特別支援教育に携わる先生方の多くが、日々感じているであろう違和感について、今回は深く掘り下げていきたいと思います。それは、発達障害のある子どもたちと知的障害のある子どもたちを、「特別支援」というひとつの枠組みで同じ活動をさせている現状です。資源の制約や専門性の問題があることは承知の上ですが、両者の特性は大きく異なり、個別化された支援が十分に提供されていないことには、多くの問題があると考えられます。
発達障害の特性と集団活動のミスマッチ
特にASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ子どもたちは、以下のような特性から、知的障害のある子どもたち向けの活動に馴染みにくいことがあります。
- 社会性の特性: 場の空気を読んだり、暗黙のルールを理解したりすることが苦手な場合があります。そのため、ジャンケン列車のような集団遊びでは、参加すること自体に意味を見出せなかったり、周囲との関わり方に戸惑ったりすることがあります。
- 興味の偏り・こだわり: 特定の物事に強い興味を持ち、それ以外の活動には関心を示しにくい傾向があります。自分の興味のない活動を強制されることは、大きなストレスにつながりかねません。
- 感覚過敏・鈍麻: 音や光、他者との身体的接触など、特定の感覚刺激に過敏であったり、逆に鈍麻であったりすることがあります。集団活動のざわざわした雰囲気や不意の接触は、不快に感じられることが少なくありません。
- 認知特性: 抽象的な指示の理解が難しかったり、同時に複数の情報を処理するのが苦手だったりすることがあります。遊びのルールを理解するのに時間がかかったり、周囲のペースについていけない場合もあります。
- 身体の不器用さ: 運動面での協調運動の困難など、身体の不器用さがある場合、身体を動かす遊びで周囲との差を感じてしまうこともあります。

これらの特性を持つ発達障害のある子どもたちにとって、中学生になっても「ジャンケン列車」のような活動を強いられることは、苦痛でしかなく、自己肯定感を著しく下げる要因となります。彼らに本当に必要なのは、年齢や発達段階に合った、個別化された支援や活動の機会なのです。
「特別支援」という枠組みが抱える問題点
特別支援教育の現場では、先生方が日々奮闘されていることは重々承知しています。しかし、発達障害と知的障害をひとまとめにすることで、以下のような問題が生じているのも事実です。
- 適切な支援の欠如: 発達障害のある子どもに必要なのは、社会性のスキルを育むためのスモールステップでの支援や、興味を尊重した学習機会、感覚特性への配慮です。これらが、知的障害のある子ども向けの活動の中で十分に提供されないことがあります。
- 学習機会の損失: 本来であれば、その年齢や発達段階に応じた学習内容に取り組むべき時期に、不適切な活動を強いられることで、貴重な学習機会を失う可能性があります。
- 不適応行動の誘発: ストレスや不満が募ることで、不登校や問題行動につながることもあります。
- 誤解と偏見の助長: 発達障害と知的障害が混同されることで、「発達障害=知的障害」という誤った認識が社会に広まり、発達障害のある方々への偏見を助長する恐れもあります。

今後の課題と展望:個別最適な学びの実現に向けて
特別支援教育は、個々のニーズに応じた「個別最適な学び」の実現を目指しています。しかし、現状ではまだまだ課題が多いのが実情です。発達障害の特性を深く理解し、それに基づいた適切な支援を提供するためには、以下のような取り組みが求められます。
- 教員の専門性向上: 発達障害と知的障害、それぞれの特性に応じた専門的な知識やスキルを持つ教員の育成が不可欠です。
- 個別支援計画の充実: 一人ひとりの特性やニーズを詳細に把握し、具体的な支援内容を盛り込んだ個別支援計画の策定と実施をより一層充実させる必要があります。
- 多様な活動機会の提供: 年齢や発達段階、興味に応じた多様な活動を選択できる機会を確保することが重要です。画一的な活動ではなく、選択肢を広げることで、子どもたちの意欲を引き出すことができます。
- インクルーシブ教育の推進: 発達障害のある子どもたちが、通常の学級で適切なサポートを受けながら学ぶことができる環境の整備は、社会全体の理解を深める上でも不可欠です。

私たちは、子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すために、「特別支援」という枠組みにとらわれず、個々の特性とニーズに真摯に向き合うことが求められています。日々の実践の中で感じている違和感を、より良い教育を築き上げていくための原動力に変えていきましょう。
先生方は、このような課題に対して、日々の実践の中でどのような工夫をされていますか?ぜひ、皆さんのご意見や実践例を教えてください。
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