特別支援学級の学級目標を考えるとき、こんな悩みはありませんか?
「『思いやりのあるクラス』では、子どもたちに何をすればよいのか伝わりにくい」
「学級目標は掲示したけれど、日々の指導と結びついていない」
「一人ひとり目標が違うのに、学級全員で同じ目標を持たせてよいのだろうか」

特別支援学級では、学年も学習状況も、コミュニケーションの方法も、学校生活で困りやすい場面も一人ひとり異なります。
そのため、学級全体の共通目標だけですべての子どもの指導目標を表そうとすると、どうしても無理が出てきます。
そこで私が実践上、整理しやすいと感じているのが、
- 学級全体で共有する「共通目標」
- 一人ひとりの実態から考える「個別の指導目標」
を分けて考える方法です。
この記事では、この考え方を便宜上「2層で考える学級目標」として紹介します。
これは制度上定められた名称ではなく、特別支援学級で学級目標と個別の指導をつなげやすくするための、私なりの整理方法です。
特別支援学級の学級目標が難しい3つの理由
まず、なぜ特別支援学級では学級目標を作りにくいのかを整理してみます。
① 一人ひとりの実態や目標が大きく異なる
特別支援学級では、同じ学級の中でも、一人ひとり必要としている支援が異なります。
例えば、
- 困ったときに援助を求めることを目標にしている子
- 予定変更を確認して次の活動へ移ることを目標にしている子
- 自分に合った方法で気持ちを整えることを目標にしている子
- 身支度を自分で進めることを目標にしている子
- 自分の気持ちや要求を伝える方法を増やすことを目標にしている子
など、同じ学級でも目指す姿はさまざまです。
そのため、学級目標をそのまま全員の個別目標にするのではなく、「学級として大切にしたい方向性」と「一人ひとりの具体的な目標」を分けて考えることが大切です。
② 抽象的な言葉だけでは行動につながりにくい
「思いやり」
「仲良く」
「最後まで頑張る」
こうした言葉は学級の方向性を表す言葉としては使えますが、具体的に何をすればよいのか分かりにくい場合があります。
その場合は、
「思いやりって、どんな行動?」
と、目の前の子どもの実態に合わせて具体化していく必要があります。

③ 「掲示する目標」と「指導する目標」が混同されやすい
学級目標を大きく掲示しても、それだけで子どもの行動が変わるわけではありません。
一方で、個別の指導計画に書かれる目標をそのまま学級目標にする必要もありません。
この2つは役割が違います。
特別支援学級の学級目標は「共通目標+個別の指導目標」で考える
私は、学級目標を考えるとき、次の2層に分けて整理しています。
| 種類 | 役割 | 考え方 |
|---|---|---|
| 学級の共通目標 | 学級全体で大切にしたい方向性を共有する | 短く、子どもに伝わりやすい言葉で表す |
| 個別の指導目標 | 一人ひとりの実態に応じて、具体的に育てたい力を整理する | 実態把握や個別の指導計画をもとに設定する |
例えば、学級全体では、
「じぶんも みんなも たいせつに」
という目標を共有するとします。
でも、その目標に向かう具体的な姿は全員同じでなくて構いません。
- Aさん:困ったときに「手伝ってください」と伝える
- Bさん:友達が話しているときに、自分に合った方法で話を聞く
- Cさん:活動が終わったら使った道具を片付ける
- Dさん:嫌なときに、言葉・カード・ジェスチャーなどで意思を伝える
このように、同じ学級目標に向かいながら、それぞれ違う目標を持つことができます。
特別支援学級で使いやすい学級目標の例
学級全体で共有する目標は、子どもたちの実態や学校の教育目標に合わせて考えます。
例えば、次のような言葉が考えられます。
| 大切にしたいこと | 学級目標の例 |
|---|---|
| 自分と他者を大切にする | じぶんも みんなも たいせつに |
| それぞれの違いを認める | みんな ちがって みんないい |
| 挑戦する | じぶんのペースで やってみよう |
| 助けを求める | こまったら つたえよう |
| コミュニケーション | きいて つたえて つながろう |
| 安心して過ごす | あんしんして すごせる きょうしつに |
| 互いの得意を生かす | それぞれの いいところを いかそう |
| 小さな成長を大切にする | きのうのじぶんから いっぽずつ |
ここで大切なのは、「どの学校でもこの言葉が正解」というものではないことです。
子どもたちと相談しながら言葉を選んだり、学校全体の教育目標とつながる言葉にしたりして構いません。
学級目標を作るときの4つのポイント
- 子どもが理解できる言葉にする
- できるだけ肯定的な表現にする
- 必要に応じて写真・イラスト・文字などを添える
- 子どもたち自身が目標について考える機会を作る
視覚的な手掛かりが理解につながる子には、写真やイラスト、文字、ピクトグラムなどを添えることも考えられます。
ただし、どのような提示方法が分かりやすいかは一人ひとり違うため、子どもの反応を見ながら選びます。
個別の指導目標は「障害名」ではなく「実態」から考える
個別の目標を考えるときに、特に注意したいことがあります。
「ASDだからこの目標」
「ADHDだからこの支援」
と、障害名だけから目標や支援方法を決めないことです。
同じような行動が見られても、その背景は違うことがあります。
例えば「席を離れる」という姿だけを見ても、
- 課題の意味が分からない
- 書く量が多く負担になっている
- 周囲の音や人の動きが気になる
- 体を動かしたい
- 活動の終わりが分からない
- 困っていることを伝える方法が分からない
など、考えられる背景はさまざまです。
だからこそ、目標を決める前に「なぜこの姿が見られるのだろう?」と考えることが重要です。
個別の指導目標を考える基本の流れ
- 現在できていること・困っていることを整理する
- 困りごとの背景を考える
- 今、優先して育てたい力を絞る
- 目標を具体的な姿で表す
- 必要な支援や環境調整を考える
- 実際の姿を見取り、必要に応じて見直す
困りごと別|個別の指導目標の具体例
ここからは障害名ではなく、実際に学校生活で見られる困りごとや指導のねらいごとに例を紹介します。
そのまま児童に当てはめるのではなく、実態に合わせて調整してください。
① 自分の気持ちや要求を伝えることが難しい場合
- 困ったときに、言葉・カード・ジェスチャーなど自分に合った方法で援助を求める
- 嫌なときに「いや」「やめて」など、自分に合った方法で意思を伝える
- 選択肢の中から、自分がしたいことを選んで伝える
- 休憩が必要なときに教師へ伝える
支援例:言葉だけに限定せず、写真・絵カード・文字・指差し・タブレットなど、その子が使いやすいコミュニケーション手段を準備します。
② 予定変更や活動の切り替えで困りやすい場合
- 次の活動を確認してから移動する
- 予定が変わったときに変更内容を確認する
- 分からないときに教師へ質問する
- 活動の終わりを確認し、次の活動へ移る
支援例:必要に応じて、予定表、活動カード、文字、写真、タイマーなどを使い、見通しを確認できるようにします。
③ 気持ちを整えることに支援が必要な場合
- 自分の気持ちや体の状態に気づく
- 落ち着きにくいときに、休憩・深呼吸・場所の移動など、自分に合った方法を選ぶ
- 気持ちが整ってから活動へ戻る
- 困ったときに大人へ相談する
支援例:落ち着き方を一つに決めつけず、本人と一緒に「使えそうな方法」を探します。
④ 学習への取り組み方に支援が必要な場合
- 課題の手順を確認してから取り組む
- 一つの課題が終わったら、次にすることを確認する
- 分からない問題があるときに援助を求める
- 必要に応じて休憩を取りながら学習を続ける
支援例:課題量、提示方法、休憩、座席、ICT、手順表など、学習内容と本人の実態を踏まえて調整します。
⑤ 身の回りのことを自分で進めることを目指す場合
- 朝の準備を手順表を確認しながら進める
- 給食の準備で自分が担当する仕事を行う
- 使った道具を決められた場所へ片付ける
- 必要な持ち物を確認して準備する
支援例:一連の活動を小さな工程に分け、どの工程なら一人でできるのかを確認します。必要な部分だけ支援し、できる部分まで大人が代わりに行わないことも大切です。
⑥ 感覚や周囲の環境によって参加しにくい場合
- 苦手な刺激に気づいたとき、自分に合った方法で伝える
- 必要に応じてイヤーマフや休憩場所などを利用する
- 活動へ参加しやすい場所や方法を選ぶ
- 教師と相談しながら、自分に合った環境を考える
大切なのは、刺激に無理に慣れさせることを目標にするのではなく、本人が学習や生活へ参加しやすくなる方法を一緒に探すことです。
📋 個別の目標を指導計画へ落とし込みたい先生へ
個別の指導計画 文例集・コンプリートセット
1〜6年生+自立活動に対応した文例をまとめています。「実態は見えてきたけれど、長期目標・短期目標・支援の手立てをどう文章にすればよいか迷う」というときの参考にできます。文例はそのまま当てはめず、目の前の児童の実態に合わせて調整して使ってください。
文例集の詳しい内容を見る個別目標は「必ず数値化」しなくていい
個別の指導目標は、指導後に子どもの変化を振り返れるよう、できるだけ具体的に設定します。
ただし、
「週3回できる」
「5分間座る」
「3秒聞く」
のように、すべての目標を数値化する必要はありません。
数値が指導や評価に役立つ場合には使えますが、数値そのものが目的にならないよう注意します。
例えば、
抽象的な目標
コミュニケーション能力を高める。
具体化した例
困ったときに、言葉・カード・ジェスチャーなど自分に合った方法で教師へ援助を求める。
とすれば、実際の場面を見ながら変化を確認できます。
「評価できる目標」とは、必ずしも「数字で測る目標」ではなく、子どもの姿として確認できる目標と考えると分かりやすいです。
学級目標と個別目標をつなぐ具体例
学級の共通目標と個別の指導目標を別々に考えるだけでなく、両者の方向性がつながっていると、日々の指導でも使いやすくなります。
例①「じぶんも みんなも たいせつに」
| 実態・ねらい | 個別の指導目標例 | 支援例 |
|---|---|---|
| 要求を伝えることが難しい | 困ったときに自分に合った方法で援助を求める | 言葉・カード・指差しなど複数の方法を用意する |
| 友達とのやり取りが続きにくい | 相手の話を聞いた後、自分の考えを伝える | 話す・聞く順番を確認できる手掛かりを用意する |
| 身の回りの整理に支援が必要 | 活動後、使った物を決められた場所へ戻す | 収納場所を分かりやすく示す |
例②「じぶんのペースで やってみよう」
| 実態・ねらい | 個別の指導目標例 | 支援例 |
|---|---|---|
| 書くことへの負担が大きい | 自分に合った方法を選びながら課題へ取り組む | 記述・選択・ICTなど複数の方法を検討する |
| 音が気になり学習しにくい | 必要に応じて教師に伝え、環境を調整する | 座席変更・イヤーマフ・休憩などの選択肢を用意する |
| 新しい活動に不安がある | 活動内容を確認し、できそうなところから参加する | 手順や終了の見通しを確認する |
学級目標を「貼って終わり」にしない運用方法
学級目標は、4月に作って掲示したままでは、次第に意識されなくなってしまいます。
大切なのは、必要な場面で立ち返れるようにすることです。
① 日常の出来事と学級目標を結びつける
例えば、「じぶんも みんなも たいせつに」という目標なら、
友達に「大丈夫?」と声をかけた場面で、
「今の行動は、学級目標の『みんなを大切に』につながっていたね」
と具体的な行動と結びつけます。
目標の言葉と実際の生活場面がつながることで、「この言葉はこういう意味なんだ」と理解しやすくなります。
② 一人ひとりに合った方法で振り返る
振り返り方も全員同じでなくて構いません。
- 言葉で振り返る
- 写真から選ぶ
- できた場面をカードで確認する
- 「できた・もう少し」などから選択する
- 教師と一緒にエピソードを振り返る
シールやチェック表が分かりやすい子には、それらを使う方法もあります。
ただし、シールを集めること自体が目的にならないようにすることも大切です。
③ 達成できなければ「本人の努力不足」ではなく目標や支援も見直す
個別目標がなかなか達成できないときは、本人だけに原因を求めません。
- 目標が高すぎなかったか
- 課題の意味が本人に伝わっているか
- 支援方法が本人に合っているか
- 環境による負担はないか
- そもそも優先すべき目標だったか
を見直します。
年度当初に設定した目標も、実際の児童の姿を見ながら修正して構いません。
年間を通して学級目標と個別目標を見直す
年度初めに設定した目標を1年間固定する必要はありません。
| 時期 | 確認したいこと |
|---|---|
| 4月ごろ | 前年度の記録、本人・保護者の願い、実際の学校生活から実態を把握する |
| 1学期 | 設定した目標や支援方法が本人の実態に合っているか確認する |
| 2学期 | できるようになったことを踏まえ、場面や相手を広げられるか検討する |
| 3学期 | 1年間の変化を振り返り、次年度へ引き継ぐ内容を整理する |
「年度初めに決めたから変えられない」のではなく、実態に合わなくなったら修正することが重要です。
保護者とは「同じ目標をやってもらう」のではなく方向性を共有する
個別の目標を考えるとき、保護者との情報共有も大切です。
ただし、学校で設定した課題をそのまま家庭でも練習してもらう必要はありません。
学校と家庭では環境も役割も違います。
例えば学校で、
「困ったときに援助を求める」
ことを目標にしている場合、家庭で同じカードを使うことよりも、
- 家庭ではどんなときに援助を求めているか
- どんな伝え方なら本人が使いやすいか
- 最近できるようになったことは何か
といった情報を共有する方が、学校での支援を考える手掛かりになる場合があります。
保護者の願い、本人の思い、学校での実態をすり合わせながら目標を考えていくことが大切です。
よくある学級目標の失敗例
失敗① 学級目標を全員の個別目標にする
「みんな仲良く」を学級目標にしたからといって、全員の個別目標を「友達と仲良くする」にする必要はありません。
個別の指導目標は、その子の実態から考えます。
失敗② 障害名から目標を決める
診断名や在籍する学級の種類だけを見て、目標や支援方法を決めると、一人ひとりの実態とのズレが生まれることがあります。
障害の状態だけでなく、発達や経験、得意なこと、興味・関心、学校生活や学習環境なども含めて考えます。
失敗③ 「座る」「我慢する」こと自体が目的になる
「10分座る」「最後まで我慢する」といった行動だけを見ると、本来の困りごとが見えなくなることがあります。
例えば離席が多い場合は、「座らせる」ことから考えるのではなく、なぜ席を離れるのか、どのような環境なら学習へ参加しやすいのかを考えます。
失敗④ 目標が多すぎる
困りごとがたくさん見つかると、すべて目標にしたくなります。
しかし、一度に多くの目標を設定すると、指導の重点が分かりにくくなります。
本人が特に困っていることや、ほかの活動にも影響していることなどを整理し、優先順位をつけて考えます。
まとめ|学級目標は「みんな同じにするための目標」ではない
特別支援学級の学級目標を考えるときに大切なのは、「全員を同じ姿にすること」ではありません。
学級として大切にしたい方向を共有しながら、一人ひとりが自分に必要な目標に取り組めるようにすることです。
- 学級の共通目標は、クラスとして大切にしたい方向を示す
- 個別の指導目標は、一人ひとりの実態から考える
- 障害名だけで目標や支援を決めない
- 目標は具体的にするが、無理に数値化しない
- 達成できないときは、目標や支援、環境も見直す
- 本人・保護者・関係する先生と情報を共有しながら調整する
私自身、学級目標で一番大切なのは、立派な言葉を考えることではなく、その言葉が日々の子どもの姿とつながっていることだと感じています。
「この子の困りごとを少しでも減らすために、今年はどんな力を一緒に育てていこうか」
そこから考えてみると、学級目標も個別の目標も作りやすくなります。
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