動を具体的に認め、自己肯定感を高める)
- 「怖い気持ちもわかるよ。無理しなくていいからね」(気持ちを受け止める)
5. 泳いでいる子の技能を伸ばす声かけ術
子どもが「自分はできる!」と実感できる声かけは、学びの大きなエンジンになります。特に支援級の子どもたちには、具体的に「何が」「どう」良かったのかを伝えることが大切です。
タイプ | 目的 | 例文 |
---|---|---|
🟢 承認 | 自信を育てる | 「今のキック、すごくリズムよかったね!頑張ったね」 |
🔵 意識づけ | 技術向上を促す | 「手をもっと遠くにのばすともっと進むよ、やってみようか」 |
🟡 挑戦 | さらなる技能向上 | 「次は息継ぎも入れて10m泳いでみようか?先生が横で見てるからね」 |
🏊♂️ 技能別の具体的な声かけ例
- キック(バタ足)
- 「足の先からパシャパシャって水がはねてたね、グッド!」
- 「ひざじゃなくて、ももから動かしてみよう!もっと進むよ」
- ストリームライン(けのび)
- 「すごい!体がまっすぐでロケットみたいだったよ。かっこいいね」
- 「手と手をぎゅっとくっつけて、もっと遠くまで進めそうだよ」
- 手のかき(ストローク)
- 「大きな弧をかいてて、水をたくさんつかめてたね。上手!」
- 「手を水の中でまっすぐ後ろに押してみよう!もっと力強くね」
- 呼吸(息継ぎ)
- 「顔を横に上げるタイミング、バッチリだったよ!さすがだね」
- 「ストロークに合わせて、ゆっくり息を吸ってみよう。焦らなくて大丈夫だよ」
- 全体の泳ぎ
- 「前より長く泳げるようになったね!すごい成長だよ」
- 「体がまっすぐでとってもきれいなクロールだったよ。見事だね!」
効果的な言い換え&声かけの工夫
NGワード | 言い換え例 |
---|---|
「ちゃんとやって!」 | 「〇〇を意識してやってみよう」 |
「まだできないね」 | 「もうここまでできるようになったね!すごいよ」 |
「もっと速く泳いで」 | 「小さく速いキックで進んでみようか」 |
ポイントまとめ
- 「見ているよ」というメッセージを常に込めることで、子どもは安心感を持ち、意欲的に取り組めます。
- 失敗しても認める言葉:「がんばってたの、先生見てたよ」「〇〇しようとしてたね、惜しかった!」
- 行動→理由→評価の順で伝えると、子どもは納得しやすく、次の行動につながりやすくなります。例:「今のキック、足の先がピンと伸びてたから(行動→理由)、すごく水が進んだね!(評価)」
✨ まとめ:支援級水泳指導のキーワードは「小さな成功体験」
特別支援学級の子どもたちにとって、泳力そのものよりも「水に慣れた」「顔をつけられた」「自分でできた!」といった、日々の小さな成功体験が何よりも大切です。その一つひとつの積み重ねが、やがて大きな自信となり、泳ぎの技能向上にもつながります。
先生の笑顔と前向きで具体的な声かけは、子どもたちにとっての「心の浮き輪」になります。子どもたちの「できた!」をたくさん見つけ、それを一緒に喜び、自信を育んでいきましょう。
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