特別支援学級に最適な学級目標の作り方~一人ひとりが輝ける具体的な目標設定~

実践アイデア集

通常学級との学級目標の違いについて知りたい人は、こちらのブログ記事がおすすめです。👇

特別支援学級の担任として、こんな悩みはありませんか?

  • 「学校全体の方針で『思いやりのあるクラス』という目標を掲げなければならないが、具体的にどう指導すればいいかわからない」
  • 「掲示用の立派な目標を作ったものの、実際の指導とは乖離している」
  • 「多様な特性を持つ子どもたちに、一律の目標を当てはめることに違和感がある」

この記事では、「理念を示す掲示用目標」と「実践的な個別目標」を両立させる方法を、理論と実践の両面から詳しく解説します。

具体的な学級目標は案が知りたい方は、こちらの記事がオススメです。⤵︎

特別支援学級の目標設定における3つの矛盾

1-1. 学校の方針と個別支援のジレンマ

多くの学校では「道徳的で美しい目標」が求められますが、特別支援学級では:

  • 自閉症の児童には抽象的な目標が理解できない
  • ADHDの児童には長期目標の維持が困難
  • 知的障害のある児童には複雑な目標が適応できない

1-2. 掲示の形式と実用性の乖離

従来の学級目標の課題

  • 紙に書いて貼るだけの「飾り」になりがち
  • 実際の指導とは無関係なケースが多い
  • 目標と評価が結びつかない

1-3. 多様性と統一性の両立難しさ

特別支援学級では、

  • 一人ひとりの目標が異なるのが当然
  • しかし「学級」としてのまとまりも必要
    → この矛盾をどう解決するか?

2段階目標設定の理論的根拠

2-1. 特別支援教育の基本原理から見た妥当性

  • UDL(ユニバーサルデザイン・フォー・ラーニング)理論
    多様な学習者に対応するためには、目標も複数の表現方法が必要
  • ABA(応用行動分析)の視点
    具体的で測定可能な行動目標が効果的

2-2. 発達心理学に基づく目標設定

  • ピアジェの認知発達理論:
    発達段階に応じた目標設定の重要性
  • ヴィゴツキーの最近接発達領域:
    個々の「できる」を少し超えた目標設定

ピアジェの認知発達理論では、子どもは段階的に思考力を発達させます。各発達段階に合った目標を設定することで、無理なく理解を深め、学びを効果的に促すことができます。

ヴィゴツキーの最近接発達領域は、子どもが一人では難しいが支援があればできる領域。そこに目標を置くことで、学びを引き出し、成長を促す効果的な支援が可能になります。

実践的ガイド:2段階目標の具体的作成法

3-1. 掲示用目標の作り方(理念編)

良い例と悪い例の比較

×「仲良く助け合うクラス」
○「ちがうやり方も いいね みんなで たのしい がっきゅう」

作成のポイント

  1. 5W1Hを明確に
  2. 肯定的表現を使用
  3. 視覚的要素を取り入れる
  4. 児童と一緒に作成するプロセスが重要

3-2. 個別行動目標の作り方(実践編)

特性別目標設定例

自閉症スペクトラム児童

  • 「授業開始時、指定席に着席する」
  • 「嫌なことがあったら、『いやです』カードを提示する」

ADHD児童

  • 「タイマーが鳴るまで、作業に取り組む」
  • 「発言する前に手を挙げる」

知的障害児童

  • 「給食の準備で、自分の食器を運ぶ」
  • 「朝の会で、名前を呼ばれたら手を挙げる」

目標設定シートの活用例

児童長期目標短期目標評価方法
Aさん自己主張ができる「やめて」と言える週3回以上
Bさん集中力を高める5分間着席タイマー記録

年間を通した運用マニュアル

4-1. 学期ごとの目標管理サイクル

  1. 4月:実態把握期間
  2. 5-7月:基礎スキル定着期
  3. 9-12月:スキル拡大期
  4. 1-3月:統合応用期

4-2. 目標の見える化テクニック

  • カラフルなピクトグラムの活用
  • 達成度がわかるガントチャート
  • デジタルツールを活用した進捗管理

カラフルピクトグラムとは、色を使って視覚的に分かりやすく表現されたピクトグラム(絵文字・記号)のことです。

地図上で色付きのピクトグラムを使って、観光名所やトイレ、レストランなどを表示

学校で使う「カラフルな教科アイコン」(国語=赤、算数=青など)

福祉施設での「生活動作を示すカラー付きイラスト」

ガントチャートとは、作業の進行状況を視覚的に表すスケジュール管理ツールの一つです。プロジェクト管理などでよく使われます。

【具体的事例】

目標: 「給食の準備を3工程で行う」

曜日エプロン着用箸セッティング配膳総合評価
🌟🟡
🌟🌟🟢
🌟🌟🌟🟢💫

凡例:

  • 🌟:自力達成
  • △:部分達成(支援あり)
  • 🟡:50%達成
  • 🟢:100%達成
  • 💫:特別褒章

【指導のコツ】

  1. 朝の会で確認:「今日はどこまで頑張る?」と指さし
  2. 即時フィードバック:達成都度、シールを貼らせる
  3. 振り返り:金曜日に「今週の星を数えよう」

4-3. 保護者との連携方法

  • 個別目標シートの家庭共有
  • 月1回の目標進捗報告
  • 家庭と連動した強化方法

まとめ:目標設定は教育の設計図

特別支援学級の目標設定は:

  1. 理念と実践を分けて考える
  2. 個別性と全体性を両立させる
  3. 見える化と評価システムを構築する

この3つのポイントを押さえることで、形式的な目標から、実際の成長を促す生きた目標へと変わります。

特別支援学級の学級目標の具体例

1. 理念目標と実践目標のペア例

【理念目標】「ちがうのも いいね! みんなで たのしい がっきゅう」

実践目標例:

  • ASD児童:「自分の好きな遊びを1回紹介する」(ソーシャルスキル)
  • ADHD児童:「友達の話を3秒間聞く」(衝動性コントロール)
  • 知的障害児童:「朝の会で名前カードを貼る」(ルーティン形成)

指導のポイント:

  • 紹介が苦手な子には「先生と一緒に」からスタート
  • 3秒間のタイミングは砂時計で可視化
  • 名前カードはマグネット式で貼りやすく

【理念目標】「じぶんの ペースで そだてる ちから」

実践目標例:

  • 書字困難児:「ひらがな1文字をなぞる」(微細運動)
  • 感覚過敏児:「イヤーマフを自分で装着する」(自己調整)
  • 知的障害児:「体操の順番をまねする」(模倣スキル)

環境調整:

  • なぞり書き用に太いマーカーを準備
  • イヤーマフは各自の机に常備
  • 模倣は教師がゆっくり動作分解

2. 特性別・実践目標の詳細事例

【自閉症スペクトラム児童】

理念:「わかりやすい きもちの つたえあい」
実践:

  1. 「感情カードで『うれしい』を選ぶ」(1日1回)
  • 給食後など決まった時間に実施
  • 最初は2択からスタート
  1. 「『まって』カードを提示して待つ」
  • 順番待ちの練習用に専用カード作成
  • 成功時はすぐに強化

視覚支援:

  • 感情カードは実写真を使用
  • 待ち時間はタイマーで表示

【ADHD傾向のある児童】

理念:「ちょっとずつ ちからを ためす」
実践:

  1. 「フットレストを使って5分間着席」
  • 振り子式フットレストで体幹サポート
  • 成功ごとにシールを貼る
  1. 「発言前に深呼吸1回」
  • ポスターで手順を提示
  • 教師がモデルを示す

行動支援:

  • タイマーは振動式を使用
  • 衝動的な発言には「深呼吸カード」を提示

【知的障害のある児童】

理念:「いっしょに できる よろこび」
実践:

  1. 「友達とボールを1往復パス」
  • 距離は1mから開始
  • 教師が手を添えて支援
  1. 「給食で『ください』と指さす」
  • 選択肢を2品に限定
  • 正解したらすぐ提供

教材工夫:

  • ボールは大きめの柔らかいもの
  • 指さし用に食品の実物写真を用意

3. 学期ごとの目標発展例

【1学期】基礎スキル形成期

理念:「あんしんして すごせる きほん」
実践:

  • 着席時はクッション使用(全員)
  • トイレのサインカード提示(必要な児童)
  • 名前呼びに手を挙げる(全員)

【2学期】社会性拡大期

理念:「ともだちと かかわる たのしさ」
実践:

  • 自由遊びで1回道具を貸す(ASD児)
  • グループ活動で1役割を担う(ADHD児)
  • 友達の真似をして体操(知的障害児)

【3学期】統合応用期

理念:「じぶんで きめて やってみる」
実践:

  • 休み時間の活動を絵カードから選択(ASD児)
  • 係活動を1週間継続(ADHD児)
  • 朝の準備を3工程で完了(知的障害児)

4. 保護者連携の具体例

【家庭と連動した目標設定】

  1. 学校目標:「給食の配膳を手伝う」
    家庭目標:「食器を運ぶ」
    → 同じ食器を使用して般化を促進
  2. 学校目標:「『やめて』と言う」
    家庭目標:「兄弟からおもちゃを取られる時に言う」
    → 同じフレーズを使用

【進捗報告の実際】

  • 毎金曜日に「目標達成シート」を持ち帰り
  • 達成度を◎○△で評価
  • 家庭でのエピソード記入欄を設置
  • 月1回の個別面談で調整

5. 環境設定の具体例

【教室レイアウト】

  • 目標達成コーナーを設置:
  • 個別目標のピクトグラム掲示
  • 達成ステッカーを貼るマップ
  • 成功時のご褒美ボックス

【教材・教具】

  • タイマー:振動式・砂時計・デジタルの3種類
  • クッション:空気式・ウレタン式・ビーズ式
  • コミュニケーションツール:
  • 感情カード(4段階の大きさ)
  • 要求用ピクトグラムブック
  • タッチ式音声出力機器

これらの具体例は、あくまで一例です。重要なのは

  1. 理念目標と実践目標を明確に連動させる
  2. 個々の児童の「今」に合わせて調整する
  3. 成功体験を積み重ねられる仕組みを作る

特別支援学級の目標設定は、単なる「お題目」ではなく、日々の指導の羅針盤となるよう、具体的で意味のあるものにしていきましょう。

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